実はわたし、お姫様でした!
その日、宮殿の空気は凛と張り詰めていた。
鳴り響くファンファーレ。真紅色をしたベルベットのケープをドレスを着た美しい女官達が持ち、扉が開くその時を、固唾を飲んで待っている。
わたしは今日、王太女に即位する。
ゆっくりと、大きく深呼吸をし、目配せを一つ。
「参りましょう」
女官たちを振り返れば、「はい!」と答えが返ってくる。
それを合図に、広間へ続く扉が開いた。
ずらりと並んだ参列者達。
視線が一斉に集まる。
ここまでに尽力してくれた、たくさんの人々の顔を思い浮かべつつ、わたしはおじいちゃんの元へと向かう。
おじいちゃんは眩しげに瞳を細め、わたしのことを待っていた。目尻がほんの少しだけ光った気がして、わたしは内心微笑みを浮かべる。
厳格で誇り高く、冷徹な国王。
けれど、おじいちゃんだって本当は、誰にも見せられない弱さや迷いを抱えている。
これからはわたしが隣に立って、おじいちゃんを支えていかなきゃいけない。
胸元にはお父さん――クラウス殿下がゼルリダ様に贈った大事な宝石が輝く。
わたしは二人の優しさに支えられ、幸せな日々を過ごすことができた。貴族や王族のしがらみから逃れ、伸び伸びと。
普通の女の子として生きることができた。
今度はわたしが、誰かの幸せを守る番。
最前列で涙を流す、お父さんとお母さんに向かってそっと微笑む。
広間の中央にたどり着くと、わたしは人々の方を向いた。
厳かな雰囲気の中、おじいちゃんはわたしが王太女となる旨を宣言し、聖職者が祝の言葉を述べる。
聖女シルビアが新たな王太女の即位を祝福し、広間がキラキラと光り輝く。
歓喜の歌声に、響き渡る祝砲。
おじいちゃんからティアラを授けられ、わたしは参列者達へと向き直る。
湧き上がる拍手と喝采。
目を瞑れば、今この場には居ない、我が国に暮らす数千万人もの人々が目に浮かぶようだった。
もう一度大きく息を吸い、前を見据える。そうしてわたしは、一人ひとりに向けて語り掛けた。
「つい数ヶ月前に知ったことなのですが――――実はわたし、お姫様でした」
それは、姫君のスピーチにはふさわしくない出だし。
けれど、物凄くわたしらしい。おじいちゃんやアダルフォ、ゼルリダ様すらも目元を和らげるのが目に入り、わたしはそっと微笑む。
「わたしには父が二人、母が三人おります。
一人目の母は、わたしを命がけで産んでくれました。今わたしが存在するのは、一人目の母のおかげです。
二人目の母と一人目の父は、わたしが自分を姫君だと知るまでの間、平民として大事に育て、慈しんでくれました。幸せとは何なのか、家族とはどういうものか、愛情を教えてくれたのもこの二人でした。
そして、二人目の父は先日亡くなったクラウス殿下です。彼はわたしが一人の女の子として幸せに生きられるよう、育ての父母へと託してくれました。王太子として豊かで平和な国を作り、わたしやこの国の人々を幸せへと導いてくれました。
三人目の母は、王太子妃であるゼルリダ殿下です。彼女もまた、わたしが普通の女の子として幸せに生きられるよう、心を砕いてくれました。今は、王族としてどうあるべきか、わたしを導いてくれています。
わたしが今、こうしてここに居られるのは、二人の父、三人の母のおかげです。彼等の愛情のおかげです。心からの感謝と敬意を父母に捧げたいと思います。
さて、わたしは今ここで、王太女になりました。
この国はわたしにとっての家族そのもの。
わたしはこれから王太女として、父となり母となり、人々の幸せを守っていきたい――――それがわたしに課せられた使命だと思っております。
父母がそうしてくれたように、たくさんの愛情を胸に、一歩一歩、歩んでゆくことをここに誓います
王太女 ライラ」
大きく息を吸い前を向く。
その瞬間、広間をビリビリと痺れるような大歓声が轟いた。
湧き上がる拍手。人々がわたしの名前を呼ぶ。
込み上げる感情を胸に、傍らに跪くランハートを見遣る。
「お供しますよ」
彼の唇がそんな風に動くのを見ながら、わたしはしっかりと胸を張る。
わたしはライラ。
この国の王太女です!
本作はこれにて完結しました。
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改めまして、最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!




