ゼルリダ様のお茶会(中編)
茶会会場は庭園内に設置されていた。お天気も良いし、庭園内の花は今が見頃。日よけ用の大きなパラソルが準備されているし、お茶をするにはもってこいの環境だ。
予め準備された席には、既に六人の貴婦人が座っていた。年の頃二十代後半から五十前後。皆、即位に向けて準備された資料に載っていた人物だ。
(あれは次の宰相候補の奥方様、あっちは織物で成功した伯爵夫人)
少しご年配のご婦人なんかは、夫が既に要職に就いていて、わたしとも何度か顔を合わせたことがある。
つまり、ここに集められた女性は、おじいちゃんやお父さんの側近の奥方様。または、それに近しい力を持った人達ということになる。
シックでクラシカルなドレスを選ぶ者も居れば、流行りの華美なドレスに身を包んだご婦人も居る。髪型やジュエリー一つだけを見ても、彼女達がどういうスタンスを取っているのかが見えてくる。
資料を見るのと、実際に本人に会うのとじゃ、理解のスピードは段違いだ。
悟られないよう注意しつつ、参加者達をたっぷり観察し、わたしはゼルリダ様と一緒に席に着いた。
「御機嫌よう、皆さま」
ゼルリダ様が言う。普段よりも少しだけトーンの高い、朗らかな声音だ。
「こうしてまた皆さまにお会い出来たことを、嬉しく思っております」
表情はというと――――うん、いつものゼルリダ様だ。全く笑っていないわけじゃないけど、ちゃんと原形を留めている。別人みたいに変わっていなくて良かった。
「お礼を申し上げるのは私共の方ですわ、妃殿下。変わらず仲良くしていただけて、嬉しゅうございます」
最初に声を上げたのは、派手な装いのご婦人だった。所謂新興貴族と言う奴で、現状国政に大きく携わっているわけではない。だけど、夫婦ともに野心家で、王族に取り入ろうと躍起になっている。資産家で経済基盤も安定しているし、『使えそうなら将来的に登用もあり得る』っておじいちゃんが考えている貴族だ。彼女を呼んでいるのは、恐らくはおじいちゃんの意向だろう。
「ええ、本当に。こうしてまたお会い出来て嬉しく思いますわ。
今日は姫様もご一緒なのね。主人から聞いていたけれど、本当に可憐で愛らしい姫君だこと。クラウス殿下にそっくりね」
そう口にしたのは、一番年配の上品な貴婦人だった。おじいちゃんの側近の奥方様で、お堅い見た目通り、保守的な人。新しいことを始めるのや、新興貴族を迎え入れるのに慎重な姿勢を取っている。参加者が偏っていると釣り合いが取れないので、こういう人も呼んでいるんだと思う。
「皆さま、お初にお目にかかります。ライラと申します」
自己紹介をしつつ、全員の顔をゆっくりと見遣る。
(わたしに対する印象は――――どうやら悪くないみたい)
ぽっと出の姫君に対し貴族達がどんな風に感じているのかは、即位に当たっての大きな懸念事項だった。だけど、世論がわたしに味方していることもあってか、悪いわけではないらしい。
参加者たちが微笑みを浮かべ、順番にわたしへと挨拶する。
資料に描かれていた肖像画と、本人とを頭の中で見比べながら、実際に受けた印象を頭の中に書き加えていく。
ランハート主催の夜会で会った貴族達は、皆年若く、素直な印象だった。
だけど、ここに居るのはわたしよりも一回り以上年上。しかも、王太子妃主催のお茶会に呼ばれるぐらいだから、色んな局面を乗り切ってきた強者ばかり。一癖も二癖もあるに違いない。
笑顔の裏に、色んな思惑、感情を隠している――――そう考えるべきだ。
本当ならば、同年代の貴族の令嬢たちと、ゆっくりと社交を学んでいけば良いのだろう。腹の探り合いだって、経験を重ねる間に上手くなるんだと思う。
だけど、わたしは王太女になるんだもの。背伸びをして、荒れた戦場を一足先に見るべきだ。
参加者たちが会話を始める様子を、わたしは密かに見守った。




