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少年期 一二才の盛夏・四

 データマンチとして、データが完成に近づくにつれ壊れていくキャラの強さを眺めるのは心躍る一時である。


 多少の優劣はあれ、初期作成のキャラクターは五十歩百歩であることが殆ど。たしかに時折とんでもないスペックの代償として、下手するとシナリオに絡めなくなるくらいのデメリットを持つ種族の登用で最初から壊れることもできるが、それは“局地的な強さ”であり私の美学にはそぐわない。


 完成したデータが魅せる“問答無用の強さ”は、ちょっと地方が変わっただけで町の入り口でオタオタするしかできなくなったり、ダンジョンに入った途端観光客になるようではいけないのだ。


 まぁ、そんなのも時折サプリで脱法してくることもあるが、今は良しとしよう。


 ぷかぷか風呂に浮かんでいたために血行がよくなって脳味噌が回り、テンションというオイルをさされた思考がちと空回っている気がするが、楽しいから大丈夫だな。問題ない。


 ともあれ、これは私の信条に過ぎないが、やはりデータマンチとしては“これってこわれてる”という強さは万能とはいかないまでも、色々な状況に対応できてほしいのだ。


 高機動の後衛に引き撃ちされると詰むじゃんと戦士一本の前衛を軽んじる気はないし、爆発的な火力を一発ぶちかました以後何もできなくなる魔法使いを誹りはしない。探索パートや推理パートで輝くが、戦闘となればリアクションしかしない非戦闘特化のキャラも、強さという概念を当てはめれば立派な強キャラと言えよう。


 またチームプレイこそが本旨のTRPGにおける、一個のパーティーが一つのキャラの如く連携して頭が悪いダメージをたたき出すコンボ的な挙動だって大好きだ。その証拠に、自分は何もできなくても味方のダメージや判定を大幅に強化するサポートキャラだって、私は必要に応じて何度も産みだし、演じて(ロールして)きたのだから。


 だが、やっぱり私は欠点が少なく、もうアイツが突っ込みゃ割と全部終わるじゃねぇかという壊れ方が好きなのだ。勿論、卓は選ぶが、今の私が自重せねばならない理由が見当たらないのだから、好きにやらせてもらおう。


 さて、それを踏まえて、現状私のステータスは荘を出た時から大きく変動していない。


 <器用>と<耐久力>が一番高く、上から三つ目の<優等>評価であり、ついで<持久力>と<瞬発力>に<記憶力>が<精良>を満たし、残る<膂力><免疫力><思考力><魔力貯蔵量>に<瞬間魔力量>の五つが<佳良>という良好な数値をたたき出している。


 単純に全ての能力が平均のヒト種より優れた地力を持つ、と考えたら大した物だろう。伊達に五年間真面目に――無駄遣いから目を背けつつ――やっていたわけではないと、数値で証明できて私は満足だ。


 これを踏まえて先の一つ、持ち得る長所を伸ばすことについて難しく考えることはない。<器用>をいよいよ二つか三つは欲しいと思っていた<寵児>の頂に引っ張って行くこと。これで<艶麗繊巧>により益々実力で殺しに行く固定値ビルド感が増すな。


 また<器用>の代わりに私のメインウェポンである<戦場刀法> を<達人>の域まで伸ばし、余剰を次に備えて貯金するなり、つまみ食いするなりするのも悪くはない。剣の腕前が上がって至る<神域>リーチというのも夢があるしな。


 些か不敬に過ぎる考えやもしれぬが、神の域だけあって本当に神族へ切っ先が届くようになるのだろうか。


 二つ目の弱点を埋めることだが……では、私の弱点とは何かという話になるが、柔らかいことだと思っている。


 <耐久力>を<優等>まで伸ばそうが、所詮ヒト種はヒト種、逆立ちしたってドラゴンにはなれない。圧倒的な質量を叩き付ければ赤い染みになり、馬蹄に踏みにじられればダメージを弾ききれず普通に死ぬし、逆に弱点じゃない属性ってなんだよという、耐性においては人類有数の脆弱さを誇る。日光浴で火傷する脆さは、ちょっと他の種族ではなかなか見られないだろう。


 そりゃ合金の骨格だの金属混じりの皮膚だの燃えたぎる血液だとか、魔法を弾く鱗なんぞと比べるなとの話ではあるが、やはり一発被弾で終わる危険性は怖い。誰だって単位一個落としたら終わりの生活を味わいたくはなかろう。


 極論ではあるが、私を殺そうと思えば“物理的に回避不可能(リアクション不可)”な攻撃さえできれば容易いのだ。その内の何発かがブッ刺さるだけで行動不能に陥り、当たり所が悪ければ呆気なく即死するのだから。


 多分、というか確実にアグリッピナ氏やライゼニッツ卿レベルの壊れなら、その手の殺し方は幾つも握っているだろう。むしろそこまでせずとも、今の私なら戦列一個並べられたらケツ捲るしかなくなるからな。どんな達人とて、刃が伸びるとか空間ごと叩き切ってみせるとか、或いは全方位の攻撃を一息で全部弾くくらいの離れ業がなければ槍衾の前には無力なのだから。


 では、飽和攻撃と暴力的物量への対抗策とは何ぞや、という話になる。


 一つは回避スキルではなく防御スキルが考えられる。優れた装甲点とダメージ軽減技能による受け流し、そんな所だろう。ただ、やはり技量にしても肉体にしてもまかなえる限界があるため――流石に隕石が降ってきたらどうしようもなかろうよ――元の柔らかさを根本から克服する手段は魔法を除いて他にない。


 現に魔法には、その手のスキルがわんさと存在するのだ。私が<見えざる手>を無理矢理工面してやっているような物理障壁から、物理現象の上書きなどの魔法障壁、果ては“概念”を障壁に仕立て上げるとかいう、今の私のおつむではちと理屈が理解できない代物まで様々だ。


 ただ、これはライゼニッツ卿におねだりすれば幾らでも講釈してもらえそうだし、アグリッピナ氏からも有用なアドバイスや情報が貰えるだろうから、選択肢としての確度はかなり高い方と言えた。


 二つは根本的な解決にならないこともあるが――バックアタックこわい――殺される前に殺す範囲攻撃である。これは強い魔法使いムーブとして実に分かり易いものの……私の<瞬間魔力量>と携行性に小器用さが売りたる月の指輪には些か荷が勝ちすぎる。


 ちょっとカルマ値とか法律的にどうなんだという点に目を瞑れば、<転変>系列の魔法で物騒な気体(毒ガス)を合成するお手軽な殲滅魔法も考えたが、これはフレンドリーファイアが怖すぎるから論外か。無関係な人間まで巻き込むのはちょっとどころではなく拙いし、各自生命抵抗頑張って、という投げっぱなしもよろしくないな。


 「そこでわたくし達のお仕事よ、愛しの君」


 「……男湯なんだけど、ここ」


 常識と効率の間で悩んでいると、額にふわりと降りてくる感覚が。視線を上げるまでもなく分かる。ウルスラがちょっかいをかけに来たのだ。


 人のデコにケツ乗せるとはふてぇやつだな、まったく。


 「妖精に男湯もなにもないわよ。暖気を好む妖精や水気の精霊が漂ってることくらい、見えておいででしょ?」


 こともなげに言われてしまったが、事実その通りなので何も言えない。ここをふわふわして下らない悪戯――洗い桶の湯を水に変えるとかいうご老人にやってはいけない所業――に精を出す妖精は少なくないのだから。


 行きたい所で振る舞いたいように振る舞う、妖精の有り様としてはそれが自然なのは理解するが、もうちっと隣人を気遣ってくれてもバチは当たるまいに。


 「お悩みのようだったから、アドバイスに来てあげたのよ。私と踊ってくれるなら、素敵な魔法を授けてあげてよ? あらゆる“物理的な干渉”を妨げる、素敵な素敵な妖精のおまじない」


 物理無効、というのはTRPGに限らずあらゆるゲーム好きの心を擽る単語だな。防御キャラの一つの到達点であり、意外とあっさり抜かれることに定評のある耐性。しかし、妖精が持ってくる物にシンプルな善意はあり得ても、致命的な悪戯心が仕込まれていることを忘れてはいけない。


 どうせ“妖精にしてあげる”とかそんなんだろう。その対価にして手法のため、私が頷いてしまったら薄暮の丘にご招待されるに違いない。


 「気がついたらウン百年経ってました、というのはゾッとしないなぁ」


 なぁんだ、オチを知ってるならつまらないわね、とゾッとしないことを宣う夜闇の妖精(スヴェルトアールヴ)。本当に勘弁してくれ、タイムスリップという言葉にはロマンが擽られるが、私は家族や友達を置いて姿を消してまでぶっ壊れたくはないぞ。


 「もうちょっとマイルドなのはないの?」


 <声送り>で独り言とも呼べない小声を届け、湿った髪で遊ぶウルスラに問うも、対価なしに物あげると怒られるのよねとの小言が返ってきた。永遠に踊って遊ぶ妖精達も、存外世知辛い上司部下の関係に悩んでいるのだろうか。


 「そうねぇ……ま、薄暮の丘に連れて行くまでいかなくても、幾つかお願い聞いてくれるだけで勘弁してあげてもよくってよ? 夜闇の妖精ならみぃんな使える、素敵なお散歩の仕方を教えてあげる」


 少し惹かれる提案であった。彼女の言うお散歩の仕方とは、間合いを詰められた事実を視認できているのに“認識はできない”という独特の移動法だろう。原理は全く不明だが、夜闇という無明の“何があるか分からない”場所に住まう彼女たちが使う分には極めて自然なそれは、防御手段としては実に優れているだろう。


 戦闘中の隠密は微妙、と以前に語ったことがあるかもしれない。ただ、限定的な回避に使うのでは悪くないのだ。


 対象を範囲で焼き払う(対象:シーン・選択)攻撃以外は、基本的に誰が何処にいるか認識して放つ物であり、例え広い範囲の敵にホーミングで叩き付ける魔法でも、いない物と認識される限りは命中しようがないのだ。なにせ、自分に向かって飛んでこないのだから。


 つまり、そういった変則的な回避運用において、戦闘中即座に隠密状態になれるのは決して弱くないのである。


 まぁ、別の味方にタゲが飛ぶだけなので、あくまで弱くない止まりであり、往々にして「んなこたいいから火力上げろアホ」と言われるのだが。そうだよね、アサシンなら一発の爆発力の方がみんな重要視するよね……。


 とはいえ、私はアサシンではないし、悪くないお誘いなので考慮に入れておこう。


 「で、何をやれば、そのご褒美が貰えるのかな?」


 「そうねぇ……妖精にちょっかいかける、変な魔導師の首とか?」


 本当にこの黒ロリはえげつない事ばっかり言う。故郷の幼なじみも過激ではあったが、もうちょっと迂遠で慎みがあったんだがなぁ。いや、慎み深い物騒さとは何ぞや、と問われたらそれはそれで困るけど。


 「まだ日の高い内から出て来て、物騒なお願いはやめてほしいなぁ」


 「えぇ? 日が高い?」


 ふわりと彼女は舞い上がり、浮かぶ私の前に姿を現す。いつも通り、髪の毛だけで際どい所を隠した――角度によっては無意味だが――彼女は、露骨に変な物を見るような目で私を見ていた。


 「もぉとっくに日暮れが近いわよ?」


 「はっ!?」


 慌てて起き上がってみれば、さっきまで閑散としていたはずの浴場にぼちぼちの客が来ているではないか。突然大声を上げた私を見て訝る彼等は、暇を持て余して風呂に来たご老人や子供ではなく、日々の勤めを終えて疲れを癒やしに訪れた労働者ばかり。


 いかん、あまりにも楽しすぎてのぼせかけていることに気付かないどころか、時間の流れすら認識できていなかった!


 「やっば!」


 「あーもー、前くらい隠しなさいな」


 お勤めの為に風呂に入りに来たのに、そのせいでお勤めに遅れるとは本末転倒過ぎて、煽られても何も言えなくなる!


 私は最後の一つ、自分に新しいエッセンスを追加するという困難ながらも楽しい思考を打ちきって、脱衣場へと駆けだした……。








【Tips】奇跡的な恵体と特性の恩恵により、ヒト種の頑強性を大きく超えたヒト種も存在する。

昨日は無様を晒したので、朝と昼休みにチェックし、データを移したUSBとラップトップも持ち歩くという念入り用。尚、ポケットWifiを忘れていた模様。


ブックマーク六,〇〇〇越えという望外の支持をいただき、これにどう応えればよいのか戦々恐々の小物ですが、趣味に従って生きて行くのでこれからもお付き合い願えれば幸いです!


次回は2019/2/20の19:00頃を予定しております。

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[一言] 何処ぞの掲示板でアラクネ大好きスレからこの作品を知れて良かった…! 某前世がおっさんの幼女が存在Xを罵倒しながら展開される戦記のように、次へ次へと読む手が止まらない…かっぱえびせんかな?(寝…
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