美女と魔獣① フロウ村
メッセージの謎、そして黒い泥にまつわる事件を追って、俺たちは東の大陸での旅を続けていた。
そんな中で、訪れたある村での出来事。
そこは、森に囲まれた小さな村だった。
その村の名を、フロウ村と言う。
果実酒が有名で、この村では年に一度豊作祈願のお祭りをするのだとか。
丁度、俺たちが森の木々の合間を縫って掻き分けて行き、村が見えて来た頃だった。
大きな丸太を担いだ、長身で逞しい獣人の男と出会った。
普通の人間であればまず間違いなく押しつぶされてしまうであろう大きさの、太い木の丸太。
彼はそれをまるで空気が詰まっているかの様に、軽々と肩に担いでいたのだ。
「いらっしゃい。旅の方ですか?」
その獣人の男は俺たちを見ると、爽やかな笑顔を浮かべて、そんな風に話しかけて来た。
狼の頭部で浮かべる、爽やかな笑顔。
「どうも。ええ、俺たち夫婦は西の大陸から来た魔法使いです」
「エルと申します。そして、こっちが旦那様のアルさんです」
俺の挨拶似合わせて、隣でエルも言葉を続けてから、軽く会釈をする。
予めこう名乗っておくと、初めて訪れる場所でも結構待遇が良い事に気付いたのは、旅をしてから少し経っての事だ。
それは既婚者であるという信頼からか、それとも西の大陸から来たという物珍しさからか、はたまた魔法使いという分かりやすい力を示したからか。
ともかく、旅人が身分を示すのは大切な事だ。
獣人の男はエルの耳に一度視線をやって、それに少し驚いた様子だった。
東の大陸ではエルフが珍しいからだろうか。
しかし、すぐに元の調子へと戻って、
「ジェイドです、どうぞよろしく」
と、名乗ってくれた。
そして続けて、
「しかし、西からとは……。それはまた、すごく遠くから来られましたね」
「妻が旅好きなので」
「新しい事がいっぱいで、楽しいです」
エルはにこにこと俺の言葉を肯定する。
「仲がよろしいんですね。素敵だと思います」
ジェイドはその笑顔の印象の通り、喋ることまで爽やかな好青年だ。
「ありがとうございます」
俺は爽やかな世事に軽く礼を返す。
しかし、その獣人を見て、俺は一つ違和感を覚えた。
それはエルも同じ様で、俺とエルは顔を見合わせる。
(アルさん、この方……)
(ああ。この魔力は多分……)
こそこそと話をしていると、
「どうかしたんですか?」
と、ジェイドは爽やかな笑顔を崩さないまま、それでも少しこちらの様子を窺う様だった。
まあ、こうやって普通にコミュニケーションを取れているし、どう見てもいい人そうだ。
早急に対処する様な危険性が無い以上、特にどうするという事も無い。
「いえ、何でもないです。ジェイドさん、すごく力持ちだなあって思って」
エルも同じ判断を下した様だ。
感じた違和を流して、そう誤魔化した。
「これですか? ああ、確かに西の人にとっては珍しいか。獣人ですからね、これくらいは朝メシ前です」
そう言って、獣人の男は丸太を担いだ腕を上下させて、爽やかな笑顔を崩さないまま、まるでダンベルでも扱うかの様にして見せた。
どうやら、獣人であればその怪力は当然の事らしい。
それはエルフ族が魔法に長けている様に、そしてエテル族が若さを保つ性質を持つ様に。
彼ら彼女ら、亜人族にはそれぞれ違った特色が有る。
しかし、一目で分かる怪力。
その見た目のインパクトから、これだけで鉄板の一芸になるだろう。
その一芸で先程感じた違和感なんてすっかり忘れてしまった。
俺とエルはそれを見て、素直に「おおー!」と感嘆の声を上げて、手を叩く。
そして、
「丁度村へ戻る所だったので、良かったら一緒にどうぞ」
と、気を良くしたジェイドに連れられて、俺たちはフロウ村に足を踏み入れた。
村へ入ると、一人の女性が待ちかねたと言わんばかりに、勢いよくこちらへと駆け寄って来た。
「ジェイド! おかえりなさい!」
「ああ、アイシー! 出迎えありがとう」
アイシーと呼ばれた女性は、やや茶色がかった黒のロングヘアを三つ編みにしている。
気品のある顔立ちをした、かなりの美人さんだ。
アイシーは駆け寄る勢いのまま、一回り大柄なジェイドへと抱き着いた。
ジェイドはそんなタックルにも微動だにせず、悠々と受け止めて、丸太を担いだ方と反対の手でアイシーの頭を撫でる。
彼らは恋人同士なのだろう。
それはこの実に微笑ましいやり取りと、そして彼らの声色からも分かる。
獣人と人間のアツアツカップルだ。
と、なんとなく先輩面してその光景を眺めていると。
「――あら? ジェイド、そちらのお二人は?」
「ああ。魔法使いの夫婦のアルさんとエルさんだ。さっき村の前で会ったんだけど、西の大陸から遥々来られたらしい」
俺たちはジェイドの紹介に合わせて、軽く「こんにちは」と挨拶を添える。
ジェイドの紹介を聞いたアイシーは、ぱっとジェイドから飛び退いた。
「遠くからご苦労様です。良かったら、うちでお休みになってください。お持て成しさせてもらいますわ」
そして、少し畏まって、スカートの端を摘んでお辞儀をして見せた。
そして、そのまま俺たちはアイシーに促されるまま付いて行く事にした。
道すがら、俺たちは西の大陸から来た話や、エルがエルフ族だという様な話をしながら歩いていると、すぐに村の中心辺りに有る大きな家まで来た。
「ここです」
うちへ、と言われて案内されたのは、フロウ村の村長の家だった。
どうやら、アイシーは村長の娘だった様だ。
持て成してくれる、と言った理由をここでやっと理解した。
客人を村長の所へ連れて行く為であり、アイシーは娘として仕事を果たした訳だ。
「村長、ただいま戻りました」
ジェイドはびしっと頭を下げる。
「お父様、ただいま! お客様を連れてきたわ!」
「ああ、おかえり」
村長と呼ばれた高齢の男性は、少しぶっきらぼうにそう答えた。
俺たちも挨拶を済ませて中へと入り、客間へと案内された。
「それじゃあ、私は先程の木を薪にして来ますので、少し失礼します」
「ジェイド、食事の時間までには戻って来てね?」
一言「ああ」とアイシーに言葉を返して、ジェイドは外へと出て行った。
そして、
「お父様、私も食事の支度をしてくるわ。お二人もごゆっくり」
と、アイシーも客間を出て行った。
客間には俺とエル、そして村長の三人が残された。
「それで、お二人はどうしてこのフロウ村へ?」
「実は、黒い泥の噂について調べていまして――」
と、俺たちは例の件について、村長に尋ねてみる事にした。
しかし、結果から言うと空振りだった。
この村ではそういった物や現象に心当たりは無いと言う。
「お力になれず、すみませんな。果実酒くらいしか取り柄の無い村ですが、良ければゆっくりとしていってください」
「ええ、ありがとうございます」
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