霧の村②
「――さて、どうしようか」
今、俺たちは村長の家の一室で休息を取っているところだ。
魔法の霧の所為で村から出られないので、霧が晴れるまでの間、この村に滞在する事となった。
しかし、この村には宿屋が無かったので、俺たちはアンナの計らいで村長の家に泊まらせて貰える事になったのだ。
ただし、泊めてもらうのに伴って村長から出された条件は――、
「この霧を晴らすのを協力してもらいたい」
との事だった。
アンナから霧の原因の話しと、俺たちが魔法使いだと聞いた村長は、この“魔法の霧事件”の解決を依頼してきた。
俺たちからしても、ずっとこの村に留まる事は本意ではない為、利害は一致している。
「エルの魔法でちゃちゃっとどうにかなったりしない?」
「そういう魔法も有りはするのですが、この霧の魔法をわたしは知らないので、難しいかもです」
『相殺』という魔法を無効化する魔法が有るらしい。
しかし、それは対象の魔法を知っている事が条件で、今この霧に対して即効性は無いらしい。
それに、魔法を無効化するにしても、術者を見つけて止めさせるにしても、霧の発生源を突き止めなければならない。
結局、今回の場合はどちらにせよ原因の究明が不可欠だ。
「この霧が魔法って事は、誰かの悪戯って事だよね」
「そうとも限りませんよ。ほら、うち森の『迷い』の魔法だって、天然に根付いた魔法ですし」
「ああ、確かに。じゃあ探すのは何も術者の人間だけじゃないって事か」
「そうですね。後は術者が無意識下で魔法を使っている場合も有るので、原因の特定は結構骨が折れるかもです」
霧の魔法を行使する術者を見つければ良いと思っていたが、必ずしもそうではない様だ。
そう聞くと、途端に重労働の様な気がしてきて、少しげんなりしてきた。
しかし、やらない事にはこのゴーフ村を出られないのだ。
そんな作戦会議をしていると、トントンと扉を叩くノック音が聞こえてきた。
音に反応してエルはさっとローブを被り、それから「どうぞ」と声を返した。
「失礼します。食事の用意が出来ましたよ」
霧で空からの光も届かず、殆ど夜の様な物だったので気づかなかったが、いつの間にかもう夕食の時間らしい。
アンナが呼びに来てくれた。
瘴気に包まれた旧王都の空もこんな感じだったが、あそこの空気はもっと重苦しいものだった。
対して、霧に包まれたこの村はあそこの空気よりも湿気を含んだ分、どこか肌寒く、冷たく感じた。
・・・
「――奥様はずっと、ローブをされているのですか?」
食事の席には村長と娘のアンナ、そして客人の俺とエル。
そして、その疑問を発したのは娘のアンナだ。
疑問自体は最もなものだ。帽子やフードの様な被り物は食事の際邪魔になるだろうし、外すのが普通だろう。
しかし、エルは俺の隣で、ローブのフードを被ったまま食事を取っているのだ。
「あっ、あの、えっと……」
「すみません。実は、妻は顔に傷が有りまして……」
慌てるエルに、俺は横から助け舟としてそれっぽい嘘を吐いた。
アンナには申し訳ないが、本当の事を――彼女が災厄の魔女であるという事を正直に言う訳にもいかない、仕方のない事だ。
「ごめんなさい、そうとは知らず、私……」
エルは「大丈夫ですよ」と心底申し訳なさそうにしているアンナを宥めていた。
その後、二人は何だかんだ仲良さそうに話をしているので、男の俺は居ても邪魔だろうと判断。
アンナの事はエルに任せて、俺は今後の方針を決める為に、村長の方から情報を聞き出す事にした。
「この村で何か変わった事は有りませんでしたか?」
「そうですな。変わった事と言いますか、実は――」
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