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ネガポジ

作者: 四堂饂飩

初投稿です。

よろしくお願いします。

私は憂鬱だった。


教室へ向かう足取りは酷く重い。

これがテスト勉強をしてないままテストに向かう生徒であればまだよかったかもしれない。

テストなんて校内での評価を競うだけ。

それくらいで人生は変わりはしない。

しかし私は生徒ではない。


私は教師だ。


そして、私のクラスにはいじめがある。

それを今日解決しなければいけない。

いじめを明らかにするというのは誰かの人生が必ず変わる。


事の発端はクラスの1人が私のクラスで行われてるイジメを学年主任に報告したことだ。

うちの学年主任は真面目というか自分の評価が下がることは絶対許せない人間なのでその原因を作っている私に強く当たってきた。


早急に解決せよ、と。


私は事なかれ主義というか正義感の塊でもないし、もう32歳になる。教師10年目のそこそこ場慣れしてきたこともあり、いじめだとかそこまで過剰に反応もしなかった。

そもそも私は自分のクラスにいじめがあるとは認識してなかった。


教室に入るとざわついた教室が少し静かになり日直が号令をする。

「きりーつ、れい」

だらっとした挨拶を済まし私は意を決する。


「おはようございます。えー、今日のホームルームなんですが、その前にみんなに話をしなければいけません」


少し教室の空気が変わる


「このクラスにはいじめがあります」


また少しざわつく。


「静かにしろー。誰とは言わないが悪口が横行してるとのことだ。その内容は…デブ、短足、ヒゲ豚、豚ヒゲ危機一髪。…先生は非常に悲しい!」


よし、言った。言ってしまった。もう引けない。今日でこのイジメを解決する。


「おい!!ふざけんなよ!!」

1人の生徒が叫んだ。

大変恰幅の良くて座高の高い口元に立派なヒゲを蓄えた貯金箱とかギャルのパンティーおくれって言いそうな風貌の男子生徒だった。


「おい、富田。あんまり騒ぐな、先生もあんまりおおごとにしたいわけじゃないんだ」

ブタみたいな生徒の名前は富田という。


「俺はずっと我慢してたんだよ!悪口言ってるやつ全員出てこいよ!」

大変怒っている。いつフゴッて言うかドキドキする。


「やめろ富田。先生は犯人探しをするつもりはない」


「池原のどこが短足デブなんだよ!!」


「…?」

こいつは何を言ってるんだ?


「池原を悪く言うのはやめろ!」

そう言って彼は池原を指差した。

池原は身長180センチをゆうに超えていて顔も小さくモデルみたいな生徒だった。大人しい性格だがそれでもみんなの注目を集めてしまう。暗くて影のあるところも逆にクールと女子生徒から人気だ。

我が生徒ながら普通にかっけーって思う。今たくさん喋っているいじめ被弾数ナンバーワン男子とは真逆の人間だった。

だからこそ何も理解が出来ない。


「だいたいヒゲ豚ってなんだよ!池原ヒゲ生えてねーだろ!」


なるほど、これが『きょとん』か

「…富田、お前わかってないのか?」


「わかってるよ!このクラスにはいじめがある!俺は、それが許せないんだよ!!」


「ック、ヒック、エフッ」

池原が泣き出した。


「…なんだ、なんだこれ、今何がおきてる?」

いじめられてる本人が真逆の人間をかばっている、なんだこれは。ミステリーなのか。俺が知らない何かがこのクラスにはあるのか。


「富田ぁ…ありがとう!俺のためにありがとうな…」

「気にすんな池原!俺は正しいことをしてるだけだ…!」


違った。

勘違いしてるバカが2人いただけだ。


「先生!悪口はそれだけだな!」

「え?あ、あぁ、あとは、老け顔ダルマ、凝縮された四肢、汚いピグレット略してオレット…」

「これ以上池原の悪口いうな!!」

「….言ってない!先生池原の悪口は言ってない!!」

「ウァァァァ!!」池原が大きく泣いた

泣いてる姿も絵になる。


「富田は優しいな…」涙を目に溜めながらそういう池原は男でも母性が湧くくらい輝いていた。

「へへっ!」そう言って鼻をこするこいつは目か耳か頭かあるいはそれ全部が故障しているんだろう。


私は微笑んで富田に聞いてみた

「なぁ富田は学校が好きか?」

間髪入れずに返ってきた

「あったりまえだろ!みんなに掃除任されるときはやり甲斐を感じるし靴探しゲームだって俺めっちゃ早いんだぜ!」

私は手を一つ叩き「よしわかった!!今日からお前のあだ名はポジティブだ!」

「やったー!」

飛び上がるデブ

「やったーじゃねえよ!今は池原のいじめの話だろ!」ノリツッコミを迅速にこなしたデブは友情に燃えていた。


私は落ち着いてゆっくりと富田に語りかけた。

「いいか、池原はいじめられてない」

「なんだよそれ!いじめられてる奴がいじめられてるって思ったらそれはいじめなんだよ!」短い手足を動かしながら熱弁する。

私は諭すように伝えた。

「だとしたら、このクラスにいじめはない」

「なんだよそれ!そうやって揉み消すのか!大人って汚ねえよな!このクラスには確実にいじめっ子といじめられっ子がいるんだよ!」

「…2人バカがいることはわかった」

「いじめっ子は2人だな…!出てこいよ卑怯者!」



「もうやめてくれ!!」


池原が机を叩いて立ち上がる、立ち上がって熱弁していた富田がまるで座ってるように見えるくらいスッと伸びていた。

「俺なんて…必要とされてないんだ…」

絞り出した声で池原が訴える。

「何を言い出すんだ、池原。お前は人気者だって先生聞いてるぞ」

本当だ。彼は当然のようにモテるしそういう瞬間を目撃して教師ながら羨ましいなんて思ったりしていた。


「うるさい!先生はわかってない!毎日下駄箱に手紙を入れられて…怖いから読んでないけどあれはきっと不幸の手紙だ!!それに第2ボタンだってつけてもつけてもすぐになくなる!もう限界だ!!」




「…それをいじめとしてる?」

一応確認してみた。池原がひどい勘違いをしているようだ。


「お前ら最低だな!!」

大きな声でほぼ球体のような男が場違いな出しゃばり方をしてきた。

「俺の為にトイレ脱出ゲーム考えてくれたり掃除しやすいように毎日机に雑巾入れてくれてたお前達は嘘だったのかよ!!」


もうポジティブとネガティブが混ざり合って教室が混沌としている。


富田の熱弁は止まらない

「よし!こうなったらリーダーとして提案する!」


こいつリーダーだと思ってたのか


「明日から池原も靴探しゲームとトイレ脱出ゲームの仲間だ!!」


「ありがとう富田!!」

「おうよ!!」

抱き合う2人、富田は池原の腰に、池原は富田の首に、お互い腕を回して不思議な友情をつくりだした。


このクラスに新しいいじめが増えそうだ。


私はまた憂鬱になった。

感想ありましたらお待ちしております。

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