VRでも暖かい
VR、これを初めて聞いたときはなんだかよく分からない恐怖を感じいた。
だってゲーム中は自分の身体を自分で動かせないんだよ? 怖いと思わない?
でも、今は違う。今はVRに感謝をしている。
だって、明梨にいつでも会えるんだから。
私は大学生のころ、同じサークルの明梨に告白した。
明梨は恋人に振られたばかりのこともあってかOKをくれて、私たちは晴れて付き合うことになった。
そこからは2人でいろんなことをした。
水族館や遊園地などのデートスポットに行ったり、お互いの家に泊まったりした。
私たちは想像以上に相性がよく、日に日に仲良くなってゆき、毎日が楽しかった。
でも、楽しい時間は永遠ではなく……それぞれ別の企業に就職した私たちは転勤によって離れ離れになってしまった。
そんなときに明梨が目をつけたのはVRだった。
これを使えばいつでも会えると言われた私は早速本体と明梨がやりたいというソフトを購入して、プレイしたのだった。
最初は戸惑っていたものの、最近はもう慣れたものだ。
明梨が知らないこともたまに知ってるしね。
今日も会う約束がある。
私は本体を装着し、ゲームの世界に潜るのだった。
「そろそろ、かな」
「お待たせ! ごめん待った?」
「いや、今きたところ」
明梨と合流すると私たちはちょうどいい大きさの湖を探し始めた。
今プレイしているゲームは釣りを楽しめるゲームだ。
最近はのどかな釣りを楽しめる湖での釣りにハマっている。
「どっちの方が大物釣れるか勝負しない?」
「いいよ、こっちにはいいエサがあるから」
「あ、ずるい!!」
そんな会話をしつつ、ちょうどいい湖を見つけたのでそこに腰掛けて釣りを始める。
穏やかな風が心地よい。
「ねえ、今度はいつ会えるかな?」
「明日も明後日もログインできるよ」
「そうじゃなくてさ、リアルで」
「あ〜、来月長期休み取れたから予定が合えば会えるかな」
「そっか」
来月、有給取ろう。
あとでメールか何かで詳しい日時聞こうっと。
……釣れないなぁ。いいエサ使ってるのに……
これ、魚いませんみたいなオチじゃないよね?
「……たまには身体思いっきり動かしたいね」
「じゃ、別のゲーム探しますか。なんかリクエストある?」
「んー、魔法使ってみたい」
「了解。いいの見つかったらメールするね」
「見つかんなくてもメールしてよ」
「ん、分かった」
やっぱり魔法となるとファンタジー系かな?
私はそういうのは苦手だけど……明梨と一緒ならきっと楽しめるよね。
でも、今はのほほんとした今を楽しみたい。
私はそっと明梨の肩に頭を乗せるのだった。
その肩はデータのはずなのに、妙に暖かかった。