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【完結】少し遅れた異世界転移 ~死者蘇生された俺は災厄の魔女と共に生きていく~  作者: 赤木さなぎ
第四章 神の世界侵略編

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神の世界侵略④ アルヴ再訪④

 ガタン、と大きな物音。

 どこからともなく現れた重量のある物体が重力のままに落下し、テーブルの上に叩きつけられる。


「痛っ……。あぁ……」


「おいおい、随分と騒がしい帰宅じゃないか」


 俺たちはその呆れ声に迎えられる。

 執筆作業をしていたエレナは、普段はしていない眼鏡をしているのがノイズ越しの視界でも確認できた。


「ああ……。ただいま……」


「おかえり。大丈夫かい?」


「はい……。なんとか……」


 エルも無事な様だ。


 メカクシとの戦闘の末に、俺たちは真実の目を取り戻した。

 しかし、その後すぐに視界に砂嵐の様なノイズが走る現象に突然襲われた。


 このままでは戦闘の続行は困難と判断し、『転移』でエレナの家のまで帰って来た。


 しかし、焦って魔法を使ったものだから、転移先の指定が少しズレてしまった様だ。

 俺はエレナの書斎の、いつも作戦会議をしていたテーブルの上に『転移』してしまった。


 しかし、俺と一緒に『転移』してきたエルは綺麗に横のソファーの上にぽふりと着地している。

 これは俺の魔法の未熟さ故なのか、はたまたただ偶然エルの着地位置が良かっただけなのか。

 どちらにせよ、エルが俺の様に落下の衝撃で尻を打たなくて良かった。


「アルさんも、これを」


 そんな呑気な思考を回していると、エルが予備のローブを『空間』から取り出して、渡して来た。


「ああ、ありがとう」


 すぐにエルの意図を理解した俺は、まだ違和感を感じる目を庇いながらも、エルから受け取ったローブを羽織る。


 このローブにかけられた『認識阻害』の魔法が、真実の目を持つ俺たちをメカクシの『魔力感知』を遮断して守ってくれる。


 しばらくすれば、視界を覆い隠す程の砂嵐も少しずつ収まって行き、落ち着いて来た。

 今は時折視界の端をバチリと小さなノイズが走る程度だ。

 この分だと、時間経過でこの小さなノイズも収まってくれるだろう。


「――で、だ。私の左目は取り返せたのかな?」


「えっと、それが――」


 一息ついて、エレナからの成果の確認だ。

 エレナも俺の左目を見て、ある程度察しは付いているだろう。

 そんな雰囲気が言葉の端から感じ取れた。


 俺たちは峡谷での出来事をエレナに話した。


 メカクシについて――エルと互角の魔法戦闘が可能な事、真実の目の本当の持ち主だと自称している事。


 真実の左目について――エレナの目は真紅の宝玉の形となっていた事、そしてその目は今俺の中に有る事。


 これでエルが真実の右目を、俺が真実の左目を所有している事になる。

 つまりは、“同じ魂の元に両目が揃った”のだ。


「――ふむ。なんにせよ、まずはお疲れ様だな」


「エレナさんの目は、俺の中に入っちゃったけどね」


「いいや。左目が私の元に戻らないのは正直残念だが、それがアルさんを選んだのなら、それには意味が有るのだろう。」


「ありがとう、しばらく預かっておくよ。まあ、今すぐ返せと言われても、譲渡の仕方なんて分からないんだけど」


「はは、それはそうだ。それでも、それは大切なお爺様の形見みたいな物だ。あのメカクシではなくアルさんが持っているのなら安心だ」


「でも、メカクシは今もわたしたちを探しているはずです。しばらくはこのローブで身を隠せると思いますが、ずっとそれで誤魔化せるとも思えません」


 エルと互角の魔法戦闘を繰り広げた、あのメカクシ。

 どれだけメカクシが強いとは言っても、エルが負ける事は考えにくい。


 しかし、偶々メカクシが俺を認識していなかったおかげで成立したあの不意打ちが無ければ、決着が付かない可能性も有っただろう。

 そして、最悪の場合こちらの真実の目が奪われたまま逃げられていたかもしれない。


 もうこちらの手の内はバレている。

 メカクシはその内『認識阻害』を突破して、また俺たちの前に現れるだろう。


「俺たちは今、あの龍と同じ事をしている訳だ。あの龍は、どうしてこの目を……」


 ローブの『認識阻害』の魔法で隠すか、峡谷の夢の世界に潜んで隠すか。

 どちらにせよ、盗品を隠している事には変わりがない。


 と言っても、エレナの左目を戻してやるという大義は有る。

 俺たちは掛かる火の粉を払っているだけなのだ。


「メカクシは“龍族たち”と言っていましたよね。それに、“最後の一匹”とも」


「昔龍族たちとメカクシが対立して、その結果龍族は一匹を残して全滅。メカクシも代償として権能を奪われた――って感じか」


 痛み分けという訳でも無いだろう。

 今となっては最後の一匹も亡くなり、種族自体が全滅した龍族側の敗北と言って良い結果だ。


「私もそんなストーリーを思い描いていたよ。もっとも、実際に彼らが対立した事情やメカクシの正体なんてのは考察しようも――いや、待ってくれ」


 エレナが何かを思いついたらしい。唐突に、言葉を切る。


「峡谷の龍は『勇者アルの冒険』の物語で勇者と魔女に出会う前から、真実の目を持っていたはずだ。なら、メカクシと龍族の対立はそれよりも昔の話になる」


「物語が出来るよりも遥か昔の人物――少なくとも、人間じゃ無いな」


 『勇者アルの冒険』の物語。

 それは、エルがかつて宮廷魔導士として生きた時代よりも前に産まれた古典だ。


 『永遠』の大魔法によって二〇〇年以上生きたエルも十分に理から外れた存在だ。

 しかし、仮にメカクシがそれ以上の年月を生きて来たのなら、その比では無いだろう。

 それならば、エルと競っていたあの魔法の応酬にも説得力が有る。


 つまり、メカクシはそれほどの永き時を生きる存在であり、真実の目というチート級の権能を元から有している存在だ。


 しかし、『永遠』の大魔法はエルの作り出した魔法だ。

 それと全く同じものが過去に存在した記録は無い。


 そんな中で、元よりの不老の存在。

 明らかに人間ではない存在なんて、俺の思い付く限り――。


 そんな風に三人で考察を進めていた時。

 突然感じた、大きな魔力の波。


 ドンッと重力が重く圧し掛かる様な感覚。

 それと同時に、外から「きゃあああああっ」と悲鳴声が聞こえてきた。


「なんだ!?」


「アルさんっ!」


 エレナが真っ先に外の様子を見に行く為に玄関へ。

 すぐにエルもその後を続く。

 そして、俺もエルに呼ばれて思考の海から戻り、その二人に続いて行った。


『――君たちが隠れちゃったから、こうする事にしたよ。全く、“神の権能”を盗むだなんて、なんて罰当たりなんだ』


 空に立ち込める暗雲。

 押し寄せる強い魔力の波。

 そして、天から響くあのメカクシの声。


 “こうする”とは、どういう事か、今眼前に広がる光景を見れば一目瞭然だ。


 魔獣の進行。

 アルヴに押し寄せる魔力の波の正体、それは魔獣の軍勢だ。


 地には四足の魔獣、空には鳥型の魔獣。

 様々な種類の魔獣たちが軍を成す様に集まり、街へと押し寄せてくる。


 そして、“神の権能”とはつまり、真実の目の事だろう。


 悠久の時を生きる、不老の存在。

 エルと互角の魔法を使いこなす存在。

 そして、真実の目の権能の本当の持ち主。


 そんな人間ではない存在を何と呼称するだろうか。

 それはまさしく――、


「――“神”」


『――世界中の魔獣の進行、止めたかったら、そっちから会いに来なよ! 場所は、分かるだろ? ――さあ、“大災厄”の再演だ!!』


 その天から響くメカクシの声に、この魔獣の軍勢の意味を理解した。

 強い魔力に当てられ、強化され、暴れ出す魔獣。

 その現象には覚えがある。


 かつて旧王都を中心に広がった、『永遠』の大魔法の失敗によって起こった“大災厄”。

 大魔法により周囲に溢れ出した魔力によって起こされた、瘴気の蔓延、民の異形化、魔獣の暴走。


 その大災厄を――エルの古傷を、再びこの世界で起こそうと言うのだ。


「そんな……」


 エルは明らかな動揺を見せている。

 ローブの奥の目の焦点がブレて、光が失せて行く。


 無理もないだろう。

 エルにとっての、一番嫌な記憶の光景だ。

 メカクシによる大災厄の再演は、明らかにエルを狙った物だ。


 何故メカクシがエルが災厄の魔女である事を知っているのかは分からない。

 しかし、明らかにメカクシはそれを理解した上で、一番嫌なアプローチをしてきた。


「大丈夫、大丈夫だ」


 俺はエルを落ち着かせる為に、強く抱きしめる。

 今までに何度か彼女が俺にそうしてくれた様に。


 しばらく、そうしていただろうか。

 そうしている内に、エルは少し立ち直ってくれた様だ。

 腕の中から顔を上げたその紫紺の瞳は、しっかりと光を取り戻していた。


「……ありがとうございます。もう、大丈夫です」


「――こほん。ちょっといいかな?」


 そんな風に抱き合っていると、割り込むタイミングを伺っていたらしいエレナが若干気まずそうに声を上げた。


「君らは、メカクシの居場所は分かるのかい?」


「ああ」


 メカクシの居場所。

 奴は「場所は、分かるだろ?」と言っていた。

 この大災厄の再演を起こすのならば、奴が居る場所なんて“あそこ”しかないだろう。


「そうか。じゃあ、メカクシの方は任せたよ」


 エレナはそう言って、背を向ける。


「アルヴは、どうするんですか? この数の魔獣、放っておいたら――」


「忘れてもらっちゃ困るよ。本と創作の国アルヴは――エルフ族の国でもあるんだ」


 エルフ族の国――、魔法に長けた、エルフ族の。


 気づけば、アルヴの民は誰からともなく、魔獣に立ち向かう為に立ち上がり、魔法で応戦を始めていた。


「いいね! まるで物語の登場人物みたいだ! こういう台詞を、私も一度言ってみたかったんだ。――“ここは私たちに任せて、先に行け”ってね」


 言葉尻に「ま、私は対して役に立たないんだけど」と付け加えて。

 エレナはまるで何かのイベントの様に、少し楽し気に、そう言って俺たちを送り出した。


 俺たちはエレナの魔法の実力を何となく知っている。

 それは森の中で魔獣に襲われて、一対一でちょっと危ういくらいの物だ。


 なので、それは彼女なりの強がりだという事は想像に難くない。

 俺たちが後ろ髪を引かれない様に、心配させまいとそうしているのだと理解出来た。


「ああ、ありがとう」


「エレナさんも、お気を付けて!」


「ああ! 帰ったら、土産話でも聞かせてくれ」


 俺たちはエレナに背中を押されて、『転移』の魔法でアルヴを後にした。

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