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【完結】少し遅れた異世界転移 ~死者蘇生された俺は災厄の魔女と共に生きていく~  作者: 赤木さなぎ
第四章 神の世界侵略編

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神の世界侵略⑩ 神との戦い③

「つかまえた」


「――!?」


 ――否。

 メカクシの指が、エルの右目を捉える事は無かった。


 魔女の不敵な笑み。

 それに対して、メカクシが抱いた感情は“恐怖”だった。


 神であるメカクシが、人間に対して恐怖など抱くはずがない。

 しかし、現にメカクシは恐怖を感じていた。


 人形の様にぶらんと宙に放り出されていたはずのエルの腕。

 その腕が、右目へと伸ばしたメカクシの腕に向かって、その手の平を広げ、喰らい付く。


 爪が食い込み、もはやどちらの物か分からない血が流れ、腕を伝う。


「やっぱり、そうですよね。あなたは、怖いんですよね」


 エルはぽつり、ぽつりと言葉を紡ぐ。

 その表情には、薄っすらと不敵な笑みが浮かび、それは“災厄の魔女”を彷彿とさせた。


「怖い? 何が? この僕に、怖い物など――」


 メカクシは狼狽し、抵抗する。

 エルの手を引きはがそうと、藻掻き、搔き毟る。


 しかし、エルは掴んだメカクシの腕を離さない。

 そのメカクシの腕が、ぶくぶくと泡立ち始めていた。


「あなたは、死ぬ事が怖いんです。だって、そんな風に鎧を纏って、身を守ろうとする。それは、死を恐れるからです」


 エルの魔法が、少しずつメカクシの身体を蝕む。


「やめろ、やめろ!! 離せ!! 離せよ!!!」


「今もそうです。わたしが何をするのか、あなたは理解して、そして、恐怖している」


 その“熱”は更に沸き上がり、燃え上がり、メカクシの腕から広がって行く。

 そして、身体の隅から隅まで伝播して行った。


 エルの魔法――『温度変化』だ。


 エルはこの時を、待っていた。

 鎧で身を包み、エルの魔法攻撃の致命傷を悉く避けてきたメカクシ。


 しかし、目的の真実の目を目前とした瞬間。

 勝利を確信したその瞬間に、メカクシに生まれた隙。

 メカクシの犯した、たった一つのミス。


 それは、エルが触れられる距離まで、無防備で近づいてしまった事。

 触れてしまえば、それでお終いだ。


 『温度変化』によってメカクシの身体は灼熱に包まれ、沸騰し、そして――、


「嫌だ!! 嫌だ!! 僕は神だぞ!! お前なんか、お前なんかに――」


「ばあーん」


 沸騰した肉体は、弾け飛ぶ。


 エルの首を掴んでいた黒い触手は燃え尽き、解放されたエルの身体は、どさりと地に落とされた。


 エルはけほけほと咳をした。

 そして、『永遠』の不死性によって身体の治癒――修正が始まっているのを確認すると、ゆっくりと立ち上がる。


 メカクシだった赤黒い物が目前に落ちている。

 その周りには弾けた肉片と血が華を咲かせていた。


「終わり、ました……」


 エルは安堵の声を漏らした。

 これで、終わった。

 メカクシを倒し、この王都を――この世界を、救ったのだ。


 人の気配に振り替えると、王城の避難民たちがエルの後ろに集まっていた。

 そして、避難民たちは顔を見合わせる。

 そして、その中の誰かが、声を上げた。


「助けていただいて、ありがとうございます。それで、あの、あなたは……?」



―――



 “あなたは”――ですか。


 この人たちの目には、どう映ったでしょうか。

 わたしは、誰でしょう?


 わたしは、災厄の魔女。

 この人たちの知っている通りの、かつて王都を襲った大災厄の元凶。


 でも――。でも、わたしは――)


「わたしは――、『永遠』の魔女、エルです」


 少し迷った後、わたしはそう答えました。


 それは驕りで、それはエゴで、それは傲慢かもしれない。

 でも、それでも、わたしは――。


 彼らを、この世界を護るために戦ったわたしは、“災厄の魔女”なんかじゃ無かったはずです。


 だから、わたしは、そう答えました。


 これで、いいんですよね? アルさん。



―――



 一件落着。

 そう思い、油断していた。

 しかし、終わりのはずが無かった。


 『魔女エル』が未来に託した魔導書、そしてそこに残したメッセージ。

 こんな簡単に終わるのならば、それは必要無かっただろう。


 まだ終わりじゃない。

 『魔女エル』の見た未来は、ここからだ。

 

 がさり、と背後で物音。

 その不穏な気配に、エルは振り返った。


 赤黒い物体――沸騰し、弾けた身体は肉や骨が露出していて、醜い様相。


 死んだはずのメカクシが、立ち上がっていた。


「――しぶとい、ですね」


「まだ、終わらない。この世界は、終焉だ。僕の、全てを、くれてやる、だから、もう一度――!」


 メカクシを中心として広がった邪悪な魔法の光が、天に立ち昇る。


 魔法の光とその衝撃に、エルは腕で顔を覆い、目を伏せる。


 魔法の光が天を貫き、空間に風穴を空ける。


 ――これは、大魔法だ。


「ああああああああああああああああああああ!!!!」


 メカクシの、焼けた喉から響く、最後の叫びが、王都中に木霊する。


 赤黒いそのもはや人の形を保てない身体が溶け、“黒い泥”となる。

 そして、その“黒い泥”は天に広がる風穴へと吸い込まれて行った。


 メカクシの――神の存在の全てを触媒とした、大魔法。

 その有り余る程強大な触媒を喰った、大魔法によって産み出された者。

 それは――、

 

「――魔王」


 天の風穴から、溢れ出る大量の“黒い泥”。

 そして、その泥は集まり、形を成す。


 人とも魔獣とも似つかない、まさしく“異形”の姿。

 異形の王。


 その存在が有る限り、世界に汚れを撒き散らす。

 巨大な汚れの化身。


 『魔王降臨』――それが、メカクシが死に際に放った大魔法だった。


 これが、かつての勇者と魔女が討った、不死の魔王。

 その正体だ。

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