宮廷魔導士④ 王城前
次に俺たちは、王都の王城前まで来ていた。
あの魔法オタクの店主が経営する魔道具屋。
そこから魔導書を入手した事がきっかけの、“災厄の魔女の魔導書の入手が動機の犯行”という線はほとんど消えた。
残っているのは、もうひとつ。
“災厄の魔女への恨みが動機の犯行”という線。
家の破壊具合や周囲の荒らし様から、犯人からの強い恨みや憎しみの様な感情を感じられる。
「でも、実際うちの本は何冊か持っていかれてましたよ」
「そうなんだよなあ。だからもしかすると、って思ってね」
俺には蔵書の量が多すぎて、物色された書庫からどの本が盗まれたのか分からなかった。
しかし、どうやら持ち主のエル本人には何が無くなっているのか把握できていたらしい。
曰く、「盗られていたのは全てわたしの書いた魔導書です」との事だった。
ならば、書庫を荒した目的が魔導書目当てなのは間違い無いだろう。
ちなみに、魔道具屋を出る前の事。
魔道具屋の店主にも、八百屋で噂を聞いた件の宮廷魔導士について話を聞いてみた。
すると、
「突然出てきたよく分からん爺さんじゃよ。何でも珍しい魔法をいくつも使うとかで祭り上げられておったよ」
との事だった。
王城の前まで来た俺たち。
しかし、その目的は今の王様へ謁見しに来たなんて事では無い。
そう、俺たちが用事が有るのは、ただ一人。
八百屋で話を聞いた、新しく着任したという“宮廷魔導士”だ。
八百屋の店主曰く、容姿はエルフのお爺さんという事らしい。
“もしかすると”というのは、急に宮廷魔導士が出世した理由に“災厄の魔女の魔導書”が関係しているのではないか、という推理だ。
災厄の魔女を狙った犯行で、偶々入手した魔導書。
その魔導書で覚えた災厄の魔女特製の魔法で一躍成り上がり、なんて事は全然有りそうだ。
「宮廷魔導士って、昔のエルと同じだよね」
「そうですね。今のお国事情は分かりませんが、その地位を貰えるという事は、かなり腕の立つ魔法使いだと思いますよ」
同じ宮廷魔導士、腕の立つ魔法使い。
そうとなると、エルの『認識阻害』のローブを自力で看破される可能性という懸念も有る。
なので、最初は俺一人で王城へ行こうかと思っていた。
しかし、エル曰く「もしその人が犯人なら、どちらにせよ、ですよ」との事だった。
そんな訳で、結局二人で城門前まで来た。
しかし――、
「宮廷魔導士様にお会いしたいのですが」
「残念だが、いきなりの訪問は認められていない。お帰り頂こうか」
「……宮廷魔導士の爺さんに会いに来たんですけど」
「……残念だが、お帰り頂こうか」
この鋼の様に固い、堅物の門番が手強かった。
問答を繰り返すものの、定型文を返すNPCの様に同じ台詞で、アポなし訪問NGの一点張りだ。
しかし、まあ当然と言えば当然だ。
宮廷魔導士様なんて要人に、どこの馬の骨とも分からない一般市民が、そう簡単に会わせてもらえるはずも無い。
そんな風に同じ問答を続けていた俺に代わって、
「わたしたち、どうしても宮廷魔導士さんにお会いしたいんです……」
と、エルが交渉に出る。
すると、
「……宮廷魔導士様は今留守にしている。お帰り頂こうか」
門番の態度が少し変わって、何やら口を滑らせた。
エルが女性だからなのか、何か口を割らせる様な魔法を使ったのか。
どちらにせよ、ここには居ないという情報を引き出す事が出来た。
しかし、当然というか、門番の対応はその後も変わらず。
やはりアポ無しの訪問を許してくれるはずもなく、俺たち二人は門前払いをくらったのだった。
「追い返されちゃいました、ね……」
「まあ、そりゃそうだ」
しかし、収穫が無かった訳では無い。
口を滑らせた門番曰く「宮廷魔導士は留守にしている」との事だった。
つまり、早い話が王城の外を探せば見つけられる可能性が有るのだ。
居ないと分かれば、もう王城に用は無かった。
しかし、この広い王都、どこから探せば探し人が見つかるのか――。
と、途方に暮れかけていた時。
エルがどこかから手に入れてきた新聞を持ってきた。
「アルさんアルさん、これ見てください」
「その新聞、どうしたの?」
「そこで売ってたので買ってきました。それよりも、これです!」
そうエルの指す記事に目を落とすと、
「旧王都の解放……、瘴気を払う……、宮廷魔導士?」
「はい。今の宮廷魔導士さんのお仕事だそうです」
その新聞の内容には『新任の宮廷魔導士が旧王都の瘴気を払って解放し、この国の領地を拡大する為に動き出した』という話が書かれていた。
という事は、だ――、
「――旧王都に行けば、宮廷魔導士に会えるかもしれない」
「はい。行ってみましょう!」
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