霧の村④
「エルさんは、どうして結婚したんですか?」
お出かけをして、その帰り道の事です。
わたしとアンナさんがお話をしていると、ふとそんな話題をアンナが持ちだしてきました。
「どうして、ですか?」
「どうしてと言いますか、決め手になったのは何なのか、と思ったんです」
「――そうですね。彼がわたしとずっと一緒に、同じ人生を歩んでくれると、そう言ってくれたからでしょうか」
アルさんとの出会いの顛末を全て正直に、事実を伝える事は出来ません。
それに、言っても信じてもらえないでしょうから。
それでも、好意的に接してくれている彼女に対して、可能な限り誠実に答えたかったので、わたしは少し間を置いて言葉を選んだ後、正直な自分の気持ちだけはちゃんと伝えました。
「愛しているのですね」
「ええ、わたしはアルさんを、心から愛しています」
それは迷いなく、すっと口から出たわたしの気持ちでした。
「やっぱり、羨ましいです。――私の婚約は政略結婚なんです。村の合併に合わせて、隣村の村長の息子と結婚する事になっています」
「そうだったんですね」
「私は、あなた達の様な夫婦になれるでしょうか。幸せに、なれるでしょうか」
なるほど。
アンナさんはこの結婚に不安を感じているのですね。
無理も無いです、会った事も喋ったことも無い男性といきなり結婚だなんて、不安に感じない人の方が少ないでしょう。
昨日、アンナさんは婚約者に会いに行く予定が有ったと言っていましたが、この濃霧の所為でそれは叶いませんでした。
その所為でより不安は増すばかりだと思います。
――いえ、どうでしょうか。
もしかすると……。
「――大丈夫です。きっと、アンナさんのお相手も、素敵な人ですよ」
普通の結婚ではない、事情の特殊なわたしがアンナさんにしてあげられる助言は殆ど有りません。
なので、わたしは彼女の不安を少しでも解消させてあげらられる様に、気休めでも、薄っぺらくても、そう言葉を紡ぎました。
そんな感じで、霧の掛かる中でも、同性の方と二人で色んなお話をしながら村をふらつくというのは、とても楽しかったです。
どうせなら、次は晴れた日に、また来てみたいですね。
―――
「やっぱり、関係なかったですか」
「やっぱりって、分かってたなら言ってくれよ」
畑から戻ってくると、エルとアンナも村長宅まで帰って来ていた。
俺がエルに報告として地脈の魔力詰まりは解消できた事と、それでも霧は晴れなかった事を伝える。
すると返って来た返事はそんな俺の仕事を徒労と一蹴する様な無情な一言だった。
勿論エルにそんな意図は毛頭無いのだが、それでも俺は結果としてがっくりと肩を落とした。
「分かってたと言いますか、そうじゃないかなってくらいです。確信は無かったですよ?」
そんな風に悪戯っぽく笑う彼女の表情も可愛くて、魅力的で、俺は怒るに怒れなかった。
「でも、結局霧の正体は分からなかったし、これでまた振り出しだ」
「そうでもないですよ? わたしには、この霧の正体が分かった気がします」
しかし、そんな事をエルは言う。
一体どこに霧の正体を特定する要素が有ったのか、俺には分からなかった。
それでも、俺には見えていない何かが見えているのだろう。
この災厄の魔女様にはもう全てお見通しという事か。
そして、畑の不作を解消した日の翌日。
「待っていれば、霧は晴れると思います」
朝食を取っているとエルの口からと唐突に切り出された。
「待っているだけで、本当にこの霧が晴れるのですか?」
「はい。きっと、そろそろ来る頃だと思いますよ」
村長はエルのそんな突拍子も無い言葉に疑惑的だ。
しかし、すぐにエルの言葉通りに“待ち人”は訪れた。
トントンと玄関の方からノック音聞こえてきて、扉が開かれた。
村人が一人、村長の家を訪れてきた。
「村長! 広場に客人が!」
――それが、この魔法の霧事件の解決の合図だった。




