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【完結】少し遅れた異世界転移 ~死者蘇生された俺は災厄の魔女と共に生きていく~  作者: 赤木さなぎ
第二章 旅の物語

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本と創作の国⑤

 一瞬の逡巡。

 そして閃き――いや、これは突飛な思いつきの方が表現として正しいだろう。

 口八丁の出鱈目に肉薄する様な、その思考。


「片目だった……」


 そんな俺の思いつきから、漏れ出た呟き。


「え?」


「片目だけだったんだ。龍の“真実の目”は右目だけだった」


 それは俺の記憶の中に、今も鮮明に残る龍の姿。

 左目は瑠璃色、右目は真紅。純白の鱗。


「どういう、事ですか?」


 エルが問う。


「あの龍が真実の目の権能を使った時、光り輝いていたのは右の真紅の目だけだったんだ。あの右目が真実の目で、あの龍が持っていた権能は半分だけなんじゃないかな」


 そんな思いつきからの突飛な発想。

 エレナの期待へ応えようという思いからの、無理やりなこじ付けかもしれない。

 しかし、俺の胸の中には確信めいた何かが有った。

 “真実の目はもう一つ有る”という確信が。


 エレナも驚いた様で、俺の唐突な言葉に、口を開け一瞬呆けていた。

 しかし、すぐに俺の発言の意図をエレナは察した様で、

 

「では、もう半分の、真実の左目を見つける事が出来れば――」


「――ああ、『勇者アルの冒険』の史実の証明になるはずだ」


 その言葉を聞き、エレナの表情がみるみるうちに変わって行き、目を輝かせる。


「でも、どうやってその左目を見つけるんですか?」


 そんなエルからの素朴な疑問。

 実際、“真実の左目”の捜索に当たって、俺たちには何の取っ掛かりも無いのだ。


「それなんだが、こっちの本は何か役に立たないかな」


 エレナが指した“こっちの本”とは、最初に彼女が原稿の束と一緒に持って来た“古い本”だ。


 俺はその本を受け取り、慎重に開いてみる。

 何せかなり古い本だ、角は傷んでいて、丁寧に触らないと破ったりしてしまいそうだ。


 ぱらり、ぱらりと、ゆっくりとページを捲る。しかし、


「これって――」


「ああ、白紙なんだ」


 ページを捲れど捲れど、何も書かれていない。

 頭から尻まで全てが白紙の本だった。

 白紙と言っても、古くなった紙は白ではなく黄ばんで小汚い色をしているのだが。


 しかし、白紙の本と言うと、思い当たる物が有る。俺たちには馴染深い――、


「――魔導書か」


 エレナが頷く。


 魔導書――魔法を使用する為の魔法式が記された本。

 それには無暗に中身を流出させない為に『隠匿』の魔法がかけられており、その本の著者と所有者以外、つまりは許可されていない者には白紙の本にしか見えず、中身を読む事は出来ない。

 

 つまり、著者でも所有者でも無い俺は、この“古い魔導書”を読む事が出来ないのだ。

 しかし、エレナにも白紙に見えている。

 という事は――、


「エレナさんも、この魔導書の所有者じゃ無い」


「ああ。私にも、今誰がこの本の所有者なのか分からないんだ」


 基本的に売買等の形で、所有者が譲渡の意志を持たない限りはその『隠匿』を看破して中身を読む事は出来ない。


 そんな風に俺が魔導書を眺めていると、エルが俺の横で早く自分に魔導書が回ってこないかと、うずうずしていた。


「ああ、ごめんごめん。エルもどうぞ」


 俺はエルならばこの魔導書の『隠匿』すら看破して魔導書の中身を解読出来るのではないか、という淡い期待も込めて、エルに魔導書を手渡した。



「あ、はい! では、失礼します」


 エルは魔導書を受け取ると、嬉しそうにページを捲って行く。

 どうせ『隠匿』の所為で中身を読む事は出来ないのだろうが、それでも謎の魔導書に好奇心を高鳴らせている。

 魔法オタクの魔女様はご機嫌だ。


 ぱらり、ぱらり、と部屋の中に響くページを捲る音。


「エル、どう?」


 そんな俺からの淡い期待を込めた確認に、少しの間を置いて、ぱたんと本を閉じたエルからの返答は、


「駄目ですね。わたしにも読めないみたいです」


 だった。


「そっか」


「いや、仕方ない。この中身が解読出来れば、何か分かるかも、と思ったのだが」


「すみません、お力になれず……」


 エルは眉をへの字に曲げて、申し訳無さそうにしていた。


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