本と創作の国⑨
結局、真実の左目の在処は分からなかった。
エレナの中に有り未覚醒なのか、それとも別の誰かが継承しているのか。
はたまた、既にこの世から失われたのか――。
「エル、残念だったね」
「何がです?」
「目、欲しかったんでしょ」
『勇者アルの冒険』の史実の証明の為の作戦会議は頭打ちだ。
しかし、実際に龍に出会えたエレナは“お爺様の汚名を晴らす”という目的を果たす為に、大きな前進をした訳で、表情は晴れやかだった。
その貴重な体験で創作意欲を刺激されたらしく、エレナは執筆作業に戻るという事で書斎に籠ってしまった。
そんな訳で、手持ち無沙汰に俺たちは今アルヴの街を観光している。
「あはは……。そういう風に見えました?」
「いや、全然。何となくそうかなって思っただけ」
エルは頬を膨らませて、不服の意を示している。
いちいちそんな可愛らしい反応をするから、ついからかいたくなるのだが。
「ごめんごめん。でも、いつか左目も見つかるといいね」
「きっと、見つかりますよ。――永い人生なんですから」
永い人生――文字通り、俺たち二人の『永遠』の人生だ。
いつの日か、もう片割れの左目も、俺たちの前にひょっこり顔を出すだろう。
両方の真実の目を揃えた時に、エルがどんな真実を求めるのか、それは俺にも分からない。
しかし、それはまた別の話だ。
ここは本と創作の国。
左を見ても右を見ても、様々なジャンルの本屋が展開されている。
エルの好きな紙の本がここには沢山ある、しばらくは飽きずに本屋巡りに付き合う事になりそうだ。
そして、ここは魔法の発展した国でもある。
少しでもこの魔女様の――エルの隣に立つに相応しい男になる為に、俺もここで魔法の鍛錬をするのも良いだろう。
でも今は、このアルヴでの、エルとのデートを楽しもうじゃないか。
エルはフードを取り、アルヴに吹く風にその長い黒髪をなびかせている。
白い肌、細くすらっと伸びた手足、尖ったエルフ耳。
――そして、両の目は紫紺色。
今はまだ、真紅に輝く真実の目は鳴りを潜めていた。
ここまで旅のお話です。
時系列としては、ここから『宮廷魔導士① 森の家』へと繋がります。
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