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昭和12年、軽井沢宣教師館の青い目の娘、  続・小夜物語  第32話

作者: 舜風人

前書き


恐らく?

1970年ころに書かれた、今は亡き叔父の雑記帖(日記)に残された文章を

私が拾い読みして

まとめあげたものになります

叔父の原文は古色とカビとで判読不明箇所も多くて

その部分は私が補筆いたしまして、

物語として整えたことをおことわりしておきます。





☆昭和12年、軽井沢宣教師館の青い瞳の娘 (亡き叔父の日記より)





あれはもう40年以上も昔になるだろうか。

そのころ私はこの県の北部にある、有名な避暑地の近くの開拓農家の少年として少年時代をすごしていた。

16才だった、

自分でいうのもどうかとは思うが、、

我が家は開拓村一番の豪農で一体の土地はほぼわが家の所有だったし、私はそこのの息子だった。。

当時の私の夢は高等師範学校に行くことだった、

昭和の始まったばかりの頃、ようやく避暑地としての体裁も整い、宣教師たちの別荘も立ち並び、折から西武が大規模な開発に乗り出そうとする頃の軽井沢が舞台。草軽電鉄がのんびりと湯治客や避暑に来た外人、セレブを乗せてゴトゴト北軽井沢高原を走り、草津と軽井沢を行き来していた頃。


村はずれの、白樺林の連なる、一帯は古くからの、別荘地で、そこには、しゃれた別荘がいくつも立ち並んでいた。外国人の姿も多く見かけて、避暑地の中心街には正装して歩く外国比人の姿も多く見られた。私の家は牧畜をしていたので牛乳を配ったりしてそういう外国人との交流も結構多かった、。自然と英語も体で覚えて日常会話くらいは何とかこなせたのである。


野の道を歩いているとひょいと外国人に出会ったりすることもあった

私はそのころ、胸に小さな影が見つかり、自宅で療養中だった。

私は、自然に囲まれた、高原の中で、体調がよいときは、外に出ては、散歩したり、自宅の軽い農・牧畜作業も手伝っていた。


しかし、いつも心は晴れずいつも鬱屈としたものだった。

青春時代真っ最中というのにこの体たらく。受験勉強も遅々としてはかどらず悶々としていたのだった。

これから先どうなるのだろう、病気は軽度で進行も止まっていたし、第一、入院するほどでなかったことからも、軽いものだったことは今となっては理解できる。



しかし、当時は青少年期特有の憂鬱症で、深刻に悩んでいたのではあった。



さてそんなある初夏の日、私は、別荘地の辺りを散歩の途中、いつもは、それまで空き家だった木造の教会に、人の気配があるのに気がついた。



その教会は何でも大正時代の末に、建られたものだそうで、しゃれた、ステンドグラスがはまったチャペル風の瀟洒なつくりのものだった。


しかし長らく牧師不在でいまだかってその教会に灯がともるのを見たこともなかったし、訪れる人もいなかった。


私は気になり立ち止まり、ふと玄関を覗くと、そこに、一人の上品な外国婦人が立っていてこちらを見ていたのだった。なんと言ったらいいのかフランス風の洋服に身を包み、いかにも伯爵夫人?という感じだったことを今でも思いだすのである。



あわてて目を伏せると、その婦人は、にっこり微笑み、手招きをした。


ぎごちない日本語で「あなたこのあたりの方ね?」


私は思わず近づくと、婦人は、赴任して来たがここらのことをよく分からないので教えてほしいというのだ。


私は中に招じ入れられ、地元のことやらを、聞かれるままにいろいろ教えて差し上げたのだった。

片言の私の英語を夫人は聞き取ってくれたようだった。

「あなた英語話せるのね、ユー・アー・スマートボーイ」


そして婦人は「色々教えてくれてありがとう。ちょっと待ってね。コーヒーを入れて差し上げるから」というのだ。


コーヒー、そう、そんなものがあることいくら田舎の野生少年の私も知ってはいた。


しかし飲んだことなんてまったくありえなかった。


私は、婦人が、湯沸しから注ぐ、馥郁たる香りに、陶然となった。



そのときちらとおくの廊下に一人の少女がたたずんでいるのを見たような気がした。


それともそれはわたしの単なる幻覚だったのか?




「これは、モカというコーヒーよ」This is a coffee called mocha

婦人の言葉に私ははっと我に帰った。


しゃれたマイセンのカップを差し出す。一口啜ると私は香りの艶美な世界へと引き込まれるのだった。


「モカには、なぜかマイセンがにあうのよ。」


婦人はそんなことも言うのだった。


田舎の少年にそんなこと言っても分かるはずもないのにである。


コーヒーそれも本場のそれを本格的に入れてくれたのを飲んだのはまさに天にも昇る心地だった。



次の日私は再びその教会の前を例ごとく散歩でとおりかかった。


こっそり除いてみると、なんと、昨日の夢に見たあの少女がいるではないか。


私は思わずアット声を上げてしまった。


するとその物音に気づいた婦人が


ちらとこちらを見やって、「あら昨日の方ね」といって


玄関に回りドアを開けてくれたのだった。



「紹介するわ、私の娘で、キャサリンというのよ、


キャシーって読んでね。仲良くしてね。」



私はまじまじとその娘の顔 を見ていた。


長い透き通るような金髪をたらした、フランス人形のような玲瓏とした顔色、


笑うでもなくといって悲しむのでもなく、


あくまでも透徹とした少女がそこにはいた。


透き通るような金髪の髪が揺れていた。


そして不思議そうな青い瞳で私を見つめていた。



紹介されるとその少女はにこっと微笑んで私をまぶしそうに見ていたっけ。


今はもう、遠い日の幻像である。


「キャシーは体が弱くてね。こうしてこの宣教師館にこられるのも初めてなのよ。


せいぜい仲良くしてやって頂戴ね。」



私は、どうしたらよいのか分からなかった。


フランス風の衣服に身を包んだ、おにんぎょうさんのようなこの少女。


異国の金髪碧眼のお嬢様としか私には思えなかった

フランス王朝絵巻にでも、出てくるような。


軽井沢メソジスト教会の宣教師の娘、なんでもカナダからはるばる赴任してきたのだという、

父の渡日に伴い来日した、15歳の少女



いくら私が子供でも、私なんかが来てはいけないことぐらい分かっていた。


彼女は私にピアノを聞かせてくれるというのだ。


別室の小楽堂に行くとそこには典雅なピアノがあり、


彼女は早速引いてくれた。讃美歌?だったのだろうか?



いったいそれはなんと言う曲なのか、私に分かるはずも無かった。



それからというもの、私は散歩と婦人の好意にかこつけては日課のようにその別荘を訪れては、

頼まれていた牛乳や野菜を届けたのだった。

キャシーとは、散歩に行ったり、ピアノを聞かせてもらったりするのだった。

片言の英語と身振りで意思は通じた


とある日、私が山道を歩いていると。草むらからひょいとキャシーがあらわれた、


驚いてみると手駕籠には、木イチゴが一杯摘まれていたっけ、


じッと僕を青い瞳で見つめて、、「食べない?]ドウ・ユウ・イート?


しなやかな金髪が高原の風に揺れていた、、。



キャシーさんは、確か15歳だといっていたっけ。


何でも生まれながらに体が弱くて、


最初の赴任した東京の牧師館の自宅から出たことも無く、


学校も行ったことはないという。

もっぱら自宅で家庭教師に教わって居たらしい。

籍だけは学習院?に置いてあるのだというが。

真偽は不明である。


そしてこの夏になってよっぽど調子が良くて初めてこの宣教師館に来たのだということだった。


「アイムソーロンリー、、、丁度一人でさびしかったのよ、転地療養かねてきたんだけど、

貴方のような人が居てくれて助かったわ。」


なんて本人は英語で言っていたっけ。

実は私はこんな田舎でもいわゆる文学少年で

ディケンズとか

英文学も好きで、、家が豊かなので高崎の町から英語の教科書を取り寄せて

英語も自分なりに勉強して

大体はわかるのだった。

私にとってははじめての少女の面影が焼きついて心を満たしていた。


恋なんていうそんなハッキリした形をとったものでもなかった。


初恋?そう、それは余りにもおぼろげな初恋だったのだ。



しかし、あるひのことだった、私がいつものようにその洋館に行くと、


そこはなんともぬけのから、ひっそりと静まり返っていたのだった。


何でも人づてにきくと、


お嬢さんが急に具合が悪くなりあわただしく帰京していったのだという。


もちろん、わたし風情に、何の連絡もあるはずも無かった。



瞬く間に、夏は過ぎ去り、秋の風が吹いて、高原に、「はあて」(かざはな)が舞い


そして、暗いい冬が来て、やがて春となり、また夏が来た。


私はすっかり病気も癒えて、婦人が来るのを待ち続けたのだった。



しかし、夏がすぎ秋が近くなって、すっかり、木々が枯葉になっても、もう二度とあの婦人と少女はこの洋館には姿を見せなかったのだった。



それからも、洋館は、ずっと、今に至るまで、あるじの訪れることもなく、ひっそりと無人のままに私の遥かな淡い初恋の思い出と共に立ち尽くしているのだった。





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