美女と魔獣② 魔道具技師
その後、俺たちは戻って来たジェイドも交えて、村長宅で食事をご馳走になった。
そのお礼代わりと言ってはなんだが、俺は村長宅で使われていた魔道具の調律を請け負う事にした。
「いやはや、魔法使いの方が訪れてくれて助かりました。修理に出そうにも、街まで行かねばなりませんからな」
酒が入って、最初よりも少し砕けた様子の村長。
「まあ俺たちは技師では無いので、物理的に壊れてしまった物は直せませんが、狂った魔法式の調律くらいなら簡単に出来ますよ」
そう部屋の隅のテーブルで村長と話しながら、俺は魔道具のランプの中から魔石を取り出し、その魔石に刻まれた魔法式の調律をしている。
魔石を活用した魔法の道具、魔道具。
俺たち魔法を使える者にとっては馴染の薄い物だが、一般的には魔道具の方が身近だろう。
それは台所で火を起こしたり、ランプの灯りとして使ったり、日常の中で活用されている。
しかし、その魔道具も万能という訳でも無い。
使っている内に中の魔石に刻まれた魔法式がちょっとズレてしまうと、灯りがチカチカしたり、火が付きにくくなったり、ちょっとした不具合が出て来るのだ。
元の世界で言うところの、家電製品の寿命が来た、みたいな感じだ。
「魔法使いというのも、今や珍しいですからな」
東の大陸では魔道具の一般普及に伴って、ちゃんとした魔法使いは減って来たのだという。
そして、代わりに台頭して来たのが魔道具技師だ。
その名の通り、魔道具を作るのが彼らの仕事で、大体の場合は魔法使い崩れがそれを生業としている。
その所為か、大体は刻まれた魔法式が荒く、この様に不具合が出やすいのだ。
俺もガワさえ作れるようになればもっと質の良い魔道具を作れるだろうし、少しやってみようか、なんて思っていたりする。
そして、そうやって魔法式の調律をしている内に、俺の性分が余計な仕事をして、凝り始めてしまった。
結果、魔石に刻まれた魔法式が気に入らなかったので、今不具合が出にくい様に丸々書き直している所だ。
そんな風に俺が仕事を熟していると、
「――それでね、お父様ったら酷いのよ! ジェイドとの結婚を全然認めてくれないの!」
意気投合したエルとアイシーが、何やら盛り上がっている。
エルはうんうんとその話を聞いていて、ジェイドは少し困った様にアイシーの傍に居る。
どうやら、こういう話らしい。
ある日アイシーが森へと入ると、偶々運悪く魔獣に出くわしてしまった。
その魔獣に襲われかけていた所を助けてくれたのが、ジェイドだった。
しかし、ここは人間の村。
ジェイドの様な獣人族は見た事が無かった。
どうやらジェイドはどこかからの迷い人、しかも記憶喪失らしく、行く当ても無いのだと言う。
命を助けられた恩も有り、アイシーはジェイドを連れて帰った。
そして、共に暮らす内に、二人は恋に落ちたのだと言う。
しかし、ジェイドが獣人であるが故に村の者たちからの反対も強く、父親である村長からも結婚を認められていないのだと言う。
なんだか、少し既視感のある話だ。
森の中で記憶喪失というのは、どこか他人事な気がしない。
「いやはや、騒がしくて申し訳ないですな」
「いえ。妻も楽しそうなので、良かったです」
「お恥ずかしい限りですが、やはり村長としても、父親としても、なかなか認める訳には行かんのですよ」
「いえ、分かりますよ。俺たちの場合と違って、獣人族と人間では身体的な差異も有りますから」
俺たちの場合は馴れ初めが特殊だという事情も有るが。
それに、ジェイドの場合は突然森に現れた記憶喪失の迷い人だ。
普通の家の娘ならまだともかく、村長の娘をそんな素性の知れない男にやるなんて、難しい話だろう。
「――それでも、実は結婚を認めてやってもいいかなと、今はそう揺らいでおるのですよ」
「ほう。それはどうしてまた、心変わりを?」
意外だな、と素直にそう思った。
こういうのは大体頑なな父親を愛し合う二人がなんとか説得する、という流れだと思っていたのだが。
「あいつは見ての通り人当りも良い男で、腰を悪くした私の代わりに仕事もよく熟してくれている。やはり素性は知れん奴だが、これまで何の問題も起こして来なかった」
やはり、ジェイドの人柄が大きく作用している様だ。
獣人であるというフィルターを除いてしまえば、ただ爽やかで人当たりの良い青年だ。
一見してどこにも悪い所が無い。
「では、やはり問題は種族差、そして周囲の目、ですか」
「ええ。ですがあなた方夫婦を見ていると、異種族同士でも、アイシーでも幸せになれるのではないか。と、そう思えて来るのです」
そう言って、村長は少し気まずそうに笑う。
きっと、ずっと迷って、悩んでいたのだろう。
親として、村長としては反対するべきだ。
しかし、一方では娘の気持ちを考えて、寄り添おうとも思っていた。
そして、外面上は厳しく反対していても、一人の人間としてはジェイドの事を好ましく思っていたのだろう。
そんな時に現れた、エルフと人間の夫婦である俺たち。
その迷いの天秤を傾かせるきっかけとしては、些細ながらも充分だったかもしれない。
きっと、村長の心はもう決まっている。
そうやって村長宅での時間を過ごしていると、玄関扉の呼び金が鳴った。
「あ、自分が出ますね」
と、ジェイドが真っ先に応対しに玄関へと向かう。
「ちっ、お前かよ」
「ああ、ライフか。いらっしゃい、今日はどうしたんだい?」
「お前に用が有った訳じゃない。村長は居るか?」
ライフと呼ばれた青年はジェイドの事を良く思っていないのだろう。
そんな態度を隠そうともしない。
「ああ、勿論だ。――村長、ライフが来ました」
しかし、それに対してもジェイドは変わらず同じ調子だ。
そう言って、ジェイドはライフを中へと招き入れた。
ジェイドと同じくらい背の高いライフは、少し身をかがめて玄関を潜る。
「あら、ライフ。いらっしゃい」
「やあ、アイシー! お邪魔するよ」
ライフはジェイドに対しての棘々しい調子と打って変わって、アイシーに対しては好意的だ。
後に聞いた話で、ライフはアイシーの幼馴染なのだと言う。
こほん、と村長が咳払いをすると、ライフは村長へと向き直る。
「村長、夜分遅くに失礼します。明日の祭りの件で最終確認を、と思いまして」
「ああ、分かった。――それではアルさん、少し席を外します」
そう言って、正面に座る俺に一言断りを入れた後、村長は立ち上がり、ライフと共に家を出て行った。
窓の外へと目をやれば、納屋のある方角へと村長とライフが向かっているのがちらりと見えた。
「お祭りって、明日有るんですか?」
エルが祭りという単語に興味を示した。
「ええ、そうよ。この村では年に一度、豊作祈願のお祭りをするの」
アイシーが答える。
祭りの存在自体は小耳に挟んでいたが、まさかそれが明日だったとは。
時間間隔がおざなりになり過ぎている俺たちだったが、どうやらベストタイミングでフロウ村を訪れたらしい。
「是非お二人も明日の祭りに来てください。美味しい果実酒が振舞われますよ」
「ええ、行きます! ねっ、アルさん?」
「ああ、そうだな」
そんな楽しそうなイベント、エルが見逃すはずも無い。
明日は豊作祈願のお祭りだ。
そうして、村長宅での一時を楽しんだ後。
日も暮れて来たので、俺たちは明日の祭りに備えて、紹介してもらった宿屋に泊る事にした。
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