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初打席
「次は拙者の打席でござるな」
そう呟いたのは剣郷高校2年、斎藤武蔵だ。
前の打者がセカンドゴロに打ち取られると武蔵はゆっくりと左打席に入り、構え始めた。クセがない、お手本のようなフォームである。少し不気味な程に姿勢は整っていた。
相手ピッチャーが振りかぶって1球目を投じようとする。
この投手、精度の高いコントロールでこれまで剣郷高校野球部を相手に凡打の山を築いている。なかなかの好投手だ。
初級はストレート、これを様子見と言わんばかりに武蔵は見送っていく。審判のコールはストライク。
2ボール2ストライクからの5球目だった、決着を狙ったであろう武蔵のふところを攻める渾身のストレート。武蔵はこれを待っていたかのように反応し、ライト方向へ痛烈な打球を飛ばした。その姿はさながら侍の居合斬りである。フェンス直撃の長打コースだ。その間にフォアボールで出塁していたランナーがホームに帰り、1点奪った。武蔵も3塁まで進んでいた。攻めあぐねていた相手から貴重な1点を奪い、スコアは1-0とした。