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【完結】少し遅れた異世界転移 ~死者蘇生された俺は災厄の魔女と共に生きていく~  作者: 赤木さなぎ
第二章 旅の物語

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霧の村⑤

 広場へ行くと、若い男とその付き人の二人が居た。


「おお! あんたはラルク村の!」


 彼らが隣のラルフ村からの客人であり、おそらくエルの言っていた“待ち人”だろう。

 広場に来ていたのは、ラルク村の村長の息子――つまりは、アンナの婚約者だった。


 俺たちがゴーフ村に訪れたのは二日前の事だ。

 その日は、アンナが隣のラルク村へと婚約者に合いに行く日だった。


 ラルク村の婚約者はアンナの事を待っていただろう。

 しかし、その予定日に婚約者のアンナが会いに来る事は無かった。

 魔法の霧によって村から出られずに、アンナはラルク村へ行く事は出来なかったのだ。


 会いに来るはずだった婚約者が会いに来ない、そんな事が有れば普通何かあったのではないかと心配になるだろう。

 そして、その婚約者が隣村に住んでいて、すぐに会いに行ける距離に居るのならば、自分の足で会いに行くはずだ。


 エルの言う「待っていれば、そろそろ来る頃だ」とはつまり、“隣村の婚約者が逆に会いに来てくれる頃”という事だったのだ。


 ゴーフ村の内から外へは出られない。

 しかし、その逆は可能なのだ。

 外から内には入る事が出来るのだ、俺たちがこの村へ入って来た様に。


 婚約者の青年はアンナの方へ駆け寄って行き、彼女の無事を心底喜ぶようだった。


 こちらからでは会話の内容は窺い知れないが、二人の表情は穏やかなものだった。


 すると、


「霧が――!」


 アンナと隣村の婚約者との邂逅が果たされると、途端に霧が晴れて行き、その隙間から陽射しが差し込む。

 これまで村を包み込んでいた冷たい霧はどこへやら。

 今は、結ばれる二人を祝福するかの様に、明るく暖かな日差しが、ゴーフ村を照らしていた。


「ふふ。良かったですね、アンナさん」


 そんな二人の様子を少し遠くから見守る様に、エルは目を細めていた。


 ――霧は、晴れた。



・・・



「で、どうやって霧を晴らしたの?」


「わたしは、何もしてませんよ?」


「勿体ぶるなって」


 エルは「すみません」と悪戯っぽく笑った後、事の顛末を説明してくれた。


「あの霧は、アンナさんの魔法だったんです」


「犯人はアンナさんだったって事?」


「いいえ。無意識下の魔法ですよ。アンナさん自身も気づかない内に、婚約への不安が霧の魔法と言う形になって現れていたんです」


 婚約者へ会う不安。

 優しい人だろうか、性格は合うだろうか、これからずっと一緒にやっていけるだろうか――。

 そういったアンナの所謂マリッジブルーと呼ばれる感情の機微。

 村の外へ出られない理由が有れば、婚約者と会う予定を先延ばしに出来る。


 誰だって、可能ならばそういう不安や緊張を伴うイベント事を先延ばしにしたいだろう。

 それが今回、偶々“村の外へ出られない霧の魔法”という形となったのだ。

 

 だが、アンナの不安は、おそらく杞憂だっただろう。

 ラルク村から来た婚約者の青年は、気の良い爽やかな青年だった。


 おそらく、彼にも仕事が有っただろう。

 それでも、予定通りに来なかったアンナの事を心配して、すぐに向こうから出向いてくるくらいには、彼女の事を思ってくれていたのだ。


「でも、この事はアンナさん以外には秘密でお願いしますね?」


「わかってるよ」


 他の村人に“アンナの所為で村から出られなかった”なんて知られたら、彼女が責められてしまうだろう。

 それは本意ではない。


 しかし、アンナには無意識下でこの規模の魔法を発動させてしまえる程度には魔法の才が有る訳で。

 その辺りはこれからコントロール出来る様に、魔法を学んでいく必要があるかもしれない。


「――でも、よく霧の正体が分かったね」


 村を覆う霧に紛れてアンナの身体からは魔力を感じられなかった。

 気付いたきっかけが、俺には分からなかった。


「それは、わたしとアンナさんが似ていたからだと思います」


「似ていた?」


「はい。森の中に閉じ籠っていたわたしと、霧の中に閉じ籠ろうとしていた彼女が、です」


 エルはアンナに“共感”した。

 それがこの一件を紐解くきっかけだったという事だ。


 その共感と言う感情はとても人間らしくて、エルが俺以外の人間に対して感情を動かしたという事実に、俺は少し嬉しくなった。


「――なあエル。アンナとなら友達に――」


「駄目ですよ」


 俺はエルと恋人や家族にはなれても、友人になる事は出来ない。

 俺はエルの人生を彩る人間関係の一つとして、それを提案しようとした。


 エルとアンナは傍から見ている分には仲が良さげだったし、もし友人関係を築けるのなら、それは素晴らしい事だろう。


 しかし、「なれるんじゃないか」と続けようとした俺の言葉を待つ前に、エルの口から出た答えは否定の言葉だった。

 

「だって、彼女は先に死んでしまいますから。――そんなの、寂しいだけです」


 エルはそう言って、儚げに微笑むのだった。

 彼女もまた『永遠』を求める者の一人であり、“ずっと一緒”を果たせない相手では駄目なのだろう。


 でも、そんな表情で、そんな事を言うのは、それはもはやアンナに気を許していると、友人にしたいと――、友人だと、認めている様なものではないだろうか。


 エルと二人でそんな話をしていると、アンナがこちらへ駆け寄って来た。


「あのっ、本当に、ありがとうございました」


「わたしたちは、何もしていませんよ」


 俺が霧を晴らした方法を問うた時と同じ様に、エルは答えた。


「そんな事……。私、エルさんに会えて嬉しかったです」


「ええ、わたしもです」


「……また、会えますか?」


「ええ、またいつか」


「その時はぜひ、フードの下のお顔を見せてくださいね?」


 きっと、アンナは俺の言い訳が嘘だと気づいていたのだろう。

 そんな事を言ってエルを困らせていた。


 と言っても、エル自身やはり満更ではない様で、困ってはいるが嫌がっている訳では無い。

 その表情は優しく笑っていた。


 ――その後、俺たちはゴーフ村を発った。

 また、俺たちは旅路を歩き出す。


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