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初めての恋愛ファンタジーというか…舞台が異世界というだけの単なるラブストーリーです。(笑)
拙い作品ですが少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
そこは各国の優れた学者達が集い、日夜研究を重ね議論を重ねまた新たな知識を生み出していく…
「知識の宝庫」とも呼ばれる街―――アルディダ。
王都から多額の援助資金が注ぎ込まれ、学者達はこれを頼りに研究やら実験やら盛んに行っている。
ユーリア大陸の北部に位置するこの街は年中雪が降っていて、真っ白に覆われた地面が緑に戻ることはない。この街を象徴する多大な書物が収められていると言われる堂々と聳え立つ塔ですら真っ白だ。
学者達は寒さで震える身体を毛皮のマントに包め、曇った眼鏡ごしに毎日のように分厚い文献を熱心に読み耽っている。
そんな彼らを傍目に、もうすぐ16の歳を迎えようとしている少女―――レナはぼそりと呟いた。
「本当に、馬鹿なんじゃないの。朝から晩まで勉強ばっかりして…皆身体がぶよぶよになっちゃっても知らないんだから」
小声で呟いたつもりが…母親のカリアにはばっちり聞こえていたらしい。
「ばこん」という音と共に、レナの頭に痛みが走る。
レナは思わず目を閉じて頭を抱え込んだ。
「痛っー…」
「こらっ!レナ!アンタはまたそんな事言って…そんな暇があるなら、さっさと頭を動かしなさい。アンタこそ勉強しないと脳みそ腐っちゃっても知らないわよ!」
「別に私みたいな凡人ひとりが一生懸命勉強したところで何も変わるわけないじゃない。だったら無駄な労力を使わないことが一番なんじゃ…」
「なに屁理屈言ってるの!いいからさっさと勉強しなさい!」
カリアの怒号に口を尖らせつつ、レナはしぶしぶ目の前の教科書を読み始める。
―――――これがレナの家での日常だ。
レナの父親、ハンスはこの街を代表とする学者であると共に宮廷史書を勤めているため、王都に出向くことが多く滅多に家に帰ってくることはない。
妻であるカリアもそんなハンスを誇りとしており、暇さえあればレナにハンスがいかに偉大で稀な学者であるかを言い聞かせようとする。
だがレナにしてみれば、そんな話別に訊きたくもないわけで。
そりゃ、お母さんの気持ちも分からないでもないけどさ…
宮廷史書ってつまり、王様がいる城で働いてるっていうことでしょ?…偉い身分なんだってことぐらい自分にも分かる。
…そして一人娘の自分に父親の跡を引き継いで学者になってもらいたいと両親が願っていることも。
アルディダの街は「知識の宝庫」と謳われているだけあって、民衆のほとんどが学者だ。
アルディダの子供たちは親を継ぎ将来立派な学者になる為に小さい頃から日夜勉強に励むのが常とされてきている。事実、レナと同じ年頃の子たちと話していても、会話の内容は到底子供たちで為されるような類のものではない。
何より…この街にいる者たちは活気に満ち溢れ、知識と触れ合いながら楽しそうに生活を営んでいた。
だから―――レナのような少女はこの街では珍しかった。
レナのように、勉強を苦手とする者は。
…だって、苦手なものは苦手なんだもん。仕方がないじゃない。
レナは沢山の書物で敷き詰められた部屋を、忌々しげに見上げた。
こんな部屋の中で生活送っていたら、そのうち窒息死してしまうかもしれない。
「それじゃあ、お母さん塔の方に行って来るから、ちゃんと勉強していなさいよ」
「はいはい」
カリアは塔に収められている書物の管理を行う役所のようなところで働いている。
あんな膨大な量管理するなんて大変よね、なんてレナは呑気に思いながら、適当に返事を返して母親の姿を見送った。
……さて、と。
しばらくしてレナはカリアが部屋から居なくなったのを見計らって、カチャリと机の引き出しの鍵を開けた。
引き出しの中にあったのは、一枚の広告。
見出しには大きく『剣術公式大会いよいよ開催!』と載せられている。
もうすぐ…もぐすぐであの人に会えるかもしれない…
レナは広告を手に握り締め、マントを羽織って外へと飛び出した。
―――――剣術公式大会。
開催日は3日後―――、レナの16歳を迎える日だった。