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訳ありメイドの身の上話

メイフィース伯爵家って何。

決意を固めて告白してくれたアフィリナには申し訳ないことだが、真っ先にライラが思ったのはそれだった。何故知っていそうなミラージュを眠らせたままにしたのかと、少しだけ後悔した瞬間である。


「メイフィース家は、古くから王家の信頼を得て仕えている、由緒正しい伯爵家だったわ。私はその後継者として、誰よりも誇り高くあるよう育てられてきた」


困惑するライラに構うことなく淡々とアフィリナが語る言葉は、全てが過去形だ。自身のことも、生家だという伯爵家のことも。


そして何より、今現在の彼女がメイドナイトとして冒険者に名を連ねている現状。

嫌な予感しかしない。


「それが突然、終わりを迎えた。14歳の誕生日、私は屋敷から連れ去られ、家の者は襲撃を受けて大半が命を落とした。父と母も、その時亡くなったと聞いているわ」


……重い……。

何となく覚悟していた展開だけれど、サラッと言われても胸が詰まって重たくなる話だ。何だろう、この世界のお高い身分の女の子は悲惨な運命を迎える運命(さだめ)にでもあるのだろうか。


「私は何処かの奴隷市のような場所に送られた。そこである方に買われ、伯爵令嬢ではなく一個人として徹底的に鍛えられたの。アフィリナという名前も、その頃付けられたわ。フィリア・メイフィースという存在を殺して、新たな一個人となる為に」


そのお買い上げしたお方は何か、最強の傭兵でも作るつもりだったんだろうか。わざわざ伯爵令嬢という立場を捨てさせてまで、彼女を鍛え上げた理由がわからない。話は確実にかいつまんで話しているだろうから、きっと端折られた部分に答えがあるんだろう。まぁそこを聞いたら間違いなく長くなるよね、とライラは賢く口を噤んだ。


黙って聞いていると、アフィリナはちら、と未だ眠るミラージュへと視線を落とす。


「彼女とは、王家主宰のお茶会で顔を合わせたことがあるわ。一度会ったきりだから、あちらも私を覚えているかは微妙だけれど」


それを聞いて、そう言えば、とライラはひとつ思い当たる。初めてアフィリナと顔を合わせた時、ミラージュはじっと彼女が去って行った方向を見ていた。もしかしたら、記憶の隅にでも引っかかるものがあったのかも知れない。


うん、と頷いてライラはアフィリナに改めて向き直った。


「個人的には、とりあえず信じるよ。その話」


ライラの言葉に、アフィリナは頭を下げた。


「ありがとう」

「でもそれなら、何でミラちゃんを眠らせたままにしたの?本人に聞けば色々手間が省けたじゃない」


わざわざ第三者であるライラに話を持ち掛けたことが気になる。格下冒険者であるライラには、交渉を持ち掛ける旨味などあるとは思えない。

彼女の思惑が見えなかった。


その瞬間、一瞬だけアフィリナが唇を引き結んだように見えた。


銀色の前髪の下で、彼女の瞳に暗い色が宿る。


「……一度きりしか会ったことはないけれど、彼女はとても誇り高い王女だった。彼女に仕えられるなら、私は全力を尽くそうと思えたわ」


すやすやと眠るミラージュの姿を見て、彼女は悲痛に目許を歪めた。


「……けれど、私はこの有り様となり……彼女は、城を追放された。お互いに、その論点で顔を合わせて話すのは避けたいでしょう」


追放。

ここに至るまでの過程を思い、ライラは一瞬息を止める。自分も、ミラが城を追い出される一因となった立場だ。


表情を戻してアフィリナはライラに向き直る。


「王位争いの噂は聞いていたわ。街ではミラージュ王女が城を出たという話も流れ始めている。こんな姿になってしまってはいるけれど、彼女がそうなんじゃないかと一目見た時から気になっていたの」


情報が早すぎないだろうか。まだ例の一件から1週間と経っていない。

内心でライラは焦りを感じる。


それを察してか、アフィリナはこう付け加えた。


「心配しなくても、一般庶民に王族の顔は知られていないわ。万が一貴族と遭遇することがあっても、彼女の今の姿では気付く者はそういないでしょう」


そう言われて、改めてライラもミラに目を向ける。


首元で切られた短い髪。まだ綺麗だが、少しだけ荒れてきた肌。そしてトドメに地味でダサい庶民の服装。


自分でやっておいてなんだが、見るも無惨な出で立ちだ。かつての彼女の姿を知る者が見れば、卒倒してもおかしくはない。特に髪。


今更込み上げてきた罪悪感に、ライラはさっと目を背ける。


そんなライラに、アフィリナは追い打ちを掛けてきた。


「―――それで、その彼女と一緒に行動をしている貴女は何なの?」


えっそこ聞きますか?

豆鉄砲を喰らった鳩のような顔をするライラは、そう言えば彼女の質問には答えてなかったなと思い至った。もう既にミラが第一王女だったという前提で話が進んでいたので、気付くのが遅れた。


答えに困って視線が宙を彷徨うが、突貫で上手い言い訳など浮かぶ筈もない。

そもそも、先程の話が真実であれば、彼女は思い出したくない過去を話してくれたことになる。その彼女に対して適当な言い訳を並べることは憚られるような気がする。


ライラは観念してため息を吐いた。


「……ライラ・カーティス。訳あって彼女と一緒に旅をしてます。ちょっと、約束がありまして」


それだけ言うと、何故か彼女は「カーティス……?」と呟いて目を丸くした。今日見てきた睨んだり、伏せたり、澄ましてばかりの彼女の表情の中では、初めて見るパターンだ。


そんな顔もするんだな、と考える一方で、またしても予想外のところに反応されてライラは首を傾げる。リーダーから貰った姓が、どうかしたんだろうか?


「……貴女、両親は?」

「えーっと生きてはいますけど、ちょっと訳ありで今会えなくて……」


異世界にいます。なんて素直に言える訳がない。


ライラの答えを聞いて何事か考え込むアフィリナは、やがて何か結論付けたのか話を元に戻した。


「約束というのは、彼女と?」

「いえ、違います」


その問いに対する答えは決めてあったので、きっぱりとライラは言い切った。その詳細は誰であっても話せない。ミラの身元を引き受けると決めた時からの、ライラの決心だ。


ライラの表情や態度からそれ以上語る気がないと判断したのか、やがてアフィリナは諦めたようにすっと身を引いた。


「一先ずは納得しましょう。では、足を見せてくださる?」

「へっ?足?」


急な話題変換に間の抜けた声で聞き返す。

当然のような顔をしてアフィリナは首を傾げた。


「足を挫いたまま明日の調査に動向するの?治すから早く患部を見せなさい」

「へっああはい!?」


ライラは慌てて捻挫した方の足を持ち上げる。それに長槍という得物を振り回しているとは思えないほど白くて綺麗な手を翳して治癒魔法を施すアフィリナに、ライラは複雑な感情を抱かざるを得なかった。今までミラを必要以上に振り回してきた自覚がある分、殊更強く。


(明日からもうちょっとミラちゃんに丁寧に接しよう……)


と、密かに決意するくらいには。

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