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【完結】少し遅れた異世界転移 ~死者蘇生された俺は災厄の魔女と共に生きていく~  作者: 赤木さなぎ
第五章 東の大陸の旅

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港町


 東の大陸の港町。


 往来する人々、その中には人間族だけでなく、獣人の様な亜人種もちらほらと見られた。


 一見した限りではその中にエルフ族の姿は見られない様だが、エルフは西の大陸のアルヴ出身の種族である事から、それも当然かもしれない。


 道の両脇には露店が並んでおり、土産物のアクセサリーや食べ物など、店によって多種多様に様々な品が無秩序に売られている。


 様々な人種が交じり合い、その活気溢れる様相は、まさに交易が盛んな港町の光景と言ったところだろう。


 そして、俺はこの東の大陸の港町に着いたらどうしても行きたい場所が有った。

 やらなければならない事が有った。


「エル~」


「はいはい、分かってますよ。ご飯、ですよね?」


 俺が名前を呼ぶと、エルは口に出さずとも全てを察してくれた。


 というよりは、むしろ俺が乗船前に散々言っていたことから、少しうんざりしていたのかもしれない。


 目的とは要するに食事だ。

 端的に言うと、俺は魚が食べたかった。


 今日のお目当ては海沿いの港町でしか味わえない新鮮な海鮮料理だ。


 俺たちは『永遠』の魔法によって、究極的には生きる為に食事を必要としない。

 しかし、嗜好品や人生の彩りとして食事を楽しんでいる。


 そして、実のところ俺はこの世界に来てから、まだまともに海鮮を食べていなかった。


 これまでの主食はパンや野菜、肉を食べるなら鶏肉が主だった。

 それもそのはず、元居た世界なさらいざ知らず、この世界では鮮度を保ったまま食品を運ぶ手段がまだ確立されていなかった。


 特に西の大陸の主な都市、王都やアルヴは内陸にある国だったので、どうしても新鮮な魚を入手する事は難しかった。


 もし『温度変化』の魔法を一般流通出来る魔導具に落とし込めれば、将来そう言った事情も変わって来るかもしれない。


 しかし、それにあたってこの世で最も魔法に精通しているであろうエルは、そういった事に対するモチベーションは今のところ無さそうだ。


 やるとしたら俺が勉強して実用化出来るかどうかと言ったところだろうが、どちらにせよまだ先の未来の事だ。


 本来であれば乗船前にも食べる機会が有るはずだったのだが、港に到着する頃には予定していた船の出航時間ギリギリだったため、食べることは出来なかった。


 そんな訳で、俺はこの東の大陸に着いてからの食事を楽しみにしていたのだ。


 俺たちは最初に目についたお洒落な外観をしていた海沿いのレストランに入った。


 幸い店内は混んでおらず、すぐに席に着けた。

 通されたのは海の見える開放感のあるテラス席。

 テラスはパラソルで日陰になっていて、風が心地いい。


「何食べます?」


「そうだなあ。色々食べたいし、適当に頼んで二人で分けようか」


 メニュー表と睨めっこをして、貝類の沢山入ったパエリア風の料理や白身魚のソテーのなど数品を注文した。


 それぞれの料理を一人前ずつ注文し、二人で分けてじっくりと味わった。

 普段の食事は適当に軽く済ませて誤魔化しているが、今日は特別だ。


 刺身の類等の生の魚介類はやはりこの世界では食べる習慣が無いらしく、メニューには載っていない様だったので、その点は少し残念だったが、どの料理も絶品だった。


 食事を済ませ店を出た後。

 暇を持て余した俺たちは露店を見て回ろうとぶらぶらと散策をしていた。


 船上で届いた謎のメッセージの送り主に関しての手がかりが全く無い以上、こちらからどうする事も出来ない。


 こうしていればその内向こうからやって来るだろう、なんて考えは楽観的過ぎるだろうか。


「もし、そこのお二人さん」


 そうして目的も無く露店を冷かして回ていると、斜め後方から少女の声が聞こえて来た。


 振り返るが、しかし声の聞こえる方向には誰も居ない。


「はい……、あれ? えっと」


 エルがきょろきょろと辺りを視線を彷徨わせる。


「こっちじゃよ、下じゃ、下」


 言われるままに視線を下げると、そこに居た。

 声の主は丁度通り過ぎたばかりの露店の店主だった。


 脇に座り込んでシートの上に木箱という簡素な造りの店構え。

 木箱の上には水晶玉が置かれている、察するにおそらく占い屋なのだろう。


 小さな少女が座り込んでいるものだから、声を掛けられるまで存在に気付かなかった。


 少女はフードの奥からこちらをじっと覗き込んでくる。

 特徴的な言葉遣いと、それに見合わない幼い容姿。


 それは以前に出会った、新王都で魔道具屋を開いていたあの物好きな店主を想起させる。


 確か彼女は異国の出身だと言っていた。

 おそらく、二人は同一の種族であり、この東の大陸出身なのだろうと推測出来る。

 

「占い、いかがかね」


「や、結構です」


 即座に踵を返そうとする。しかし


「や、待て待て。分かった、そうじゃ、一人無料にしてやろう。もしその内容が気に入らんかったら、そこで帰って貰って構わんよ。どうじゃ?」


 と少女は引き留めてくる。

 つまりはお試し初回無料サービスだ。

 余程客が入っていないのだろうか。


 しかし占いと言っても、本当に未来すら見通す“真実の目”を一時的では有るが所有していた身からすれば、それはあまり魅力的に映らなかった。


 この少女には申し訳ないが今回はご遠慮させて頂こう。


 と、思っていたのだが――、


「良いじゃないですか。無料なら一回くらい見てもらいましょうよ」


 なんてエルが乗り気だった為に、この占い師の少女に捕まってしまった。


 何となくエルの方がもっと本格的な占いが出来そうなイメージがあるが、他人にやってもらうのは違った楽しみが有るのかもしれないし、魔法と占いはまた違う物だとも聞く。


 しかし、こういうのは無料分でサービスを受けてしまったら結局流れで二人目もお金を払ってしまうよくあるパターンだ。

 そういう商法なのだ。


「話の分かる人じゃね。じゃあまずはエルフのお嬢さんから占おう」


 俺の心中も他所に、エルはいそいそと水晶玉の置かれた木箱の前に座り込む。

 そのまま早速少女の占いが始まった。


「お嬢さん、お名前は?」


「エルって言います。でも、もしかしたらこの名前じゃちゃんと占えないかもしれないんですけど」


「ほう、訳有りかい。構わんよ、ざっくりとした物にはなるが、少しだけ未来を覗いてみようかね」


 そう言って占い師は視線を水晶玉の方へと落とす。

 心なしかすうっと周囲の空気が変わった様な気がする。


 しばらく周囲の喧騒だけが耳に入る無言の間が続いた後、はぁっと一息吐いてから、占いの結果を話し始めた。


「まず見えたのは黒い影、そしてその次に強い光」


「影と、光……。悪い事と、その後に良い事が有る、みたいな感じでしょうか」


 と、エルが占いの結果を噛み砕いて解釈する。


「どうじゃろうな。何せざっくりとした未来の色を見ただけじゃから、それ以上は何とも。それに、光が良い物とも限らぬよ」


「そうですか?影と光を並べると、そういったイメージが思い浮かびますけど」


「強過ぎる光は時に毒になり得る、という話じゃよ」


 という感じで占いのお試し初回無料サービスは終わった。

 なんと言うか、あまりにも抽象的だ。

 イメージ通りのあまり役に立たない占いを体現してくれた。


 エルも満足した事だろう、この占い師には申し訳ないがこれで――と、思っていたのだが。


「次、アルさんの番ですよ?」


 なんて言いながら少し横へズレて、後ろで見ていた俺を手招きしている。

 エルはまんまとそういう商法のパターンに嵌っていた。


 俺はやれやれとため息を付きながら、諦めて流れに身を任せる事にした。


 エルの隣へ座り、水晶玉の置かれた木箱を挟んで占い師と対面する。


「アルさんと言うのかい」


「俺も名前からは占えないと思いますよ」


「二人揃って訳有りかい。では、また少しだけ未来を――」


「いえ。それよりも、人を探す事は出来ますか?」


「ほう。失せ物探しは得意じゃよ」


「では、それでお願いします。些細なヒントとかでも大丈夫なので、探し人の居場所が知りたいです」


「それで、誰を探しているんじゃ?」


「分かりません」


「その人の名前とか」


「分かりません」


「では身体的特徴とか」


「分かりません」


「……何か、些細なヒントでもないじゃろうか」


 占い師は眉を顰めている。困らせてしまった。

 しかし、意地悪を言っている訳では無い。


 探し人は勿論あの『君たちに会えるのを楽しみにしているよ』という謎のメッセージの送り主なのだが、本当に何も分からないのだ。


 俺は少し思案し、無い些細なヒントを絞り出す。


「多分、俺に雰囲気というか、出生? きっと、そういうのが近い人物かもしれません。多分この大陸のどこかに居ると思います」


 俺は“俺と同じ異世界転移者”に当たりを付けてみた。

 メッセージを送れる端末などの何かしらの手段を有している人物、となるとそうなってくる気がする。


 もしくはそういう魔法が使える人物かもしれないが、俺はスマートフォンにメッセージを送る魔法なんて聞いたことが無い。


 完全に当てずっぽうだが、どうせ占いだ、何でもいいだろう。


「また何と言うか、抽象的じゃな。まあ良かろう、しばし待たれよ」


 この人にだけは言われたくない台詞だ。


 先程の占いと同じ様に、占い師は視線を水晶玉の方へと落とす。

 そして、しばしの沈黙の間の後、一つ息を吐いて顔を上げる。


「――見つけた」


「えっ、本当ですか! どこに、居るんですか?」


 正直、全く期待していなかった。

 まさか本当に見つけられるとは思っておらず、つい声が大きくなってしまった。


「探し人というのは、思ったより近くに居るもんじゃな」


 気持ちの逸る俺に対して、答えを勿体ぶる占い師。

 占い師は不敵に笑い、そして――、俺の隣を指差した。


 指先の方に視線を移すと、勿論そこにはエルが居る。

 きょとんとした顔で、ぱちくりと瞬きをしていた。今日も可愛い。


 もう一度視線を占い師の方へと向ける。

 すると「どや」という声が今にも聞こえてきそう程、分かりやすく勝ち誇った顔をしている。


 普通、探し人が隣に居るはずが無いのだが、その表情は微塵も自分の出した占いの結果を疑っていない。


 ……この占い屋に客が入らない理由が、よく分かった気がした。


 しかし、占いの結果がエルを指した理由、それはおそらく俺の中にエルの魂の一部が有るからだ。


 きっと俺が当てずっぽうで言った“出生が近い人物”という情報が占いのノイズとなったのだろう。


 意図してか偶々か、俺とエルの魂の同一性を占いから導き出した彼女の占い自体は、案外しっかりとした結果の出る、信用出来る物なのかもしれない。


 勿論、本人が状況証拠から占い結果に違和感を覚えないポンコツという点を除けばだが。


 エルも間を置いてその指された指の意味を理解したのだろう。

 口元に手を当て、ころころと笑っている。


 少し期待してしまっていた分肩透かしを食らったが、隣で楽しそうに笑うエルを見ていたら文句を言う気にもならなかった。


 占い師の方は何故エルが笑っているのかあまり理解していない様子だが、エルから代金を受け取って満足気だった。


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