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鬼と悪魔の異世界旅行記  作者: 古びたラム酒
1/1

異世界転生の前日談

鬼の転生者と悪魔の少女 第1話 改定版


『さよなら人生、こんにちは閻魔さん』


「お待たせしました。雪那先輩。」

俺は、日曜日の朝っぱらから、先輩に呼び出されていた。

「やっほー、詩穏君。」

この人は2つ上の幼なじみで、高校でも仲良くしてもらっている。

家が近いこともあり、行き帰りはいつも一緒だった。

が、付き合っている訳ではない。まわりからは「何故付き合わないの?」とよく言われる。


その上、二人の間で当番制で互いの弁当を作りあったり、今回みたいに休日一緒に出かける事もあるが、詩穏にとって雪那は気さくな姉といった感じになっているので、両者ともそこに恋愛感情は無い…はず。


「久しぶりに2人でお買い物だね。」


「楽しみなのは分かりましたから、次からはもっと早く連絡して下さいよ。たまたま暇だったってだけなんですからね?」


「う、ごめんなさい。」

今日、自室でゴロゴロしていると雪那が「今から出かけよう!少ししたらに迎えに行くから。」とのメールがきた。急いで支度を済ませようとしたが、想像以上に雪那の到着が早く、結局リビングで待っていてもらった。

数十分後、支度を終え、2人で近くのショッピングモールに向かった。

「詩穏君、この服似合ってるよ!」

色々、見回っていまは洋服屋で雪那が詩穏の服をコーディネートしている。

「あ…あの、雪那先輩?」

雪那が持ってきた服は歪みまくった犬のようなものが「働いたら負け」と言っているTシャツだった。

「ん、どうしたの?」

雪那の詩穏に対する評価がこれなのかと内心ひやひやしつつ聞いてみるが、本当にこれがいいと思っているらしい。

「はぁ、なんでもないです。」


「大丈夫?具合悪いの?」

詩穏がため息をつくのをみた雪那が心配そうに尋ねてきた。

「いや、」

先輩はいつも俺を振り回すので、振り回される側の俺は疲れっぱなしだ。


「私は詩穏君と一緒にいるとき、いつも楽しいよ?」

「まあ、雪那先輩が楽しいなら俺も嬉しいんで良いんですけどね。」



「それじゃ、また来週も一緒にお出かけしよっか。」


「分かりました。次はどこ行くかとか早めに決めておいて下さいよ?」


「次は詩穏君が行きたいとこ連れていって欲しいなぁ。」


「あ、はい。考えておきますね。」


「やった!とりあえず、私はこの服のお金払ってくるね。」


「じゃあ、俺は外で待ってますね。」


本当に買うのか…と内心、困惑する詩穏を横目に雪那はカウンターへと歩いていった。


店舗の外で携帯をみていると、いきなり甲高い悲鳴がショッピングモール中に響いた。


「え!?」

はっとして横を見るとを大きなナイフ持った男が周りの人を刺しながら、こっちに迫って来ている。

「ぎゃははははハハハハハハ!!あ!?……グヒッ…ぐひゃひゃひャヒャヒャァァァ!!」

ズシャグチュ

「ぐッ、あ…がっ!?」

突然の痛みに反射的に男を殴っていた。

だが、ヤクでも決めているのか、男はビクともせずナイフで詩穏の腹部を抉った。

気持ちの悪い音と共に服が赤に染まっていき、

燃えるような痛みが広がっていく。


熱い熱い熱い熱い熱い熱い

痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い


倒れ込んだ詩穏は男が狂った笑いを浮かべながら人混みの中に走り去っていくのを霞んでいく視界で追うことしか出来なかった。

「詩穏君!?」

周囲のざわめきの中で焦った様子の雪那の声と足音が遠くで聴こえた。

もう死が目の前だと言うかのように目が霞んで雪那の顔も上手く認識できなかった。

火に炙られるかのような痛みに耐えながら、手を伸ばして雪那を探るが、弱々しく揺らすことしか出来ない。

それを見た雪那はすぐに詩穏の、手のひらに指を絡ませわ、上半身を起こして抱き抱えた。

「詩穏君…駄目、死なないで…大丈夫、大丈夫だから」

しかし、雪那の思いは叶うことなく、詩穏は意識を手放した。




……気が付くと詩穏は見たことの無い部屋に立っていた。

「雪那先輩!!」

叫んでも、誰も居ない。低めのテーブルを挟んでソファが2つある。不思議な事にこの部屋にはドアが見当たらなかった。

「どこだ?ここ」

「ここは地獄の最下層にある私の自室よ。」

後ろから声が聞こえたので即座に飛び退いた。

「わっ、驚かせちゃった?」


そこには小さな黒髪の少女が立っていた。髪だけでなく服も黒く、胸元に目と同じ紅い宝石のブローチをつけている。


「ごめんね、面白そうだったからついね」

そんな事を言って、くすくすと笑っている


「はじめまして。私は鬼道 逢衣、第67代目の閻魔大王よ。」

「閻魔大王って、俺は地獄に堕ちるような悪い事をしたのか?」

犯罪に手を染めた事は無いとはいえ、嘘も尽くし、人を殴った事もある。もしかすると、と思っていると、逢衣が笑った。

「違う違う、そうじゃないよ。貴方を今とは違う世界に送還するの。」


「え、それは異世界に転生するってことか?」


「そうよ、飲み込みが早くて助かるわ。じゃあ早速、準備に取り掛かりましょうか。


「ちょっと待ってくれ、元の世界に戻ることは出来ないのか?」


「それは無理だね。2回連続で同じ世界で生きる事は出来ないようになってるの。」

つまり、もう二度と雪那に会うことは出来ない、当然なのだかやはり詩穏にとってはかなり辛い事である。


「…次の世界でも、きっとその人みたいな良い人に出逢えるわ。」

逢衣が背伸びをして詩穏の頭を優しく撫でた。

逢衣に慰められ、少し気分が落ち着いてきた。気持ちの整理がついた訳ではないが、転換点だと無理に自分に言い聞かせる。

「それよりも、貴方には鬼神長の1人になってもらうわよ。」

「え、鬼神長?何それ?」

「私の直属の部下達のこと。その1人が代わりになる人を探してたの。よろしくね?」

サラッと何かとてつもない事を言われた気が…

「ちょっと待て、今なんて言った?」

「だから、貴方に、鬼として異世界に行って来てっていったの。」

「はぁ?異世界に行くのは別にいいけど、なんで鬼?」

その質問に逢衣は待ってましたと言わんばかりの顔をして

「だからー、八人いる部下の1人がやめっちゃったからっていったでしょ。」

「それ、俺なんかがやってもいいのか?もっと相応しい奴がいるだろ?」

「んー、何故か貴方は霊力がそこらの奴より強いのよね。」

「それに鬼として行った方が良いよ?能力とかもついてくるし、特別任務扱いだから会議にも出なくていい、たまに私が見に行くだけだし。」

俺の貧相な頭が痛くなり始めた。どういうことだ?

「つまり、異世界に行く特典に鬼の力を付けたって思っていればいいよ。」

「分かった、やるよ。」

もらっておいて損は無さそうなので、もらっておく事にした。

「ふぅ。これでおじいちゃんとか、獄長さん達に怒られずに済みそうね。」


「ん?俺が死んだのはなにか問題があるのか?」


「ええ、そうよ。本来なら貴方は死なずに雪那ちゃんが刺されるはずだったのよ。」

…もしあの時、自分ではなく雪那が刺されていたら。

想像するだけで、おぞましい程の寒気が詩穏を襲った。

「じゃあ、むしろ刺されたのが俺で良かったと思うべきなんだな。」

あの死が迫ってくる恐ろしい感覚や、焼けるような痛みを雪那が受けずに済んだ。とゆうのは詩穏にとっては御の字だった。

「貴方、ほんとに雪那ちゃんの事が好きなのね。」


「当たり前だ。昔からずっと一緒にいる大切な人なんだから。」

そう言うと、逢衣はジト目になり、呆れ半分になった。

「よくもまあ、さらっとそんな台詞が出てくるわね。」

「まあ、良いわ。話を戻すけど、本来死んでいないはずの貴方は閻魔帳にはまだ生きてるって記されてるのよ。だから、貴方が本来の寿命が尽きるまで別世界で過ごさせるか、私の配下に置いて人間を辞めるかしないといけないの。」

「そのどっちかで良いなら、なんで俺はその両方を受けてるんだ?」

だって、私は部下の欠員を追加できる。貴方は無条件で最高位の鬼の力を手に入れられる。お互いに得するでしょ?」

確かに字面だけ見れば得しか無い。尤もな解答だった。なんとも言い様のない不安に襲われている詩穏をよそに、逢衣は着々と準備を進めている。

「さてと、貴方を色々調整しないといけないからちょっとだけ寝ててもらうね」

唐突にそう言って逢衣が指を鳴らすと、すっと意識がなくなった。

目を覚ましたが、なんだろう、景色がいつもより鮮明に映る気がする。それに体が軽い。

「あっ、目が覚めた?もう準備は完了したからあっちに送るよ。」

「準備って何をした?」

自分の腕や頭を触りながら聞くと、

「人を鬼に変える術って本来は禁術だから、説明は出来ないの。ごめんね?」


俺が、気を失っている間に俺を調整したらしい

さっきからの体の違和感はそれのせいだろう。

「気を付けてね、前と同じ感覚で行動すると、とんでもない事になるから」

「どういう事だ?」

いつも通りに体を動かしているが特に変な事は無い。

不思議そうにしていると

「人間と鬼じゃあ、身体の構造から違うんだから能力もそれなりにあると思うよ。流石に現役の鬼達には勝てないと思うけど。」

面と向かって人では無くなったと言われるのはなんとも不思議な気分だった。

「というか、服装とかは大丈夫なのか?」

俺は今、元の世界の服装だ、あっちの世界で浮くかも知れない。

「確かにそうね、ちょっと待ってて。」

そう言って何もない壁前に立つと、壁がグニャリと歪み小さな窓が現れた。「ええっと、この辺りに…」

おもむろに窓に片腕を突っ込み、何かを掴んだかと思うと一気に引き抜いた。

「あった!」

引き抜いた逢衣の手には中世風の少し大きなガウンが掴まれていた。そのガウンは黒を基調としていて、右の胸元に狼を象った白い紋章が縫い込まれている。

「…どう見ても、庶民の着るものじゃ無いよな。」


「仕方ないじゃない、お父さんのお古しかなかったのよ。後はこれとこれと…」

小さな窓からは服やら装飾品やらが次々と姿を現した。そのどれもが見ただけで分かる程の高級品だった

「これで一式揃ったわね。じゃあ私は目を瞑っておくから、これに着替えて。」


「え、ここでか?恥ずかしいんだけど」

「この部屋には私と貴方しか居ないんだから気にする事は無いわ」


……着替え終わる頃に「終わった?」と、逢衣から尋ねられた。律儀に後ろまで向いていてくれたらしい。


「じゃあ、身支度は全て終わったわね。」

逢衣が指を鳴らすと、目の前に黒い門が現れた。その門の扉は奥に開いており、点々と仄暗いガス灯の明かりが一本道の先を薄く照らしている。

「その扉の奥に歩いていくと、確か近くに街がある森のどこかに出るはずだから。着いたら街を目指すといいわ。」

「分かった。色々ありがとう。」

「ええ、新しい人生は楽しんで。あ、後で私もそっちに行くからよろしくね。」


「逢衣もこっちに来るのか、仕事はいいのか?」


「鬼神長からの報告でそっちに異物が入り込んでるかもって報告を受けたから調査しに行くの。」

閻魔様が直接、動かないといけない程の何かがいる世界に行くのかと少し怖気付くが、

「そういう建前でたまに息抜きで遊びに行ってるの。

…そこまで心配する必要は無さそうだ。

「じゃあ、また後でな。」

そう言い、薄暗い道を歩いていった。

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