神の世界侵略② アルヴ再訪②
久方ぶりのアルヴの街並みは、数年経った今でも然程変わる事は無かった。
大通りの左右を見ると、数件の本屋が並ぶのはアルヴ特有の光景。
上を見上げると、空を飛ぶ箒の光の軌跡が弧を描き、道路の様に敷かれている。
街灯なんかにも贅沢に魔石を用いた魔道具が使われているのも、魔法の発展したアルヴならではだ。
「あ、このお店、前来た時には無かったです! 寄ってもいいですか?」
新しく、本屋とカフェが併設されたお店が出来ていた。
「後でいくらでも時間はあるから。先にエレナさんのとこ行こうか」
エルが新しく出来たお店に吸い寄せられて行くのを静止する。
予定ではこのアルヴで新しい家を持つのだから、いくらでも来る機会は有るだろう。
まずはエレナに挨拶を済ますのが先だ。
「むぅ~」
エルは頬を膨らませて不服の意を示すも、とてとてと先導する俺の後を付いて来て、隣に並ぶ。
「でも、この国で家を持つってなると、一体幾らかかるんだ……」
ぱっと見の街並みでも華やかで、裕福な国だというのが分かる。
ここまで来たのは良いが、冷静に考えると俺たちの懐事情は然程潤ってはいない。
森の中の小屋くらいの規模の家を持つにしても、かなり厳しいかもしれない。
「うーん。お金に困ったら、錬金術でも覚えましょうか」
「なにそれ、初耳……」
旅をして周ったと言っても、まだ世界の半分も周り切れていないだろう。
まだまだこの異世界は俺の知らない事柄で溢れていそうだ。
そんなこんなで、俺たちはエレナの家を訪れた。
「やあ、よく来たね。元気そうでよかった。君らがまた来るのを待ち侘びていたよ」
呼び金を鳴らすと、すぐにエレナが玄関の扉を開けて出迎えてくれた。
「久しぶり」
「あの、エレナさん、それ……」
エレナの以前会った時との容姿の変化に、エルが声を上げる。
「ん? ああ、そうだね。ちょっとイメチェンせざるを得ない状態になってしまってね。まあ、それが君らに会いたかった理由な訳だけど」
エレナのはそう言って、“眼帯”を上から摩る。
エレナは数年前に会った時にはしていなかった眼帯を、左目にしていた。
それが意味する物のは、つまり。
「――真実の左目が、奪われた」
エレナは淡々と、その事実を告げる。
再会を喜ぶ暇も無く、衝撃の事実が付きつけられた。
これでは引っ越しどころの騒ぎでは無い。
俺たちは以前に訪れた時にもそうした様に、エレナの書斎で集まり話を聞く事にした。
「事の発端は、君らがアルヴを去った一年くらい後の事だよ」
そんな前置きから、エレナが事の経緯を説明してくれた。
――ある日エレナの左目が突然熱を帯び、頭の中にビジョンが流れ込んで来た。
それは過去のビジョン。
エレナの祖父が龍に出会う場面。
そして、エレナの祖父がエレナに左目を継承する場面だった。
エルの時と同じ、真実の目の覚醒によるビジョンの幻視だ。
自分の中にあの真実の目が有るという事に、エレナは心底興奮した。
しかし、その左目の覚醒から数日後の事だ。
エレナの元に、一人の少年が現れた。
“訪ねてきた”のではなく“現れた”のだ。
その少年はどこからともなく、突然現れた。
「――やっと見つけた。僕の目、返してもらうよ」
その少年は短いパーマがかった金髪で、自分の両の目を包帯で覆っていた。
そんな目隠し状態だと言うのに、まるで見えているかのように、エレナの方を真っ直ぐと見据える少年。
エレナはこの突然現れた目隠しの少年がただ者では無いと悟り、すぐに逃げようとした。
しかし、気付けば少年の掌の上には、一つの球体が有った。
エレナが自分の世界の左半分が失われた事に気付いたのは、その球体を認識した数秒後の事だ。
「がああああああああ……!!」
それを認識すると、左目があったはずの場所から、熱がじわりじわりと沁み出して来るのを感じ始める。
そして、激痛が走る。
「右目の方にも伝えといてよ。――次はお前だ」
そして、目隠しの少年の姿は消えた。
その言葉と、痛みと、虚無感だけを残して――。
「――って訳で、残念ながら真実の目はもう私の手元には無いんだ」
「教えてもらえれば、すぐに駆け付けたのに」
「勿論君らにもすぐに知らせたかったんだけど、今どこに居るのかすら分からなかったからね。こうしてまた訪ねて来てくれるのを、首を長くして待っていた、という訳だ」
確かに、この世界には携帯電話の様な連絡手段は無い。
そして、手紙を出そうにも、俺たちは旅をしていたし、そもそも魔女の森に手紙は届かない。
教えろと言っても無理な話だ。
「ああ、それは申し訳ない……」
「いいや、構わないよ。こうして来てくれたんだからね。でもその様子だと、あのメカクシは右目を狙ってそっちには来なかったみたいだね」
エレナはそう言って、エルの方へと視線を向けた。
「きっと、このローブのおかげだと思います」
そう言って、エルはローブの裾を触る。
「ああ、『認識阻害』か」
エルのローブには『認識阻害』の魔法が掛かっている。
その副次効果として、真実の目の反応がそのメカクシの『魔力感知』に引っ掛からなかったのだろう。
「でも、エルも偶にローブ脱いでる時有るよね」
「そうですね。もしそのメカクシがわたしたちのすぐ近くに居たのなら、それで見つかってしまうかもしれません。でも、きっとすごく遠くに居るんだと思います」
「私は魔法にあまり詳しくないのだが、遠ければ感知されない物なのか?」
「そうですね。仮にこの世界全体に『魔力感知』を張り巡らせられたとしても、それは薄く弱い包囲網にしかならないでしょうから」
「常に強い反応を発している様な相手じゃなければ、見つけられないって事か」
エルが外に出るときは大体『認識阻害』のローブを羽織っているし、脱いだとしても短時間の事。
長時間ローブを羽織らないのだってあの魔女の森の中くらいの物なので、簡単に見つかる訳も無い。
逆に言えば、その『認識阻害』を持たないエレナの左目は、常に強い反応を示してしまっていたのだろう。
それ故に、すぐにメカクシの『魔力感知』に引っ掛かってしまったのだ。
「ふぅん。まあ何にせよ、そのローブが役に立っていたみたいで良かったよ」
今エルの纏うローブは、以前アルヴを訪れた時にエレナから貰った物だ。
なんだかんだでそれに思い入れがあるのだろう。
エルは今日まで、ずっと同じ物を使い続けていた。
「とりあえず、左目は取り戻さないといけないけど……。でも、そのメカクシってのは今どこに居るんだろう」
「分からない。なんせ突然現れて、突然消えたからね」
「エルの推理では、遠くに居るはずなんだよね?」
「そうですね。今もそうかは分かりませんが、拠点はここよりもずっと遠くに構えていると思います」
となると、こちらから探して見つけ出すのは難しいかもしれない。
「――次はお前だ、か。待ってたら向こうから来てくれるのかな」
「本人がそう言っていたんだ、間違いなくメカクシはエルさんの持つ右目も狙っているだろうな」
「――じゃあ、会いに来てもらいましょうか」
エルは名案だとでも言うように、手を合わせてそんな事を言う。
やはり、そうなるか。
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