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プロローグ

※本格ファンタジーをお求めの方はお口に合わないと思います

最近ではよくある話だろう。異世界に召喚された。


学校帰りに着の身着のまま見渡す限りの大自然のど真ん中に叩き落とされ、ただ呆然と立ち尽くした。だだっ広い草原となだらかな丘、遠くに森らしきものが見える限りで、民家はおろか舗装された道すら見えない。


あまりのことに思考が停止して、そのまましばらく固まっていたら、野太い声が背後から響いた。

振り返った先にいたのはどう見てもゴロツキと言わざるを得ない風体の男たちで、汚ならしい身なりに筋骨隆々の体躯、おまけに悪人面ばかりとくれば自分がどうなるかなんて想像を巡らせるまでもない。


下卑た笑みを浮かべて値踏みするようにじろじろとこちらを見る彼らを見て、ぷつん。と、頭の中で何かが切れた。


泣いた。

そりゃあもう泣いた。盗賊っぽいおじさんたちが全力でドン引きするくらいギャン泣きした。駄々をこねた子供が全身使ってのたうち回る勢いで泣いた。こんなに泣いたのは大事にしていた聖典(小遣い叩いて揃えた漫画全巻)兄貴に間違えて捨てられた時以来だ…………割と最近だな。受験勉強真っ只中でストレス溜まりまくってた時期だったから泣くのに加えて全力で暴れてフルボッコにした。ソッコーで弁償させたけどぶっちゃけ今でも許してない。思い出は、お金じゃ取り戻せない(真顔)。


あまりに泣き叫ぶものでさすがに狼狽えたおじさんたちが、怖々宥めながら自分たちのアジトまで連れてってくれた。声が枯れて若干過呼吸になる私の背中を擦って、落ち着いた頃合いを見計らって欠けた木のお椀に入れた水を少しずつ飲ませてくれた。その優しさにまた泣きたくなったけれども、さすがに涙が出尽くしていた上大声で泣いて大分すっきりしてきていたし、これ以上泣いたらおじさんたちをもっと困らせてしまうと思って我慢した次第だ。


この中でリーダーに当たるだろう一番厳ついおじさんが、代表で私と向き合って話を聞いてくれた。何でこの人たちゴロツキやってるんだろう。こんなに良識があるのにまともに暮らせないとかこの国は一体どうなってるんだ。


さすがに異世界云々を説明するのはアレだったので、いきなり身一つで一人になったこと、帰る場所も行く宛てもないことを時折しゃくり上げながら打ち明けると、何人かのおじさんは泣いていた。繊細か。


リーダーっぽいおじさんは腕を組んで難しい顔をしてうんうん唸り、よし、と膝を叩いて私をしばらくここに置こうと宣言してくれた。


男ばかりのムサイ集団だが、ここいらの森にはモンスターも出るし、下手に町に出ても危ないだろうとの判断らしい。ワァ、モンスタートカイルンダコノクニ。



それから有り難くおじさんたちと一緒に暮らさせて貰った。


結論から言えば、盗賊っぽいおじさんたちはやっぱり盗賊だった。

しかしこの辺りを根城にしているのには理由があり、というのも、ここら一帯を治めている領主は絵に描いたような悪党で、悪政は敷くわ税は搾り取るわで近隣の町は失業者で溢れ返っているのだそうだ。おじさんたちも職を追われて盗賊に身をやつしたクチで、狙うのは大体領主に届く各地から集められた税金や巻き上げられた金品や賄賂。それらを元の持ち主にこっそり返したり換金したりして生計を立てているらしかった。


義賊とも呼べない自己満足の集団だ、と暗く笑いながら私にこちらの世界の通貨や文字や世界情勢を教えてくれたリーダーのおじさんは、多分それなりの地位にいた人だったんだろう。出自も経歴もバラバラの集団をまとめ上げ、私の面倒も見てくれる手腕は、本当に見事だったと思う。


彼らの元で洗濯や料理や掃除をしながら暮らし始めてしばらく経った頃、段々と余裕が生まれてきた。このまま彼らに甘えて生活は出来ないので、一人で生きていく術を教わりだした。


元教師だというオリバーからは一通りの一般知識を。

元軍人だというマルクスからは簡単な索敵技術と体術を。

元商人だというノックスからは物の相場や交渉術を。

元医者見習いだというロニーからは簡単な手当てのやり方を。

元魔術師見習いだというミシェルからは魔法の基礎知識を。

ホントなんでこんな人たちが職を追われたんだ。


ある程度自立の目処が立ってきた頃、私は一人でアジトのある森を一人で探索するようになった。彼らに教わった様々な知識や術を試す為だ。

何より知識面では実際町に出て齟齬がないか擦り合わせなければならない。彼らを信じていない訳ではないが、言われたことを丸呑みにするのは愚かでしかないというのが酔っ払った時のおじいちゃんとリーダーっぽいおじさんの口癖なので、きちんと自分の目と耳で確かめる必要があった。


そうやって生きていく術を着実に身に付けていったある日、とうとう私は長くお世話になった彼らに別れを告げた。


連れて来られた当初はあばら屋とも言える状態だったのを、毎日掃除して磨き上げたアジトの床に頭を擦り付け、見事なまでのジャパニーズ土下座を披露する私に狼狽えなかったのはリーダーだけだった。


今までの感謝と、これからのことと。それらを全部言い切って、漸く顔を上げたら、彼らはみんな泣きそうな顔で笑っていた。

私がもうすぐ出て行くことを何となく察していたみんなは、それぞれ餞別の品を送ってくれた。


手作りの袋、磨いて手入れした防具、ボロボロだけど補修された地図、少しの薬草、使い慣れたナイフ、日保ちする食料。


全部を受け取って、身に付けて、またみんなに頭を下げた。


そしてリーダーが、そんな私の頭を撫でて最後の贈り物をしてくれた。


日本人名は慣れないだろうから、と、下の名前しか名乗っていなかった私に、とうに捨てたものだと言う自らの姓を贈ってくれた。

捨てたものをまた拾って与えるのは申し訳ないが、と渋い顔で笑うリーダーに頭を振って、喜んで受け取った。日本では口にする度微妙な気持ちになった名前が、その姓と違和感なく並ぶのがくすぐったくてとても嬉しい。


その名を名乗る度に、道具を使う度に、みんなとの繋がりを思い出して私は温かい気持ちになるのだ。

異世界云々でよくあるチート能力を私は持たなかったけれど、これだけの良縁に恵まれたことこそが私の最大の武器だと思う。


アジトの外まで見送ってくれる彼らに大きく手を振って、振り返らずに、森の外まで一気に駆け出した。一番近い街道近くまで走り続けて、漸く足を止めた時には肩で息をしていたけれど、そんなことには構えないほど私は酷く脱力していた。


もう傍には誰もいない。


今まで支えてくれた彼らとの繋がりを証明するものは確かにあるけれど、一人になった寂しさはどうしようもなく胸を締め付けた。


けれども彼らと出会った時のようには泣けず、私はただ、声を押し殺してひっそりと泣いた。




























「ーーーーのに、なんだコレ」



ライラ・カーティス16歳。

冒険者Lv1として歩みだしてから3ヶ月。


何故か王宮の廊下で、暴れまくるお姫様を取り押さえております。


どうしてこうなった。

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