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核心に触れる

(どうしよう。非常~~~~に気まずい!)



 アダルフォショックは、わたしが想像していたよりもずっと影響が大きかった。

 彼は四六時中一緒に居るし。その癖基本無口だし。

 これまでアダルフォとどんな風に過ごしていたか分からなくなってしまったのだ。


 ふとしたタイミングの沈黙が重たい。空気を変えるために何か喋ろうとして、だけど何を話せば良いか分からない。


 本当に、恋愛って何が正解なんだろう?



「姫様……如何しましたか?」



 呼び掛けにハッと顔を上げる。見れば、バルデマーがわたしの顔を覗き込んでいた。

 今は城内の庭園に二人きり。いつもお茶ばかりでは何だからと、こうして誘い出してくれたのだ。



「花に見惚れていたのよ。綺麗よねぇ」



 白々しい程の嘘。本当は少し離れた所から護衛をしているアダルフォが気になって、花を愛でるどころじゃない。理由まではバルデマーにバレてないと思いたいのだけど。



「……お疲れでいらっしゃいましたか? すみません、無理に連れ出したりして」


「えっ? 違う違う! そうじゃないから安心して?」



 いけない。バルデマーに気を遣わせてしまった。折角誘い出してくれたのに、本当に失礼だったと反省する。



「何かお悩み事でもあるのですか? 私でよかったら相談に乗りますよ」



 バルデマーはずいと身を乗り出し、心配そうに目を細める。


 近い。

 この間からやたら距離が近い。鼻先が触れ合いそうなレベルだ。

 ついでに言うと、手がしっかりと握られているし、腰なんかも抱かれていて、何だかとても落ち着かない。


 しかも、この様子をアダルフォが見ていると思うと、更にソワソワと落ち着かなかった。



「えっと……王太女としてのお披露目が近付いているでしょう? やっぱり不安だなぁと思って。陛下やゼルリダ様から公務も引き継ぐしね」



 少しだけ悩みの方向性が違うけど、事実だから突っ込みづらいだろう。



「ああ、そうですよね。肝心の婚約者もまだ決まっていませんし」


「!」



 え、嘘。

 目の前に居るの、ランハートじゃないよね? バルデマーだよね?


 正直言ってびっくりした。いつも核心に触れないあのバルデマーが! 思いがけずそんなことを言うんだもの。わたしはゴクリと息を呑んだ。



「誰を選ぶか、迷っていらっしゃるのですか?」


「……そりゃあそうよ。皆それぞれに良いところがあるんだし」



 当事者であるバルデマーから、正面切って尋ねられると、どう答えて良いか分からなくなる。変に期待させたらいけないし、かといって何も答えないわけにもいかないんだもの。



「良いところ? 本当にそう思っていらっしゃるのですか?

姫様もご存じとは思いますが、ランハートは相当な遊び人ですよ? 結婚したところであなたを大切にはしない。泣かせるだけです。そんな不誠実な人間、あなたの夫に相応しく無いでしょう。何故迷われるのですか?」


「……どうしてそんなことを言うの?」



 何よそれ。バルデマーがランハートの何を知っているっていうの?

 その上彼は、ランハートを貶しているようで、おじいちゃんやわたしのことも否定している。

 

 バルデマーは真剣な表情で、わたしに詰め寄った。



「アダルフォだってそうです。騎士として有能であっても、彼が王配として政務が出来るとは思いません。第一彼には、王配としてやっていこうという気概がない。それなのに姫様は、どうして彼を気にされるのです?」



 バルデマーがそっとわたしの頬を撫でる。

 いつもと同じ、王子様みたいな優しい手付きで。


 だけどわたしの胸は、恐ろしいほど凪いでいた。これ以上バルデマーが二人を悪く言うのを聞きたくない。



「――――今日は誘ってくれてありがとう。部屋に戻るわ。することが山積みなんだもの。見送りは結構よ」



 そう言って、クルリと踵を返す。

 けれど、バルデマーはわたしの腕を掴み、強引に振り向かせた。



「お待ちください、姫様! 私ならばこの国をもっと豊かにできます。姫様はただ、笑って側に居て下さったらそれで良い。私があなたを幸せにして差し上げます」



 真剣な眼差し。受け取り手であるこちらの気分も引き締まる。



「それが……あなたからの求婚と受け取って良いのかしら?」



 尋ねれば、バルデマーはグッと唇を引き結び、わたしの前に勢いよく跪いた。



「姫様――――どうか私を、あなたの夫にお選びください。どうか――――」



 縋る様に握られた手のひらがとても熱い。

 美しい花々の咲き乱れる花園の中、しばらくの間、わたし達は互いを静かに見つめ合っていた。

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