龍の峡谷②
まさか、絵本の中の、架空のはずの場所が本当に実在していたとは。
俺たちの旅の目的、“『勇者アルの冒険』の聖地巡礼”。
それが本当に叶うとは、正直思ってもいなかった。
エルだって本の場所が実在するかどうかなんて知らないと言っていたし、あくまで架空の物語の世界だと思っていた。
二人共“有ると良いな”くらいの気持ちでいただろう。
しかし、商会の会長の口から語られたそれは、俺たちの知る『勇者アルの冒険』の内容と一致する。
“龍の峡谷”――勇者と魔女が物語の中で訪れた場所。
物語の中で、二人は不死の魔王を討つ方法を探る為に、真実の目を持つ龍に会いに行く。
――龍はその真実の目の力で、過去未来問わず、この世の全てを見通すことが出来る。
龍は峡谷の奥深くに隠れ住んでいて、そこへ辿り着くのは非常に難しい。
しかし、その龍の元へ辿り着けた者は龍に実力を認められ、一つの特権を与えられる。
龍の元へ辿り着けた者には、真実の目の権能を使う権利が与えられる。
つまり、龍がどんな問いにも答えてくれるのだ。
しかし、その力を乱用されない為に、龍と人との間には一つの誓約が有る。
“龍への質問は一人につき一つまで”だ。
一つだけと言っても、それを有効に利用できれば、全てを見通す真実の目はそのたった一つの問いだけでも、人一人の人生を変えるには余り有る。
ある者は富を得る為に。
ある者は愛する者の命を救うために。
そして、ある者は世界を守る為に。
その龍の真実の目を求めるのだった。
――これが『勇者アルの冒険』に登場した“龍の峡谷”の概要だ。
本当に史実として勇者と魔女が訪れたかどうかはともかく、作品のモデルとなった龍の峡谷で間違いないだろう。
何故商会の会長がそんな話をしたのかと言うと、丁度荷馬車が通ったのがその龍の峡谷の近くだったのだ。
彼は過去にもそこへ来た事があるらしく、そこで龍に出会ったと言う。
龍に出会った彼がその真実の目に何を問うたのか、そこまでは教えてはくれなかったが、会長曰く、龍は実在するらしい。
話を聞いた俺たちは次の街へ向かう商会の荷馬車を途中下車し、商会の会長から聞いた、その龍の峡谷へ向かう事にした。
俺たちは遠のく荷馬車の列を見送り、龍の峡谷へと歩を進めた。




