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妃選びと一妻多夫のすゝめ

 王宮に戻って数日。

 約束通り、わたしはおじいちゃんと食事を共にしている。

 今夜はランスロットが付いているからと、アダルフォには席を外してもらった。彼にも関わりのある話をおじいちゃんとしたかったからだ。



「おじいちゃんに聞きたいことがあるの」


「何だい、ライラ」



 取り留めのない話をそこそこに、数日間温めてきた話題を切り出す。



「婚約者選びのこと。おじいちゃんとお父さんは、どうやってお妃様を選んだの?」



 尋ねれば、おじいちゃんは目を丸くし、やがて穏やかな笑みを湛える。



「私の妃――――ライラの祖母は、幼い頃に父が決めた許嫁だった。私とは違い、どこかおっとりとした上品な女性でね。クラウスの穏やかな気性は、あれの性格を強く受け継いでいるんだ」



 どこか懐かしそうに語るおじいちゃんは、いつもと雰囲気が全く違っていた。嬉しそうな、寂しそうな表情を浮かべている。



「公爵家の御令嬢でね。王太子妃になるために、幼い頃から王宮で教育を施されていた。だから、彼女に妃としての素質があったのか、正直私には分からない。

けれど彼女は、素晴らしい女性で、妃で、母だった。私は彼女を妻にできて、心から幸せだったと思っている」


「おじいちゃん……」



 正直、おじいちゃんがそんなことを言うなんて思ってもみなかった。王族は国を動かす駒であって、感情は二の次三の次。完全な政略結婚をしたのだとばかり思っていたのに。



「彼女だけが、私の心の葛藤を分かってくれた。咎めるのではなく『本当はこうお考えなのでしょう?』と優しく尋ねられると、何だか心が救われたような気がしたものだ。

亡くなってからもう二十年。もしも彼女が生きていたら、クラウスもライラも――――苦しむことは無かったのかもしれないな」



 自嘲するように笑うおじいちゃんに、何だか胸が切なくなる。おじいちゃんにとっておばあちゃんはきっと、大事な心の支えだったんだろう。冷徹な国王だって人間なんだと、改めて実感した瞬間だった。



「じゃあ、ゼルリダ様は? 誰が妃に選んだの?」


「九割方私だ。クラウスはお前の母親を――――ペネロペを愛していたからな。妃として相応しい女性ならば誰でも、という心持だった。

もちろん、結婚して以降、クラウスはゼルリダを大切にしていたのだが」


「……そっか」



 おじいちゃんの声音には、どこか悔恨が滲んでいる。



【僕はペネロペを妻にしてあげることが出来なかった。

もしも僕に『誰が妃でも関係ない』と思わせるだけの実力があれば、こんなことにはならなかった筈だ。今頃家族三人で仲良く笑い合って過ごせていたのかもしれない――――そう思うと悔しくて堪らない】



 里帰り中に読んだお父さんの手紙。おじいちゃんも本当は、お父さんの願いを叶えてあげたかったのだろう。

 王族である以上、仕方のないことだった――――そう思いたくて、けれど簡単には割り切れない。わたしがおじいちゃんでも、きっと同じだったと思うから。



「ゼルリダは美しく思慮深い娘だった。他の候補者たちのように前へ出ようとすることもなく、クラウスからの愛情も欲しない。ただ淡々と、妃に相応しい女性であり続ける。野心的な候補者たちの中で一線を画していて、それが却って目を惹いたのだ」



 おじいちゃんは当時を思い出すようにポツリポツリと言葉を紡ぐ。

 ゼルリダ様が王太子妃に選ばれた理由は、当時の様子を見ていないわたしにもよく分かる。

一番お妃様に相応しい女性を、理性的に選んだんだろうなぁって。



「ねえ、わたしは誰を選ぶべきだと思う?」



 考えれば考えるほど、どうしたら良いのか分からなくなる。

 おじいちゃんが挙げた候補者たちは、それぞれ皆素敵だし、甲乙つけがたいんだもの。



「――――いっそのこと、全員と結婚してみるか? そうすれば迷うことも悩むこともないだろう?」


「なっ! 何言ってるの、おじいちゃん! そんなこと、出来る筈が無いでしょう? 大体、子どもが出来たところで、夫が複数人居たら誰の子か分からなくなっちゃうし、そもそも倫理的に考えて……」


「ライラよ、冗談だ」


「~~~~っ!」



 おじいちゃんはクックッと喉を鳴らしつつ、困ったように笑っている。

 ムカつくし、恥ずかしいし、頬が真っ赤だ。

 正直、おじいちゃんが冗談言うなんて思わなかったんだもの。わたしは悪くないと思いたい。



「しかし、一言アドバイスをするならば」



 一頻り笑った後、おじいちゃんはそう言って、静かに目を伏せる。



「プロポーズはきちんとさせた方が良い。国への想いだけでは結婚生活は上手くいかん。お前自身を求め、しっかりと愛してくれる男ならば、国を末永く導くことも可能だろう」


「…………簡単に言ってくれるなぁ」



 プロポーズなんて、強要出来るもんじゃない。


 というか、彼等がわたしを愛するなんてこと、あるのだろうか? 人として、求めてもらえるのだろうか?


 更なる深みにはまってしまい、わたしは密かに頭を抱えた。

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