本と創作の国②
本と創作の国、アルヴ。
様々な物語が生み出され、多くの作家を輩出してきた、創作の聖地。
家の地下に書庫を持つ程の読書家であるエルたっての希望で、俺たちはこのアルヴを目指していた。
ひょんな事から案内人を得た俺たちは、その案内人――エレナの案内の元、森を抜けて、その先。
ついに、本と創作の国アルヴへとやって来た。
アルヴの賑やかな街並みには何軒もの本屋や魔道具屋が立ち並び、魔石を活用した魔道具の数々が様々な箇所で用いられていて、看板が宙を浮いていたり、きらきらと光を放つ様な装飾が多く見られる。
それらは全て他国では見られない様な光景だ。
上空を見上げると、箒に乗って空を飛ぶ人々。
一応交通網の様な物は有る様で、箒の進む背後には光を反射する粒子の様な軌跡が有り、人々はそれに沿って飛行している様だ。
ここでは、他国よりもかなり魔法が発展している。
生活のあらゆる面で魔法が活用されていた。
そして何より、この国に来てすぐに目についた特徴。
それは――、
「みんな、わたしと一緒です!」
エルが言う“わたしと一緒”とは、その耳の形の事を言っている。
エルは森での一件、魔獣との戦闘で『認識阻害』のローブを失ったままだ。
ローブが無いと言う事は、それイコールいつもの『空間』の魔法も使えないという事なので、新たなローブも用意できず、今はその長い黒髪とエルフ耳を外へ晒したままだ。
しかし、アルヴに足を踏み入れてからずっと、すれ違う人々のほぼ全てが長く伸び尖った、そのエルフ耳をしていた。
そう、この国の住人は皆、エルフ族なのだ。
周囲の人々も皆エルフ族であり、髪の色は違えど同族であるエルに対して偏見の目を向ける者など居なかった。
災厄の魔女の逸話が根付く新王都からも遠く離れた地で、エルフ族の国ともなれば、『認識阻害』のローブもここでは必要無さそうだ。
森の中でローブを失った時は少し警戒をしてしまったが、この様子では取り越し苦労だった様だ。
エルフ族が住み、魔法が発展している、本と創作の国。
まるで、エルの為にあるかの様な国だ。
やはりエルはこの国を気に入った様で、紫紺の瞳を輝かせながら、右を左をときょろきょろと興味深そうに見回していた。
俺たちはエレナの「見せたいものが有るんだ、付いて来て」という言葉に従い、彼女の背を追いながら、アルヴの大通りを歩いてた。
石畳を踏みしめながら歩き進むと程なくして、大通りを抜けて広場に出てきた。
「付いたよ。見せたかったのはこれさ」
先頭を歩いていたエレナが振り返り、背の方を親指で指す。
指を指された方へ視線を向けると、そこには天を突く様に剣を握る、鎧を着た一人の男を象った、大きな石の像が有った。
その石像の姿にはどこか見覚えがある。
「これは?」
「“勇者アル”の像、と言えばピンと来るかな?」
勇者アル。
エレナが発したその名前に、俺とエルは反応した。
石像の姿に見覚えが有った理由。
それはこの姿を、俺たちは絵本の表紙で見た事が有ったからだ。
「『勇者アルの冒険』の物語に出てくる、あの勇者ですか?」
「ああ、そうだとも。君らの名前を聞いて、もしかしたらって思ったんだけど……その様子だと、当たりかな?」
エレナはしてやったりという顔でそう言った。
アルヴでのまさかの出会い、ここは『勇者アルの冒険』の聖地だった。




