美女と魔獣③ その日の夜
その日の夜。
アルとエルが宿屋へと向かった後の事。
村長宅には村長とアイシー、そしてジェイドの三人。
食卓を囲み、三人が膝を突き合わせていた。
「それで、村長。お話とはなんでしょうか」
普段から少しぶっきらぼうな村長だが、今日はそれとも違った物々しい雰囲気。
何かただ事ではないと、ジェイドはそう悟り、居住まいを正す。
「お父様、私もう眠たいわ……」
対して、アイシーはふわふわと、もう落ちそうな瞼を擦っていた。
「私たち家族にとって、延いてはこの村にとって大切な話だ。アイシーもよく聞きなさい」
アイシーもその村長の声色で目が覚めたのか、息を呑む。
「――お前たち、まだお互いに結婚する意志は有るか」
村長は改めて、二人の気持ちを問う。
「ええ、勿論よ。お父様の許可が頂けるのなら、明日にだってジェイドと一緒になりたいわ」
「はい。私はアイシーの事を心から愛しております」
二人は、自分の正直な気持ちを述べる。
「――村にはジェイドの事を厄介に思う者も少なくは無い」
「障害が有るのは承知の上です。ですが、必ず乗り越えて、アイシーの事を幸せにしてみせます」
数秒の沈黙の後、村長は「……はあ」と一つ小さく溜息を吐いた。
そして、
「良いだろう。私は、お前たちの結婚を認めてやる」
「お父様! 本当!?」
「ありがとうございます!」
驚き、喜んだアイシーとジェイドは思わず立ち上がる。
「――しかし、だ。すぐにという訳には行かない」
「どうして?」
「まずは村の者たちを説得せねばならん。勿論私も助力しよう。しかし、何よりお前たちの頑張り次第だ、分かるな?」
「はい! 勿論です。皆様にも受け入れて頂けるように、万進致します」
ジェイドは深く、頭を下げる。
「お父様、本当にありがとう! 私も頑張りますわ」
そして、アイシーも続けて頭を下げた。
「ああ。――ジェイド、アイシーを頼んだぞ」
「はい。必ず、必ず、幸せにしてみせます――!」
そして、夜は更けてゆく。
明日は豊作祈願の祭りの日だ。
きっと、そこで二人の婚約が発表される事だろう。
これからの二人の人生には数々の障害が立ちふさがる事だろう。
しかし、愛し合う二人ならば、それも乗り越えていけるはずだ。
そして、皆が寝静まった頃。
がたん、と村長宅の納屋で物音がした。
それに気づいたのは、腰痛から寝付きの浅かった村長だった。
「……物盗りか?」
祭りの前のこの時期には、納屋には祭りで振舞われる予定の果実酒が収められている。
それを待ち切れない村の者――なら良いのだが、他所から来た物盗りの可能性も有る。
村長はジェイドを起こしてから、共に見に行こうかと思い、部屋の前へ行って扉を軽く叩く。
しかし、反応は無い。
扉越しにも、人の気配は無い様だ。
村長は寝る前の事を思い出し、「ああ」と納得。
勿論、納屋に居るのがジェイドという可能性も無くはないが、おそらく違うだろう。
邪魔するのも悪いと思い、村長は一人で納屋の様子を見に行く事にした。
旅の魔法使いに直してもらったばかりの魔道具のランプを手に持って、外へ出る。
夜闇の中でも、直して貰ったばかりのランプは煌々と輝いていて、以前よりも明るく照らしてくれている様に感じられた。
納屋の扉は開け放たれていた。
昨日の夕方にライフと共に確認した時に、鍵をかけ忘れていたのだろうか。
そう思って、村長は中の様子を確認しようと、納屋へと入る。
納屋の中には、人の気配が有った。
「誰か居るのか」
そうやって村長が声を上げて、ランプの灯りで気配のする方を照らす。
そして、灯りに照らされた人影が浮かび上がる。
「お前は――」
どんっ、と強い衝撃。
そして――、
―――
その夜、アイシーは夢を見た。
夢には狼の様な姿をした四足の魔獣が現れた。
それは一見、迷い人だったジェイドと出会った、あの日に襲ってきた魔獣かと思った。
しかし、そうではない。
よく似ているが、少し違う狼の様な魔獣。
何故か、魔獣はアイシーに背を向けている。
魔獣はどこを見ているのだろうか。
そう思って、アイシーは魔獣のその視線の先に目を向ける。
魔獣の奥に、もう一つの黒い影。
それは――、
目を覚ますと、アイシーは愛する獣人の腕の中だった。
昨晩の事を思い出すと、つい胸が躍る。
ついに、父親にジェイドとの結婚を認めて貰えたのだ。
きっと、あの旅人の魔法使いたちの存在が父の背中を押したのだろう、とアイシーは何となく理解していた。
まだ穏やかに眠るジェイドの頭をそっと撫でてから、リビングへと向かう。
すると、一つ違和感を覚えた。
いつもなら誰よりも早起きしている、村長である父親の姿が無い。
そして、いつもなら壁に三つ掛かっているランプ。
旅の魔法使いが直してくれたばかりそれが、一つ足りない。
お祭りの準備のために、朝早くから出ている可能性も有る。
しかし、祭りが始まるのは夜だし、昨晩最終確認した様に、準備はもう終わっている。
それに、明るいこの時間ならランプは必要無いだろう。
言い知れぬ不安感。
アイシーは父親の部屋まで行き、扉を叩く。
しかし、反応が無かったので、アイシーはそのまま部屋の扉を開ける。
そこには、やはり父親の姿は無かった。
アイシーは慌てて自室へと戻り、ジェイドを叩き起こす。
「ジェイド! ねえ、早く起きて!」
「ん……ああ。おはよう、アイシー」
ジェイドは眠気眼のまま、アイシーを見る。
「呑気に挨拶してる場合じゃ無いの! お父様の姿が、見えないのよ!」
「……なんだと」
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