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【完結】少し遅れた異世界転移 ~死者蘇生された俺は災厄の魔女と共に生きていく~  作者: 赤木さなぎ
第四章 神の世界侵略編

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神の世界侵略⑨ 神との戦い②

 ――声が、聞こえる。


「ん……。ここ、は……?」


 メカクシの攻撃を受けたエルは、旧王都から飛ばされて、この場で倒れていた。


 身体を起こすと視界に入って来た光景。

 それでここがどこなのかはすぐに理解出来た。


 聞こえてくるのは、大勢の人の声。

 そして、周囲を見渡すと、綺麗で豪華な造りの城。

 ここは、新王都の王城だ。


 一瞬、意識が飛んでいた様だ。

 この感覚は、知っている。


 これは死だ。

 本来ならば一度死んでいた。


 しかし、『永遠』の魔法の不死性によって、エルの身体は致死のダメージも無かった事修正してしまう。


 かつて対峙した宮廷魔導士の逆再生の治癒の様な、不完全な不死性の挙動ではない。

 死という、そして損傷という事象そのものが無かった事になる。

 全てが修正され、元に戻る。

 完全なる不死性だ。


 しかし、身体が重い。

 おそらく、あの赤い稲妻の所為だ。

 神の一撃だ。

 おそらく、それには『不死殺し』に相当する力が含まれているのだろう。


 実際に本物の『不死殺し』の魔法が使えるのはかつての『魔女エル』、そして現代ではエルとアルだけだ。


 このメカクシの力はそれに似た何かでしか無い、類似品でしか無かったのだろう。

 それ故に、『不死殺し』として完全には機能していなかったのが救いだ。


 しかし、本来なら『永遠』によって無かった事になるはずの身体へのダメージだが、腐っても神の一撃だ。


 それを諸に受けたエルの身体は、ずっしりとした重み、疲労感の様な形として、ダメージの蓄積を感じていた。


 エルが吹き飛んできた衝撃で崩れた王城。

 その崩れた部分から冷たい外の空気が流れ込み、エルの昇っていた頭の熱を冷ましてくれた。


 小さく深呼吸。

 そして、エルは自分の左手を見た。


「よかった……」


 そこに鈍く光る簡素な指輪が有る事に――攻撃を受けた衝撃で壊れたり、無くしたりしていなかった事に、安堵した。

 エルはその左手を右手で包み、そっと抱きしめる。


 まだ疲労感の残る中、重い腰を上げて、崩れた城の瓦礫の山から立ち上がるエル。


「うんうん。『認識阻害』も無くなって、“見やすく”なったね」


 エルは顔を上げる。

 壊れた城の壁に空いた風穴から、上空にに浮くメカクシが見下ろしているのが見えた。


 メカクシの言葉に、エルは自分の状況を改めて認識して、はっとした。


 『魔力感知』に引っ掛からない様に、そして何よりこの王都で自分の――災厄の魔女の姿を隠す為に纏っていた『認識阻害』のローブ。


 それがあの赤い稲妻の攻撃を諸に受けて、焼き切れてしまっていた。


 今のエルはその長い黒髪とエルフ耳を晒し、露わにしている。


「その姿をこの国の民が見たら、どう思うだろうね?」


 そう言って、メカクシはまた槍をどこかから生み出し、仕掛けてくる。


 しかし、今度のその攻撃は殺傷目的ではない。

 エルの不死性に対して最も有効な攻撃手段、それは物理的な攻撃ではなく、精神的な攻撃だ。

 メカクシの攻撃は、エルを王城の外へと――民の、衆目の前へと誘導する為の物だ。


 エルも『結晶』の双剣を作り出し、応戦する。


 しかし、メカクシの手数が多すぎる。

 今のメカクシは“黒い泥の鎧”を纏い、その身を堅く強固に守っている。

 その所為で、結晶の刃は思ったように通らない。


 更に、複数の異形の触手を腕の様に巧みに操り、それを攻撃と防御に組み込んでいる。


 両手に持つ槍だけでなく、追撃として繰り出される触手の腕による多段攻撃。

 その手数は、エルの二本の腕だけではとても捌き切れなかった。


 数度の打ち合いの末。

 メカクシのラッシュに押し切られ、エルの両手の双剣が弾き飛ばされる。


 そして、得物を失ったエルのがら空きになった胴に、メカクシの触手の腕による薙ぎ払い。

 その一撃を諸に受けてたエルの身体は、王城の壁に空いた風穴から、外へと飛ばされた。


 触手の腕の一振りによって飛ばされたエルの身体は、王城へ避難していた民の集っていた広場の方へと投げ出さた。

 受け身も取れず、飛ばされた勢いのまま広場の地へと叩きつけられる。


 エルの身を包み隠すローブは、もはや無い。


 その長い黒髪、エルフ耳――災厄の魔女として言い伝わる、その姿。


 王城へと避難してきていた民の目に、エルのその姿が映し出される。


「なんだなんだ!?」


「黒髪の、エルフ……!?」


「災厄の、魔女――!」


 次々と、群衆の方から、恐怖に駆り立てられた声が上がる。


 視線が、刺さる。

 困惑、不安、敵意。

 そんな負の感情を孕んだ民の視線が、ダメージを負ったエルの身体の傷を、ズキズキと抉って来る様だった。


「違うんです、あの……」


 エルは誤解を解こうと、敵ではないと伝えようと、一歩、民衆の方へと歩を進める。


 しかし、民衆はエルの方から後退して、離れて行く。

 エルと民衆の間には、まるで視えない大きな壁が出来ている様だった。


 このままでは、まずい。

 この国が、一般市民までもが敵となっては、メカクシとの戦闘どころでは無くなる。


 一度体勢を立て直すべきだ。

 このままでは、戦えない。


「アルさんが戻って来るまで、一度撤退を――」


 エルが『転移』での一時撤退を図ろうとする。

 しかし――、


「本当に逃げちゃって、良いのかな?」


「――っ!!」


 エルは息を吞む。

 メカクシは片手を天に掲げ、巨大な異形の黒い“泥の塊”を自身の頭上に生成していた。


 エルはすぐに、メカクシの意図を察した。

 この“泥の塊”を、どうするのか。

 その掲げた手を振り下ろせば、どうなるのか。


 本当に、この神は汚い奴だ。


「じゃ、ばいばい」


 メカクシは、天に掲げた手を勢いよく振り下ろす。

 そして、その“泥の塊”の攻撃はその勢いを、重力を受けてさらに加速させながら、こちらへと迫って来る。


 しかし、それはエルを狙った攻撃ではない。

 正確には、エルだけを狙った攻撃ではないのだ。


 今、エルの後ろにはこの王都の避難民が集っている。

 エル一人ならば、『転移』使ってこの攻撃を回避し、逃走する事も容易い。


 しかし、今そうすれば、この後ろに居る民衆は“泥の塊”に押し潰されて、死んでしまうだろう。


 メカクシの意図は、まさにそれだ。

 エルから回避と逃走の選択肢を奪い、確実に通るであろう攻撃。


「なんだ、あの黒い奴は!?」


「こっちへ来るぞ!!」


 民衆のどよめきが、背後から聞こえてくる。

 エルはちらりと、背後の民衆の方へと視線を送る。


 エルの脳裏に、先程の民衆の視線、そして二〇〇年間の記憶が過る。


(わたしを敵視するこの国の民を、本当に守る必要はあるのでしょうか。見捨てて、逃げてしまえばいい。そうして、その後アルさんと合流して――)


 そんなエルの迷い。

 民衆を見捨てるという選択肢が、エルを惑わす。

 そんな中、視線の先に映った、ある人の姿。


「あ……」


 避難民の中に居た、見知った顔。

 八百屋の母娘の姿が、そこにあった。


 エルは自分でも気付かない無意識の内に、微笑みを溢していた。


(なんだ。わたしって、意外と“人間”なんですね)


 もう、エルに迷いは無かった。

 ここに居るのは、“災厄の魔女”ではない。


 “泥の塊”が迫って来る。

 時間は、無い。


 エルは一度呼吸を整える。

 そして、民衆に向かって語り掛ける。


「皆さん、離れていてください。わたしが、何とかします」


 そう言って、エルは“泥の塊”の方へと跳んだ。


 民衆がどう思うかなんて知った事では無い。

 これは、エルの決めた事だ。


「はあっ――!」


 エルは両手を前へ突き出し、そこへ『結晶』の盾を作る。

 『結晶』の盾に“泥の塊”が激突。

 その圧倒的威力、魔力の塊の重みを受ける。


「ぐっ……」


 『結晶』を通して、腕にまでその衝撃が伝わって来る。

 今にも折れてしまいそうだ。


 その威力に耐え切れずに、『結晶』の盾にヒビが入る。

 そして、砕け散った。


 しかし――、


「まだです!!」


 エルはすぐさま次の手を打つ。

 エルの使った魔法、それは『霧』の魔法だ。


 『霧』のバリアが“泥の塊”を覆い、威力を削いで行く。

 だが、やはりそでは足りない。

 威力を削いでも、完全には止められなかった。


 エルは“泥の塊”に呑まれ、地に叩きつけられた。

 しかし、最後の抵抗だ。

 その直前、再び『霧』の魔法を背後の民衆の方へと展開し直し、結界を作った。



 ――また死んだのだろうか。

 それとも、気絶していただけだろうか。


 背後から聞こえるどよめき声に揺さぶられ、意識を起こす。

 倒れたまま、エルは民衆の方へと視線を送る。


 どうやら『霧』の結界はちゃんと機能してくれたらしい、彼らは無事みたいだ。


「よかっ、た……」


「こんなに狙い通りにいくのも、面白くないなあ」


 メカクシがそんな不満を垂れながら、地に降り立つ。

 そして、こちらへとゆっくりと歩いて、迫って来る。


 エルの身体は、動かない。


 “泥の塊”を直接受けた所為だろうか、やはりメカクシの攻撃は不死の肉体にもダメージが有るらしい。


 迫って来るメカクシを迎え撃たなくてはならない。

 しかし、身体は鉛の様に重く、動かない。


 メカクシは鎧から生える黒い触手でエルの首を掴み、引きずり上げた。

 エルの両の腕は、だらりと宙に放られている。


「じゃあ、その目は返してもらうよ」


 そして、槍を捨てたその手を、エルの顔の方へと伸ばす。

 メカクシの目的、真実の目。


 メカクシの指が、エルの右目の瞼に触れ、その眼球を、抉り出す――。


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