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【完結】少し遅れた異世界転移 ~死者蘇生された俺は災厄の魔女と共に生きていく~  作者: 赤木さなぎ
第二章 旅の物語

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本と創作の国③

 広場で勇者像を見た後、俺たちは詳しい話を聞く為に、エレナの家にお邪魔する事になった。


「一応確認だけど、君らの名前の由来は『勇者アルの冒険』でいいんだよね?」


「ああ、間違いないよ」


 部屋の中央には二つのソファーとテーブル、そして壁一面の本棚。

 奥には作業机が有り、その上には本や原稿用紙の様な物が雑多に積まれている。


 ここは作家であるという彼女の書斎だ。

 俺とエルは並んで片方のソファーに、エレナは向かい合う形でもう片方に座った。


 ――かつて魔王を討った勇者アルと魔女エル。

 二人がその冒険の旅から帰った後、勇者の故郷はその勇者の功績を称える為に、勇者の名を貰い国の名をアルヴに改めたという。


 そして、アルヴでは様々な書き手によって、勇者の冒険の記録が物語として紡がれていった。

 俺たちの知る絵本『勇者アルの冒険』だって、そんな擦られてきた古典の様な物語の内の一つでしかない。


 そんな冒険譚を元にした創作がきっかけとなり、この国では絵本や小説の形で様々な物語が生み出される様になって行き、物語の創作がアルヴの文化として根付いて行った。


 これがアルヴが本と創作の国と呼ばれるようになった経緯である。


「――と言っても、その勇者と魔女の話はただの伝説、おとぎ話だって皆は思ってるよ」


 と言うのがエレナの談である。

 あの勇者像だって、そんな有名な冒険譚の物語に肖った町おこしの一環の様な物だそうだ。


 まあそうだろう。

 誰だって、俺だって最初は『勇者アルの冒険』をただの本の中の創作上の物語だと思っていた。


 しかし、エルの作り出した、物語の中で勇者が魔王を討ったのと同じ“不死殺しの魔剣”。

 そして、峡谷に住む“真実の目を持つ龍”の存在。

 それらは物語と一致する。


 あの物語は史実なのではないかと、それらを実際に体験した今ではそう思っていた。


「皆はって事は、エレナさんはそうは思っていない、と?」


「ああ、私はこの物語が史実だと思っている。そして、それを証明したい。それでさっきも森の中を探していたんだ」


 森の中を探していた、というエレナの言葉が引っ掛かった。

 俺の知る限り、『勇者アルの冒険』の物語の中でそんな話は出て来ないはずだ。

 森の中で何かを探すことに何の意味が有るのか。


 そんな疑問を抱いていると、エレナはソファーから立ち上がり、雑多な作業机の上の紙の山の中から、一冊の“古い本”と、“原稿の束”の様な物を持ってきた。


「これを見て欲しい」


「触っても?」


「ああ、勿論だ」


 俺はその中から、古く傷んだ原稿の束の方を手に取ってエルとの間に置き、内容を確認した。



―――



 魔王討伐後、夫婦となった二人。


 二人は平和で幸せな暮らしを送っていた。

 

 しかし、二人の元に残された、あまりにも強すぎる力を持つ、魔王を討った“不死殺しの魔剣”。


 その魔剣を危険視した二人は、誰の手にも渡らない様に、森の中の奥深くへと封印した。


 そして、その封印の地に誰も近寄れない様に、森に魔法をかけた。


 きっと、永い時間をかけて、剣の魔力は森へ流れ出して行くだろう。


 そしていつの日か、元のただの勇者の剣として、新たな勇者の元へと届くことを願う。



―――



 その内容は、俺たちの知る『勇者アルの冒険』の物語では描かれていなかった、その物語の続き。

 所謂後日談に当たる物だった。


「これをどこで?」


「私のご先祖様が『勇者アルの冒険』の物語の最初の著者でね。本になる時に削ぎ落された没原稿が、この古い本と一緒にうちに残ってたのを見つけたんだ」


「それで森の中を探して、勇者の剣が見つかれば、史実である証拠になる、と」


 エレナは話が早いじゃないかと言うように、


「そういう事」


 と、満足気だ。


 しかし、俺は森にかけた魔法、そして勇者の剣という二つのワードで、ある可能性に思い当たる。


「……なあ、エル。“あの時”の剣ってどこから持って来たの?」


 俺はひそひそと、エレナに聞こえない様にしながら、エルに声をかけた。

 顔を見ると、明らかに気まずそうな表情で原稿から顔を上げ、こちらに振り向いた。


 “あの時”――旧王都で俺が『永遠』の大魔法の触媒としたあの剣だ。

 元々はただの剣だったが、エルの『不死殺し』の魔法を付与する事で、“不死殺しの魔剣”となった、と俺は認識していた。

 しかし、あの剣の出所次第では、もしかすると――、


「えっと、魔女の森の奥に刺さっていて、丁度いいなーこれ使えるなーって思って、それで……」


「ああ、やっぱり……」


 予想は的中。

 おそらく、あの剣こそがエレナの探していた“勇者の剣”だ。


 ただの鉄の剣がエル程の大魔法使いの不死性を殺す程に強力な“不死殺しの魔剣”に成る事自体に、少し違和感が有った。

 だが、それが伝説の勇者の剣で有ったなら納得だ。


 永い時を経て魔力が森へ流れ出し、『不死殺し』の力をだんだんと失い、ただの勇者の剣として魔女の森の奥に封印されていた。


 しかし、その剣は新たな勇者の元になんて届く事は無く、エルが見つけて持ってきてしまったのだ。

 そして、その剣は再びエルによって『不死殺し』の魔法を付与され、そして俺の手によって塵と成り、もはやこの世には無い。


「やはり、君らは勇者の剣の在処を知っているのか!?」


 そんな俺たちのひそひそとした内緒話の端が耳に入っていた様で、「やはり」とエレナが嬉々とした声を上げた。


 さて、この話をどうエレナに伝えようか。

 彼女は俺たちのアルとエルという名前を聞いて、もしかすると『勇者アルの冒険』について何かしら知っているのではないか、という淡い期待からこの没原稿を見せてくれた訳だ。


 期待には応えてあげたい。

 しかし、俺たちの事情をそのまま伝える訳にもいかないし、何よりお目当ての勇者の剣が既に紛失している事を知れば彼女はがっかりするだろう。


 俺はエルに(どう説明したらいい?)という意味を込めて目配せをする。

 しかし、俺が縋ったその紫紺の瞳から返って来たのは(わたしは知りません)という無慈悲な視線だった。


 仕方ない。

 俺は少し逡巡した後、エレナに事の説明をした。

 勿論災厄の魔女や異世界人という重要な部分は省いて、彼女の知りたい部分についてだけだ。


 確かに俺たちは勇者の剣だと思われる剣を所持していた事、しかしそれは魔法の触媒として使用してしまいこの世にはもう存在しない事。


「そんな……。お爺様の汚名を晴らせると思ったのに……」


 俺の話を聞いたエレナはがっくりと肩を落とし、そんな事を呟いた。

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