逆襲
「ストライク!バッターアウト!」
1回の裏、清秀高校の4番佐々木謙弥の初打席はツーアウトランナー3塁というチャンスで回ってきた。しかし、結果は空振り三振に終わった。攻守のチェンジとなり、ベンチに帰る謙弥の顔は悔しさに満ちていた。
初回終わってスコアは2-0。2点を先制し、剣郷高校のベンチは士気が上がっていた。続く2回にも追加点を、と意気込んでの表の攻撃だったが清秀の目が覚めたような堅実な守備の前に0点で終了した。その後は両チームとも決勝戦にふさわしい引き締まったゲーム運びでスコアボードには0が並んだ。
試合が再び動いたのは5回の裏、清秀高校の攻撃。
ヒットとフォアボールで満塁の場面、2つのアウトを取るも迎えたバッターは4番佐々木謙弥だった。
「今度こそ、返す!」
打席に立つなり鬼気迫る勢いで彼はこう言い放った。剣郷高校のバッテリーは謙弥の様子を見るなり、まだ興奮状態であり意表を突いて打ち取ることは容易だと判断した。しかし、謙弥の頭は冷静だった。初球は空振りを誘うボールゾーンへの変化球。彼はあっさりとその球を見逃した。さらにもう1球ボールが続く。投じられた3球目はストレート。甘いコースだったがこれにも手を出さず1ストライク。
次の4球目であった。これまで動きのなかった謙弥が反応したのは低めのストレート。鋭く振られたバットはボールを捉え、痛烈な打球が外野手の頭を超えて飛んでいく。ホームランかと思われたがフェンスをギリギリ越えることなく、打球は壁を直撃して誰も守っていない空間へ転がった。
その間に満塁のランナーは一斉にホームイン、打った謙弥は3塁まで走った。走者一掃の逆転スリーベースヒットとなった。