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【完結】少し遅れた異世界転移 ~死者蘇生された俺は災厄の魔女と共に生きていく~  作者: 赤木さなぎ
第四章 神の世界侵略編

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神の世界侵略⑤ 霧の魔女


 ――周囲を霧が包み込む。


 眼前には犬型や鳥型、様々な種類の魔獣の群れ。

 どう考えても、一人では捌き切れない。

 立ち向かうのは無謀だ。

 そんな事をしても、待っているのは死のみだ。


 しかし、村唯一の魔法使い――霧の魔女アンナは魔法を振るう。

 夫と息子、そして村の皆を守るために。

 その赤茶色の髪をなびかせ、アンナは戦う。


 自分がやらなくてはいけない。

 一分、一秒でも、長く魔獣たちを足止めし、村の皆を逃がす為の時間を――。



・・・



 ゴーフ村とラルク村は合併し、新たにラルフ村として生まれ変わった。

 ラルフ村でアンナは村長の妻として、そして村唯一の魔法使いとして暮らしていた。


 かつて若かりしアンナは魔法を制御できず、脱出不可能の霧の牢獄を無意識下の魔法で作り出してしまい、それが原因で危うく婚約が破談の危機に陥るところだった。


 しかし、それを解決してくれたのが旅の夫婦だ。

 アンナの使う魔法は、その旅の夫婦から貰った――正確には、貸していた部屋に置かれていた、忘れ物と思われる数冊の本から覚えた物だ。

 その本は魔導書だった。


 アンナは魔導書とは持ち主以外には中身を読むことが出来ないという事を知識として知っていた。


 だから、その忘れ物だと思っていた魔導書の中身を読むことが出来た時点で、アンナは気づくことが出来た。


 アンナがまた魔法を暴走させない様に、自分でコントロール出来るように、と旅の夫婦がそれを譲ってくれたのだと理解出来た。


 そして、魔導書はすぐにアンナに魔法の使い方を教えてくれた。


 そんな魔法に助けられながら今日まで、この以前よりも大きくなったラルフ村で幸せに暮らしてきた。


 しかし、ある日突然それは訪れた。


 空に立ち込める暗雲。

 押し寄せる強い魔力の波。


 それにいち早く気づいたのは、アンナだ。


 異常な量の魔力を感知したアンナは、すぐさま村の皆に避難を呼びかけた。


「魔獣の群れが迫って来ています。危ないので、避難していてください」


 中には自分も応戦すると申し出る男達も居た。

 しかし、「あなた方に魔法が使えるのですか?」と問うと、彼らも押し黙るしか無かった。


 それ程までに、魔法の有無による戦力差は大きい。

 元々あまり裕福ではないこの村には魔道具の類も無い。


 実質対魔法戦闘での戦力はアンナ一人だ。


 勿論、現ラルフ村の村長であるアンナの夫は、アンナが一人魔獣討伐に残る事を拒む。

 しかし、二人の間には子供が居る。

 それに、村長である彼がここで死んでしまえば、誰が村をまとめると言うのか。


 馬車の台数も足りない。

 すぐに全員が安全な所まで非難するのは難しい。

 誰かが応戦する必要が有り、それをアンナの夫も分かってはいた。


 しかし、頭ではわかっていても心がそれを許容出来るかと言うと別の話だ。

 自分の妻にもしもの事が有るかと思うと、それを許容はし難いだろう。


 だからアンナは、


「全部倒して私もすぐに合流しますから、あなたは安心して待っていて下さい」


 そう言って、夫に軽く口付けをした。

 それはそれ以上の問答はしないと言う意思表示であり、アンナにとっては別れの挨拶でもあった。


 勿論、全部を倒すなんて到底不可能な数だという事を、アンナ自身は分かっている。

 しかし、その魔獣の気配からある程度の数を察知を出来る能力。

 所詮『魔力感知』と呼ばれる能力すら、この村の中ではアンナだけが持つ物なのだ。


 きっと、村の者の中には「まあ何とかなるだろう」くらいに思っている者も居るだろう。

 しかし、長年連れ添った夫にはアンナの鬼気迫る心の内も見透かされていたはずだ。


 村の皆の避難を見送ると、アンナは振り返り、村のゲートの方へと歩みを進める。


 そのゲートは村がゴーフとラルクの二つに分かれていた頃から使われている物だ。

 今はゴーフの看板の上から、別の板でラルフ村の文字が刻まれている。


 そのゲートから、かつての自分の魔法の霧事件が思い起こされる。

 アンナは懐かしい気持ちに浸りながらも、そこで来たる魔獣の群れを迎え撃つ。


 程なくして、押し寄せる魔力の波の実態が見えてきた。

 それは犬型や鳥型、様々な種類の魔獣の群れ。


 どう考えても、一人では捌き切れない。

 立ち向かうのは無謀だ。

 そんな事をしても、待っているのは死のみだ。


 しかし、村唯一の魔法使い――霧の魔女アンナは魔法を振るう。

 夫と子、そして村の皆を守るために。

 その赤茶色の髪をなびかせ、アンナは戦う。


 周囲を霧が包み込む。


「はあぁっ……!」


 アンナが腕を振るうと、それに追従する様にその魔法の霧は流れを作り、その帯状の霧に触れた魔獣の身体を切り裂いた。


 その『霧』の魔法による攻撃を繰り返し、一匹、また一匹と魔獣は倒され、塵となって行く。


 しかし、魔獣の数はアンナ一人では捌き切れない数だ。

 倒せど倒せど、次の魔獣が襲い掛かって来る。

 アンナの魔力も、体力も、そして精神力も、もはや限界が近い。


 そんな擦り切れた限界状態のアンナの隙に、魔獣の一撃が叩き込まれる。

 アンナはすぐに受け身の体勢を取るが、大きく身体を吹き飛ばされ、地に伏せる。


 絶体絶命のアンナ。


 しかし、その前に現れたローブを被った人影。

 風に靡いたローブのフードが取れ、姿を見せる。

 夜空の様に黒い長髪、紫紺の瞳、長く尖ったエルフ耳。

 それは、王都に伝わる、あの姿に相違無い。


「――災厄の、魔女……!」


 アンナはその姿を見て、様々な考えが頭を過る。


 この魔獣の群れはこの災厄の魔女の仕業なのではないか。

 かつての“大災厄”と同じ様に魔獣を扇動し、再び世界を混沌に陥れようとしているのではないか。


 そう考えたアンナは恐怖を押し殺し、村と家族を守るために、覚悟を決める。


(この魔女を、ここで私が、止めないと……)


「あら、アンナさん。わたしの事を、憶えていませんか?」


 しかし、アンナの思いとは裏腹に、災厄の魔女は優しく語りかけて来る。

 そんな災厄の魔女の態度に、アンナは虚を突かれて威勢を削がれる。


 その声には聞き覚えがあった。

 懐かしいその声に、アンナは先程までの恐怖心とは違う感情を目の前の黒髪のエルフに対して抱いた。


「あなたは、もしかして……」


 その記憶は十年以上も前の、あの忘れもしない、魔法の霧事件。

 

「ええ、助けに来ました。――わたしの“友達”を」


「エルさん……!」


 アンナに目には安堵の涙が浮かび上がる。


 突然現れた黒髪のエルフの正体。

 それは魔獣を扇動していた災厄の魔女なんかでは無かった。


 かつてこの村で起こった魔法の霧事件を解決し、アンナに魔導書を譲り、魔法の使い方を教えてくれた夫婦の一人、エルだった。


 あの時はフードを取らず、顔を見せてはくれなかった。

 しかし、今はその素顔を晒して、アンナをまた助けに来てくれた。


 何故あの時にフードで顔を隠していたのか、何故その顔を隠す理由で顔の傷と言う嘘をついていたのか。

 アンナはその理由を、十年越しにやっと理解した。


 彼女はこの災厄の魔女と恐れられる黒髪のエルフという容姿を隠すために、ずっとローブのフードを被っていたのだ。

 

「すぐに、終わらせますね」


 黒髪のエルフ――エルはそう言って一歩、また一歩と少しずつ魔獣の方へ歩を進める。


 エルが片腕を振るうと、炎や氷、風、他にもありとあらゆる種類の魔法が同時に繰り出され。

 そして、数百は居たであろう魔獣たちが、一気に薙ぎ払われる。


 ある魔獣は炎に包まれ塵となり、ある魔獣は氷の槍に貫かれ、ある魔獣は風の刃で切り刻まれる。

 しかし、魔獣は倒しても倒しても、更に奥から、まるで湧き出す様に現れる。


「これじゃあ、切りが……」


「大丈夫ですよ」


 アンナのそんな悲観的な呟きにも、エルは微笑みそう答える。

 そのままおもむろに、パチンと、エルが指を鳴らす。


 指を鳴らす音が木霊し、辺りに響き渡る。

 すると途端に、蠢く魔獣の群れがその動きを止め、当たりが一気にしんと静まり返る。


「――伏せ」


 それはエルの魔法『獣使い』。

 この場の全ての魔獣を、魔法で従えたのだ。


 エルに操られた魔獣たち。

 その全ては主人の命に従うままに、鳥型は地に落ち、犬型はばたりと地に倒れ込む。

 そして――、


「――『ファイアボール』」


 エルが天に手をかざすと、暗雲立ち込める空を割き、巨大な炎球が現れる。


 その業火、浄化の炎は隕石の様に、地上へと落ちて来る。


 『獣使い』によって動きを封じられた魔獣の群れは、抵抗すら許されない。

 その『ファイアボール』業火によって、全て焼き払われ、灰燼と帰す。


 ラルフ村に押し寄せてきた魔獣の群れ。

 その全てが、この僅かな間に、たった一人の手によって消滅した。


 アンナは地に腰を下ろしたまま。

 そんな光景の一部始終を、どこか夢でも見ている様な感覚で、ぼうっと見ていた。

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