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【完結】少し遅れた異世界転移 ~死者蘇生された俺は災厄の魔女と共に生きていく~  作者: 赤木さなぎ
第四章 神の世界侵略編

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神の世界侵略⑬ 勇者と魔女

 ――嫌な感覚だ。


 メカクシの最期の叫び。

 王都中に木霊したそれが、未だなお耳にこびり付き、響いている気さえする。


 メカクシの、神の存在そのもの、魂の全てを触媒とした、大魔法『魔王降臨』。

 それにより天の風穴から産み堕とされた、黒い泥の塊、異形。


 かつての勇者と魔女が討った、あの不死の魔王だ。


 その姿は、異形のそれを彷彿とさせる様な、鈍く黒光りする表皮。


 直立する姿はまるで人の様だが、それと同時に頭部からは魔獣の様な獣性をも感じさせる、不揃いで不気味な様相。


 背からは濃縮した魔力の塊、黒い泥が溢れ、それはまるで二枚の翼の様だ。

 そして、背後には光を吸収するかの様な漆黒の光輪を背負う姿。


 その不気味で有りながらも神秘的な出で立ちは、これは神を触媒としたのだと、それを見た者誰もをそう理解させる程の迫力が有った。


 異形の魔王――それは人であり、それは獣であり、それは神である。


 産み堕とされた魔王はその巨大な黒い体躯を王都の王城の上へと降ろし、まるで玉座として使うかの様に踏みつける。


 魔王のその圧倒的重量に、王城の上部は崩れ落ちる。


「「「ぎょおおおおおおおおおおう!!!!」」」


 幾重にも折り重なる不協和音。

 その叫びは魔王の物か、はたまたメカクシの物か。


 魔王の咆哮が、王都の空気を震わせる。

 咆哮と同時に、背の翼から溢れる泥が周囲に飛び散り、その泥が触れた場所はまるで酸に溶かされるかの様に、泥の汚れに浸食されて行った。


 魔王の玉座として敷かれた王城はその泥の汚れに浸食され、じわじわと原型を失っていく。


 魔王の降臨、これはまさしく世界の終焉だ。

 力を持たぬ民は怯え、恐怖し、絶望し、逃げ惑うだろう。


 しかし、王城に避難してきていた、王都の民。

 彼らは逃げなかった。

 彼らの瞳は、色を失ってはいない。


 この世界に終焉をもたらす魔王を前にしても、絶望してはいない。

 彼らの前には、一人の魔女の姿が有った。


 腰まで伸びた長い黒髪、その風に靡く長髪の隙間から覗く、長く尖った特徴的なエルフ耳。

 その紫紺の瞳は、まっすぐと王城の上の、魔王の姿を捉えていた。


 メカクシを――悪しき神を討った、『永遠』の魔女エル。


 彼女の存在が、王都の民の心の支えだった。

 そして、またこの魔王をも討ち倒してくれるだろうと、誰もが信じていた。



―――



(これが、アルさんの言っていた……)


 なんと醜い、なんと不気味な姿だろうか。

 エルは眼前に降り立った、異形の魔王を見上げる。


 アルが真実の目で見た、過去のビジョン。

 そこで受け取った『魔女エル』からのメッセージ。


 『魔女エル』によって自分たちがこの場へ導かれた理由。

 二人に勇者と魔女の役割を振られた理由。


 それこそが、この『魔王降臨』だと、エルはすぐに理解した。


 エルはその手でメカクシを討ち、二〇〇年前の因縁に、自らの手で終止符を打った。


 しかし、メカクシとの戦いにアルは参加していない。

 それでは、アルの与えられた役目とはなんなのだろうか。


 『魔女エル』からのメッセージの通り、自らの役目を果たす為に、魔女の森へと向かったアルはどういう役割振られていたのか。

 その役目とは何だったのか。


 そう、これで終わる訳が無かった。

 メカクシを討ってめでたしめでたし、とは行かない。


 『魔女エル』の見ていた未来はここからだ。

 全てはこの時、この瞬間の為に――。


 ふと、エルは振り返る。

 そこには王都の民たちの姿。

 彼らは真っ直ぐと、エルを――『永遠』の魔女を見据えていた。


(ああ、よかった)


 その目を見て、エルは心の底から安堵した。

 彼らの瞳から向けられるそれは、既にかつての、あの背中を刺す様な視線のナイフではない。


 信頼、そして希望。

 彼らは、この絶望的な状況でも、この永遠の魔女を信じているのだ。


 これで良かった。

 災厄の魔女は、もう居ない。


 かつてこの王都に災厄をもたらした魔女の名も、記憶も、もうこの世界のどこにも無い。


 彼女は、愛する彼から貰ったこの名と共に、生きて行く。


(わたしは――『永遠』の魔女、エル)


 エルは一度深呼吸をし、そして、民へと語り掛ける。

 その瞳に、応える為に。


「――大丈夫、です。“わたしたち”が居ます」


 そして、呼応するかの様に、エルの右目が真紅に輝く。

 その真紅の右目の輝きは、対となるもう片方の左目の接近によって呼応していた。


 それが意味するところは、つまり――、


「――ああ、“俺たち”が居る」


 突如、天からの一閃。


 その一太刀が、魔王の巨体を走り、魔王の泥の肉体はぱっくりと二つに分かたれた。


 そして、その一閃と共に現れた――、


「アルさんっ!」


 ヒーローは、遅れてやって来る。

 新時代の“勇者”の登場だ。



―――



 勇者の剣を手に入れた俺は『転移』ですぐさま魔女の森を発ち、エルの居る王都へと向かった。

 すぐに、一秒でも早く、彼女に会いたかった。


 エルがメカクシとの戦いに勝利するのは“知っている”。

 しかし、嘘でもだから心配していないとは言えなかった。


 いくら真実の目で視ている、未来を知っていると言っても、それは必ずしもその未来が確定しているという訳では無い。


 未来は、変えられるのだ。

 まさに今、俺たちが――そして、『魔女エル』がそうしている様に。



 俺が王都へ着いた時には、その様相は一変していた。

 天を覆っていた暗雲、その一部に風穴が空き、そこから溢れ出す“黒い泥”。


 あの場所は、確か王城の有った所だ。

 間違いない、ビジョンで見たのと同じ光景だ。


 『転移』で飛び、近づくとその姿が見えてきた。

 『魔王降臨』――王城を玉座とし、そこへ座す、異形の魔王。


 俺は勇者の剣を両手で握り、魔力を込める。

 俺の左目はその魔力に反応し、真紅に輝く。

 魔力を受けた剣は魔法の輝きを放ち、その力を解放する。


 これは、かつて魔王を討った勇者の剣。


 かつての勇者と魔女は世界を脅かす不死の魔王を討つ為に旅に出た。

 そして、旅の中で出会った龍の真実の目の権能の力によって、魔王を討つ手段――『不死殺し』の魔法を得た。


 魔女は勇者の剣にその『不死殺し』の魔法を付与し、勇者はその剣で不死の魔王を討った。

 その“不死殺しの魔剣”だ。


 正史では俺が旧王都の王城跡で“魔女様”へのプロポーズの際に、『永遠』を得る為の犠牲とし、この世から失われてしまった勇者の剣だ。


 そして、その剣は『魔女エル』の思惑によって、再び俺の元に有る。


 この剣を握るのは初めてではないが、それでもこうやって振るうのは初めてだ。

 しかし、まるで最初から自分の物だったかと錯覚する程に、勇者の剣は手に馴染んでた。


 俺は両手で握った勇者の剣を、魔王の頭上から振り下ろす。


 黄金の一閃。

 その一太刀の軌跡が魔王の泥の肉体を二つに分かつ。


「アルさんっ!」


 魔王の巨体へと一太刀を浴びせ、地に降り立つ。

 すると、背後から今一番聞きたかった、愛おしい、その澄んだ声に名を呼ばれる。

 振り返ると、そこにはエルの姿。


 纏っていたはずのローブはどこにも無く、この王都の中で有ると言うのに、その長い黒髪とエルフ耳を露わにしていた。


 目立った外傷は無い。

 全て『永遠』の不死性によって修正された後なのだろう。

 一目見た限りで傷や怪我は無いが、傷んだ服とついた土埃や汚れが激しい戦いの後なのを物語っていた。


 そして、その瞳は紫紺と真紅。

 良かった、無事だ、生きている。


「待たせたな。――勇者アル、参上だ」


 俺は今すぐにでも抱きしめてやりたい衝動を抑えて、両手で振り下ろした剣を片手に持ち直す。

 そして、なるべく格好をつけて、エルの声に応えた。


 というのも、エルの後ろには王城に避難してきていた王都の民が集まっていた。

 つまるところ、今は人目が有るのだ。


 しかし、そんな俺の気恥ずかしさから来る“格好つけ”は意味を成さなかった。


「~~~っ!!」


 エルは俺の顔を少しの間見つめていたかと思うと、すぐに薄っすらと瞳に涙を浮かべ、そして突進してきた。


 俺はそんなエルの突進を全身で受け止めて、結局そのまま抱きしめた。


「本当に、もう……。おそい、ですよ?」


 勇者の剣を持たない方の左手をエルの頭へやり、髪を梳く。

 エルの肩越しに、王都の民たちの顔が見えた。


 そして、俺もその民たちの表情で理解した。

 もうあのローブは必要無いのだ。

 フードを被り、姿を隠す必要は無い。


 エルはもう“災厄の魔女”ではないのだ、と。


「「「ぎょおおおおおおおおおおう!!!!」」」


 そんな感傷に浸っていられるのも束の間。

 魔王の咆哮によって、俺たちは現実に戻された。


「アルさん、傷が……」


 エルに言われ、俺も視線を向ける。

 先程の勇者の剣――つまりは『不死殺し』が付与された魔剣での一閃。


 それは確かに、あの魔王の汚れの塊、黒い泥で構成されたその巨体を二つに切り裂いたはずだ。


 で、あれば。

 本来であれば、その『不死殺し』の魔法の効力によって、その泥の肉体は再生される事なく、塵となるはずだった。


 この剣は二〇〇年以上前の時代の、かつて『魔女エル』が付与した『不死殺し』の魔法、その魔力がまだ残っていた頃の剣だ。


 それならば、かつての勇者と魔女もそうした様に、不死の魔王はこの剣で討つ事が出来るはずなのだ。


 しかし、今目の前で起こる光景は、その期待をいとも簡単に裏切ってくれた。


 勇者の剣による一閃、その一太刀によって生じた傷。

 それは逆再生の様に再生して行き、不死の魔王は元の黒い泥で構成された巨体に戻っていた。


 この再生の挙動、これを俺たちは見た事が有る。

 旧王都で相対したあの宮廷魔導士。

 この“再生”の挙動は、あいつの不完全な不死性と同一だ。

 対して、俺やエルの不死性はまるで事象の湾曲、その傷自体無かった事にするかの様な“修正”だ。


 しかし、俺も一度この“再生”の挙動を経験している。

 それは宮廷魔導士との戦いで最後に放った、『不死殺し』を織り交ぜた巨大な『ファイアボール』で自身を巻き込み、それによって受けた自傷ダメージだ。


 いつもならすぐに修正される傷も、あの傷だけは治りが遅く、それは再生の挙動だった様に思う。


 つまり、勇者の剣による一閃、その一撃は確かに効いている。

 しかし、それでは足りないのだ。


 かつての魔女が付与した不死殺しの魔法。

 それは完全に失われては居なくても、森へと魔力が流れ出してしまい、明らかに弱まっている。


 神の産み堕とした不死の魔王を完全に殺し切るには、この剣に宿った魔力だけでは足りない。

 これでは精々傷を付けるのが関の山だ。


 そして、原因は勇者の剣の魔力の減少だけではない。

 今回の『魔王降臨』はかつてのそれとは格が違う。


 何故なら、今回の魔王はメカクシの――神の存在そのものを触媒としているのだから。


 神の魂を喰らった魔王、その力はかつての降臨時よりも強い。

 今のままの勇者の剣では完全に滅ぼす事が出来ない。


 それならば――、


「――エル、頼んでもいいかな」


 肉体の再生を終えると、のっそりと緩慢な動きでその巨体を動かし、再び周囲に汚れを振りまく不死の魔王。


 このままでは、世界はこの汚れに呑まれて行ってしまうだろう。

 その姿を尻目に、俺は勇者の剣をエルへと渡す。


「ええ、頼まれました」


 エルはにこりと微笑み、勇者の剣を受け取った。


 その勇者の剣を魔法の淡い光が包み込み、エルの両手の上でふわりと宙に浮き上がる。

 その魔力に呼応し、エルの右目が真紅に輝く。


 俺の左目もそれに呼応し、真紅の輝きを放つ。

 そして、その左目から赤い軌跡が描かれ、そこへ在った真紅はエルの元へ。


 これは真実の目の権能の継承ではない。

 俺とエル、つまりは同じ魂の元に在った真実の目は自然に、まるで呼吸の様に集う。


 まるでそこへ集うのが当然かの様に、エルの元で集まり、両の目が揃った。


 エルが一度目を閉じ、そして再び開いた時には、その両目はがどちらも真紅に染まっていた。


 そして、勇者の剣を包んでいた淡い魔法の光は真実の目と同じ真紅へと変わる。

 それと同時に真紅の輝きを放っていたエルの両目からはじんわりと赤い光が失われてゆき、やがて見慣れた紫紺へと変わった。


 そして、勇者の剣を包んでいた魔法の光も次第に収まり、剣の内へと吸収されていった。


 それは『勇者アルの冒険』その物語をなぞる様に。

 魔女エルの魔法が、勇者アルの剣に付与された。


 『不死殺し』――その大魔法の触媒として、真実の目が失われた。

 あの神の権能は、エルが行使する大魔法の触媒となったのだ。


 かつての『魔女エル』の大魔法、そして現代の魔女エルの大魔法。

 二つの大魔法が重ね掛けだ。


 この勇者の剣に斬れない物など、この世には存在しないだろう。


「はい、どうぞ。――行ってらっしゃい」


「ああ。――行ってきます」


 俺はエルからその完全体となった勇者の剣を受け取り、両手で強く握りしめる。

 そして地を蹴り、真っ直ぐと不死の魔王へと突進した。


「はああああああああっ!!!」


 勇者の剣の刀身が魔法の光、黄金の輝きを放ち、一閃。

 黄金の軌跡が真っ直ぐと描かれる。


 二人の魔女の魔法を、思いを宿した勇者の剣。

 その一閃が、魔王の身体を再び二つに割いた。


 そして、その魔法の光は『不死殺し』だ、“修正”も“再生”も許さない。

 魔法の光が傷口から肉体を浸食し、黒い泥の汚れを溶かして行った。


 干からびた泥の様に、ひび割れ崩れ行く魔王の肉体。

 溶け落ちて行く泥は光の粒子となって、天に昇って行く。


 俺は地へと降り立ち、剣を振って付着した泥を払った。

 地に落ちた泥もまた光の粒子へと変わり、蒸発する様に消えて行った。


 王都中に散らばった黒い泥、そして各地で暴れていた泥に侵された魔獣も泥となり溶け、黄金の光の粒子となり天へと昇って行く。


 王都中から光の粒子が昇って行き、幻想的な光景を作り上げていた。


 そして、俺の手に握る勇者の剣もまた、役目を終えたという事なのだろう。

 縁の方から薄く透けて行き、存在感が希薄になっていた。


 俺が『時間』の魔法で過去へ飛んだ時と同じ現象。

 つまりは、勇者の剣は元の時代へと帰るのだ。


 勇者の剣の重みが完全に手から消える頃には、魔王だった物は全て光の粒子となり、消えていた。


「綺麗……」


 そんなエルの呟き。


 メカクシは死に、そして魔王も討ち倒した。

 そして王都の民も、俺たちの大切な人々も、みんな無事。


 これで、一件落着だ。

 俺はエルの元へと、ゆっくりと歩いて戻り、軽く深呼吸。


 そして――、



―――



 魔王を討伐した勇者は魔女に向き直り、跪き、手を差し出し、こう言いました。


「今までありがとう。そして、これからもずっと一緒に、同じ時を過ごしてほしい」


 それは愛の告白だった。


 魔女は涙を流し、勇者の手を取り、こう言いました。


「はい、わたしと、ずっと一緒に、いてください」



―――



 あの王都での魔王降臨、“神の世界侵略事件”からしばらく経った頃。


 俺とエルは、再び旅に出る事にした。


 元々森の家を失い、移住先を探していた俺たち。

 『永遠』の魔女に救われた王都の人々も、もちろんアルヴの人々も、どこだって俺たちを受け入れてくれるだろう。


 しかし、あのメカクシの天の声は大陸中に響き渡っていたし、あの魔獣の大群の暴走も各地で起こっていた現象だ。

 そんな怪現象から世界を救った英雄に、誰もが注目していた。


 そして、その熱が冷めやらぬ中。

 その新時代の勇者と魔女の物語をいち早く書き記し、本として出版したある作家がアルヴに居たのだ。


 まるで見てきたかの様に、やけに詳細がリアルに描かれたその物語は爆発的人気を博し、プチブームを巻き起こしてしまった。


 その所為で世界を救った、新時代の勇者と魔女の――俺たちの話は瞬く間に大陸中を駆け巡り、広がって行ったのだ。


 まあ、まさか件の当事者本人たちから直接話を聞いて作られた物語だとは、誰も思うまい。

 今頃大人気作家だ、しばらく忙しいだろうが頑張ってもらおう。


 そんな訳で、今度は世界を救った有名人として目立つ所為で、定住し難くなってしまった勇者と魔女は、また旅に出るのでしたとさ。


「次は、どこへ行きましょうか?」


「そうだなあ。海の向こうとか、どうかな」


「ええ。あなたと一緒なら、どこへだって――」


 俺たちは海を渡り、王都やアルヴのあるこの大陸よりも、もっと遠くへ。


 世界の果てまでだって――。


 世界を救った勇者と魔女。


 アルとエル、二人は“ずっと一緒”に『永遠』を生きて行く。


 二人の物語を紡いで行く。


 二人の旅は、『永遠』に続いて行くだろう。


 手には一冊の本。


 その本のタイトルにはこう書かれていた――『新訳・勇者アルの冒険』と。


作品が少しでも面白いなと思って貰えたら、画面を下にスクロールして、ブクマや評価で応援して頂けると、今後の執筆の励みになります!

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