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【完結】少し遅れた異世界転移 ~死者蘇生された俺は災厄の魔女と共に生きていく~  作者: 赤木さなぎ
第二章 旅の物語

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本と創作の国①

 エルと一緒に次の目的地を目指して、森の中を歩いていた道中の事だ。

 この森さえ抜ければ、もうすぐで到着するだろうという頃。


「うわああああ!!」


 と、突然。

 鬼気迫った悲鳴が聞こえてきた。


「アルさんっ」


「ああ」


 声を聴く限り、距離もそんなに遠くは無い、『身体強化』で走れば間に合いそうだ。


 エルも同じ様に考えた様だ。

 俺と目を見合わせるのを合図に、すぐに二人は駆け出し、森の木々の間を抜けながら、声の主の元へと向かった。


 全力で駆けると、声の主はすぐに見つかった。

 そして、そこには二つの影。


 一つは、その声の主だろう。

 金色の短髪、瑠璃色の瞳、そして長く尖った耳。

 その特徴的な容姿から、すぐにその女性がエルフ族だと分かる。


 きっちりとしたシャツにサスペンダーのパンツスタイルというその整った身なりから、ちゃんとした、それなりに裕福そうな人そうだな、というのが第一印象だった。


 そしてもう一つの影の正体、それは魔獣だ。

 見覚えの有る、おそらく一番生息数の多いであろう個体。

 四足歩行で四ツ目の犬型魔獣、エル曰く通称わんちゃんだ。


 こんな所にも魔獣は湧くらしく、運悪くこのエルフの女性は魔獣に遭遇してしまった様だ。


 エルフの女性に食って掛かろうと、地を蹴る魔獣。

 このままではまずいと、俺が身体を動かす――よりも速く、風の様に駆け抜けたエル。

 瞬く間に、女性と魔獣の間に割って入って行った。


 風と言えば、この魔獣もそうらしい。

 爪に『風』の魔法を纏い、魔獣が襲い掛かって来る。


 しかし、魔獣の『風』の爪がエルフの女性に届くよりも早く、間に入ったエルが薄紫色の『結晶』を作り出し、魔獣へ放った。


 俺が『物体浮遊』で石の弾丸を飛ばすのと同じ様に、エルは魔法を行使したのだ。


 結晶の弾丸は魔獣の身体の中央を完全に捉え、風穴を開けた。

 肉体を維持できなくなった魔獣は、そのまま霧散する。


 勝利を確信するエル。

 しかし――、


「エルっ!」


 俺は魔獣の動きに気付き、声を上げる。

 しかし、間に合わない。

 死に行く魔獣の最後の抵抗だ。


 爪に纏った『風』が魔獣の肉体が霧散すると同時に、鎌鼬の様に周囲に飛び、辺りの木々を切り裂いた。


 勿論、すぐ近くに居たエルもその風刃をもろに受ける。

 鎌鼬の風刃によってエルの『認識阻害』のローブが切り裂かれ、その腰まで伸びた長く美しい黒髪と、エルフ耳が露わになる。


 災厄の魔女の特徴として言い伝えられている黒髪のエルフというその容姿を隠すために、エルは『認識阻害』の魔法をかけたローブで姿を隠していた。


 勿論トラブルを避けるためだ。

 もしこの魔獣に襲われていた女性が災厄の魔女を知っていて、それに対して悪印象を持っていれば、それだけで詰みだ。

 言いふらされでもしたら堪ったものではない。

 最悪の場合、力づくでも口止めをする必要がある。


 僅かな緊張が走る。

 しかし、エルは俺の想像とは違った行動を取った。


「……えっと、大丈夫ですか?」


 エルも自分を包むローブを失った事で一瞬の動揺を見せたが、すぐにその動揺を押し隠す様に表情を取り繕う。


 そして、自分の後ろで腰を抜かして、地に尻を付き倒れる女性に向き直った。

 そのまま、まるで試すかの様に、手を差し伸べた。


「はぁ……。ありがとう、本当に助かったよ……」


 エルフの女性は、エルの容姿に恐怖や悪感情を抱く様子は無い。

 その表情に見られる感情は“安堵”だ。


 魔獣の散り際の『風』の刃もエルフの女性には被害を及ぼしていない様だ。

 エルの活躍の甲斐有って、転んで擦りむいた以外は無傷同然だ。


 彼女はただ自分の命を救ってくれたエルに対しての感謝を述べ、何の迷いも無く、エルの差し出した手を取っていた。

 その反応を受けて、エルの表情もどこか和らいだように感じた。

 

「こんな所で、何してたんですか?」


 俺がエルフの女性に対して問う。


「なあに、現地取材だよ。私はエレナ、作家をやっている者だ。そう言う君らは?」


 エレナと名乗る作家の女性。

 その堂々とした立ち振る舞いに一瞬納得させられそうになる。

 しかし、女性が単身、魔獣の出る様な危険な森の中に入って行くなんて、創作の為の取材活動にしても、なんとも無謀で破天荒だ。


「俺はアル。で、こっちが妻の――」


「エルです」


 俺に続いて、エルが名乗り軽くお辞儀をする。

 気のせいだろうか、俺たちの名前を聞いて、エレナの目つきが少し変わった気がした。


「旅の道中です。歩いてたら丁度悲鳴が聞こえてきたんで」


「ああ、旅の人か。奥方がエルフだったから、てっきり君らもアルヴの人かと思ったよ」


 アルヴ。

 彼女の――エレナの口から出たそれは、国の名前だ。

 俺たちの目指す次の目的地、それが『本と創作の国、アルヴ』だ。


 君らも、と言う事は、つまりエレナはアルヴの住人と言う事なのだろう。

 アルヴの住人という事なら、彼女がエルフであり、職業を作家と名乗ったのにも合点が行く。

 アルヴとはそういう国だ。


「丁度そのアルヴへ向かう道中だったんです」


「ああ、そうか。だったら丁度いい、案内するよ。――それに、私も君らには用が有りそうだ」


 こうして、ひょんな事から出会ったエルフの女性、エレナ。

 彼女と共に、俺たちは本と創作の国アルヴへと向かう事となった。


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