龍の峡谷①
旅の道中。一つ、面白い話を聞いた。
いつものようにヒッチハイクの要領で、今日は商会の荷馬車に乗せてもらい、次の街までの道中の事だ。
「そうだ、お二人さん。龍に会った事は有るかい?」
煌びやかな装飾品と、整った装束。
いかにも儲かっていますという風体の行商のおじさん。
彼がこの商会の会長だ。
道中の暇な時間を潰すための雑談の流れで、会長の自慢話の一つとしてそんな話が飛び出してきた。
「おじさん、龍って、絵本に出てくるあの龍ですか?」
エルがおじさん――商会の会長から出てきた唐突な“龍”という言葉に反応した。
龍、ドラゴン。
創作の物語に出てくる空想上の生物。
二枚の翼で空を飛び、口から火を噴く、大きなトカゲ。
「絵本? ――ああ、『勇者アルの冒険』かい? そうさ、その龍だよ」
エルの発した絵本と言う単語に対して、会長はすぐにそのタイトルを挙げた。
『勇者アルの冒険』――勇者アルと魔女エルの二人が魔王を討つ為に冒険をする物語。
俺たちの旅の理由であり、俺たち二人が名前を貰った、特別な意味を持つ物語だ。
確かその物語の中で、勇者と魔女の二人が特別な龍に会いに行く話が有った。
確か、その場所は――、
「“龍の峡谷”――なんでも、そこには真実の目を持つ龍が住んでるって話さ」




