龍の峡谷④
少し峡谷の中を歩いた頃。
俺たちは角ばった岩肌に手を添わせながら峡谷の谷間を歩き、目的の龍の住処を探していた。
乾燥した大地から隆起する山の岩肌は、かつて有ったであろう川の水流で抉り取られ、槍の様に角の立つ岩肌を露出させている。
角ばり鋭利に尖っているだけでなく、水分を失った岩肌は手で触れるとぼろぼろと崩れてくる場所も有り、気を付けて歩かないと落石なんかの危険も有りそうだ。
そうやって歩いていると、
「痛っ……」
エルが唐突に、片手を抑える。
どうやら、エルはそんな岩肌に沿わせていた手を、鋭い岩の角で切ってしまった様だ。
「大丈夫?」
「ちょっと指を切ったみたいです。でも、どうせすぐに治りますよ」
エルはそう言って、傷口に唾を付けてれば治るという民間療法の様に、血の出ている指先を口に咥えて、血を舐め取った。
かつては腕を魔獣に喰われても、まるで痛みを感じていないかの様だったエル。
しかし、最近ではどうやら痛みを感じる様だ。
いや、もしかしたら指先から出た血に反応して反射的にそう口にしただけかもしれないし、実際にどう感じているかまでは分からないが。
しかし、最近のエルはどこか丸くなったと言うか、柔らかくなった。
人間味が増した様に感じる。
そう言ったエルの心の変化が、身体の状態にも表れているのではないだろうか。
そんな風に思うと、怪我をしてしまったエルには少し悪いとは思うが、ちょっと嬉しいなと思ってしまった。
ただ、先程エルも言った通り、俺たち『永遠』の不死性はこの程度の怪我なんてすぐに無に帰してしまう。
実際、エルがその指を口元から離した頃には、その怪我は既に修正されていた。
どこを怪我したのか、どこに傷口有ったのか、それはもう分からなくなっていた。




