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青年期 二一歳の冬 十六

 遺跡に神器(レリック)漁りに行こうぜ! という企画方針のセッションは全部の指の数でも足りないくらいやって来たが、よもや今生で縁があろうとは。


 こっちじゃ神が結構地上に干渉しているし、神器の所持を赦されるような野生の神器持ちなんていたら、一瞬で僧会から勧誘攻勢がかかってえらいことになるからな。


 すなわち、普通にしてたら取りに行けないところの物だけが残ったとも言えるのだが。


 「それで……これが、その、神器の一覧なのですが」


 「また難儀そうですわねぇ」


 セス嬢がヴィリ様から預かってきた書簡に神降ろしの手順と、その助けとなる神器が書かれているということはお眼鏡に適ったということだと一安心する余裕もない。


 手紙を無事に会館に持ち帰って、私の私室で開くと余裕は最早味が感じられない程に薄まった。


 提案された神器は、どれもこれもマルギットが眉を潜める程度には厄介そうな案件だったからだ。


 ざっと目を通した相方が机上に広げたので、上から順番に見ていこうか。


 「月明かり(ムンドリヒト)額冠(サークレット)……これは無難そうだな」


 「え? 土豪の館で家宝とされている神器が……ですか?」


 目録の一番上に記載された月明かりの額冠は、古い神話に出てくる神器だ。夜陰神が落とし子の一人に婚姻の祝福として授けた物で、今はマルスハイム辺境の土豪が所有している。昔は高貴な階級では、額飾りが嫁入り道具だったから、それに由来するのであろう。


 斯様なブツを僧会が取り上げようとしなかったのは、戦争が起こるまでは持ち主が貴重な親帝国派であった上、国境ギリギリに領地が配属されていて、旗具合が微妙な衛星諸国と昵懇だったなんて複雑な事情あってこそである。


 行政府からできるだけ刺激しないでくれと頼まれたからこそ僧会も堪えていたけれど、今回の動乱では立地的に――殺気だった土豪氏族の最奥――親帝国路線を打ち出せなかった故にか、しっかり反乱側に加わっているため縛りが外れた。


 まぁ、辺境の外れも外れ、帝国に義を通したところで周りの土豪勢力に殴られて真っ先に殺されるとあっては、先の反乱にも参加せざるを得なかったため、やむなく参加したという具合か。


 運がない家だ。今まで上手くやって来たろうに、周りの阿呆のせいで全部ご破算とは可哀想に。上手に風見鶏をやっていても、土台ごと吹き飛ばす嵐が来たら抗いようもあるまい。この状況を頑張ってきた先祖の墓前に現頭首が一体どう報告したのかが、下世話ながら気になってきた。


 辺境の治安が治まって、聖堂騎士団に暇ができたらもののついでみたいな軽さで潰されるとは、他人事ながら哀れでならぬ。


 「所有者はハルパ・ヨクゥルトソン・ヘイルトゥエン卿……おっと、卿の称号は今やないか」


 「ちょっとお待ちくださいましね……ああ、賞金が掛かっておりますわね。生け捕りで一〇〇ドラクマ。首だけでも一五は確約。城館を無傷で占拠したら四〇〇ドラクマの追加報酬。まぁまぁの首ですわね」


 マルギットが懐から取りだした帳面を捲ると、しっかりと札付き(賞金首)になっていることが分かった。彼女は私の補佐として、かなり几帳面に冒険者同業者組合が貼り出しているお尋ね者の情報を纏めてくれているのだ。


 今のところ辺境伯は反乱の後始末と治安回復、襲われて一度は奪われた荘や城の慰撫に注力していることもあって、冒険者や傭兵を暗殺者のように使おうとしている節がある。


 要は首魁が壊乱して烏合の衆となった土豪を一人とて赦す気はないけれど、遠方のは後で相手をするしかないので、手透きの暇人が功名目当てに狩りたいというならお好きにどうぞという寸法だ。


 賞金が掛かれば金が欲しいし、ともすれば勲功を得てあわよくば騎士位に、それが無理でもマルスハイムの都市戸籍くらいは頂戴できるんじゃなかろうかと頑張っている冒険者も多い。


 身近な冒険者を例とすれば、鍛えられた騎士と殴り合えそうだと期待したロランス氏が一党を率い、孤立した拠点を襲いに行ってたな。日和見していた小規模な氏族や、戦の噂を聞いて来てはみたものの会戦に乗り遅れた傭兵共を糾合し、立派な城攻めの準備をして出て行ったのは昨夏のこと。


 ロランス氏族の基幹要員には戦死者はなかったが、おこぼれに預かろうなんて適当な心持ちで参加した下級連中が二〇人以上死ぬ大戦(おおいくさ)の末、奪った旗の穂先に土豪の首を鈴なりにして彼女達が凱旋してきたことは記憶に新しい。


 総計で五〇〇ドラクマ以上の報奨金を得たそうだと界隈が俄に活気づいたし、英雄詩もちらほら聞こえるようになったけれど「とんだ期待外れだった」と愚痴っていらしたな。マルスハイム辺境伯直参食客の地位も、興味がないから断った彼女が言うのだから、本当に消化試合みたいな戦争だったのだろう。


 まぁ、そりゃ仕方ねぇな、と思うけどね。後詰めとして乾坤一擲の会戦には置いて行かれたってことは二線級の腕前と見るのが妥当。あれから武に磨きを掛けた巨鬼の戦士を先頭に突っ込んでいく、下手な傭兵団より戦に長けた氏族が数まで揃えてきちゃどうにもなるまいて。


 他にも何処ぞの一党が少数精鋭で長躯敵地へ乗り込んで、警戒を掻い潜り首を持ち帰ったとの武功も届いている。落ち武者狩ではなく、狩って良い身分に墜ちたからと進んで敵地へ乗り込んで首を取ってくるのは……うん、やっぱり冒険者で成功するような人間は、思い切りが良い者(ばんぞく)ばかりなのだなと実感させられたね。


 ともあれ、今や謀反人として首に賞金が掛かったハルパは、主立った土豪勢力が駆逐されていることもあって、最後の拠り所の一つとして仕方なしに抵抗を続けている。


 つまり、冒険者として「気が乗ったから」でぶん殴ってもお咎めなしどころか、お上がお褒めの言葉とお小遣いまでくれる訳だな!


 「誰ぞあっちの出身者は会員にいたかな。何人か向こうから流れて来ていた気がするんだが」


 「アントリとファナンがそっちの出……だったと思いますけれど、ジークフリートの遠征隊に組み込まれていますわね」


 それは残念、と思ったが彼等も戻る頃だ。予定では昨日が帰参の日だったが、スマホもない上に道が悪い辺境なので数日の遅れは誤差も誤差。カーヤ嬢から急ぎの報せが魔法で来てない以上、ただ単に馬車の車軸がイカレたとかで何日か立ち往生した程度であろう。


 「人数は多いですが所詮人間相手な上、敗残の集まりですから。殺せば死ぬ分、一番普通ですよ」


 「事態が混乱している今なら、穏当に盗みに入るのも簡単そうですわね」


 その点、私と相方の見解は一致している。逃げ出した騎竜狩より容易い仕事だ。


 軍用の騎竜って賢いから大変なんだよ。人間の匂いにも敏感だし、野生のソレより洗練された血統が宿す人殺しの才覚にかけては数段上だ。本来は竜騎兵の所持を禁じられていた土豪が密かに訓練し、いざとなれば倍以上が襲いかかってくる、先帝の薫陶厚き帝国竜騎兵隊と戦うことが前提だった精兵ともあれば尚のこと。


 敗残兵にトドメを差す方が会員達も、なら簡単だな! と指差し確認(ヨシッ! と)してくれるに違いない。


 「ともあれ一番簡単なのはこれとして、次は……うぇ、外国か」


 「トリーノ、南内海寄りの南方衛星諸国ですわね。ええと、偃月(ハルプムント)(シュピーゲル)(ティッシュ)?」


 「それは夜陰神の化身が身繕いのため、弓張り月に手を翳して作ったとされる神器が僧会に下賜された物です。私の記憶が確かなら、トリーノの聖堂で布教のため秘蹟の一つとして貸し出されていた物かと」


 神器を布教のためとは言え持ち出すってあるの? と聞けば、夜陰神本体ではなく、地上に降りるための化身が作った物だからギリセーフということで、衛星諸国の中では力があるトリーノに貸し出されたらしい。


 当時の皇帝は、どうしてもトリーノを独立した国として存続させた上、同盟国という名の属国にしたかった理由があったようで、皇帝直々に地面へ額に擦りつけて僧会にお願いした末の荒行ではあったそうだけど。


 とはいえ、土下座した皇帝の気持ちも分かる。トリーノは総人口数十万に達する強国で、帝国と比べれば小粒だが下手な大貴族よりは余程力がある。ここが塞がると西方から貿易港のある南内海に行けなくなるので、何があっても穏当な形で引き入れたい気持ちはストラテジーゲームを嗜んだ身としては、痛いほどに理解するよ。


 うっ、ハイパーレーンや半島の出口を戦闘狂に封鎖される場所が初期立地だった時の古傷が……。また次のシド星に旅立たなきゃ……。


 「ヴィリ権僧正は、トリーノの聖堂座主とは昵懇なのでお願いすれば貸してくれるかも……と」


 「個人間の友誼で貸し出せる物なんですかね、それ……」


 「絶対に断れない〝貸し〟が一つあるとかなんとか」


 何だソレ、面白そうだけど絶対聞きたくねぇ。僧会の上の方の政治とか、何があっても関わっちゃいかんヤツじゃないか。


 しかし、本当にコネの力というのは凄い。こんなのもう神業や加護を使って貰ったようなもんじゃないか。ヴィリ氏は、一体どれだけセス嬢を気に入られているのだ?


 まぁ、血を見ないで手に入れられそうだから良いとしよう。ただ、物理的にかなり遠い。早馬やら何やらを使っても往復で冬至まで間に合うかというと、馬を何頭も使い潰してやっとといった距離だ。


 ヴィリ氏からの書状を持たせられる信頼できる配下と十分な護衛を付けて、死なない程度に無理をさせて往復……となると何十頭要るんだ?


 いや、まてよ、しかも鏡台ということは相応に大きいし、間違いなく壊れ物だよな? 曇り一つ付けただけで殺されそうな物を急いで輸送? いやぁ、それはちょっとな。


 さりとて、私が直接訪ねて〈空間遷移〉で輸送するという荒技も難しいと思う。


 何度も言ったとおり奇跡と魔法は食い合わせが悪いのだ。一部の薬と葡萄柚(グレープフルーツ)のように混ざり合うととんでもないことが起こりうる。


 化身とはいえ神の一部が降臨して作った物なんざ、下手に十一次元を歪めた空間の狭間にぶち込みたくないぞ。


 まだプルトニウムとガリウムの間にドライバーを(デーモンな)突っ込んで遊ぶ(コア)方がマシだ。こっちは失敗しなきゃ死なないからな。


 ちと策を考えないといかん。最悪、仕事で培った伝手を使ってモンゴル式に大量の替え馬を引き連れた部隊を編成する必要があるか。これはアグリッピナ氏に金の無心をする日が遂に来たかもしれぬ。


 いや、というか、あの人まだ私の手紙に返事くれてないんだよな。忙しい立場だというのは分かっているけど、今までは早かったら半刻、時間がかかっても翌日には返事をくれていたというのに。一夜明けても返事が来ないのは、何か厄介な案件にでも引っかかっているのか?


 だとしたら本当に勘弁願いたい。ヴィリ氏がセス嬢のコネで神業を切ってくれるコネクションだとしたら、アグリッピナ氏は悪意点を盛る代わりに加護を使ってくれる感じで、頼みの綱の一つなのだから。


 ああ、あの外道の顔が今すぐ見たいなんて思う日が来ようとは。


 「距離の問題はさておき、最後のは貴方向けでしてよエーリヒ」


 「ん?」


 「コレ、聞いたことなくって?」


 「弄月の魔宮……はぁ!? 都市伝説じゃないのか!?」


 相方の言葉に思わず椅子ごと転びそうになった。


 弄月の魔宮というのは、前世で喩えるならきさらぎ駅みたいな怪談めいた与太話だ。


 何でもそのまた大昔、神代が明けるか明けないかの時代に一人の魔法使いが特大の馬鹿をやらかしたそうだ。


 月に由来する隕鉄を使って、強大な魔法の杖を作り出したというのだ。


 それが弄月の杖。選りにも選って、魔導的な対となる隠の月ではなく、夜陰神の神体となるガチの月の欠片を魔導のために弄んだのだ。


 虚数的な月の影から取れた欠片とかいう意味不明な物よりも、下手に実態が存在している物の何がヤバいかと言えば、世界中に月を拠り所とする神格が存在していること。


 世界の管理者であり、この世の法則というソースコードを操る管理者の鍵をハッカーが掠め取ろうとするような愚行が怒りを買わない道理もなし。神々も激怒不可避だ。


 その魔法使いの塔が立っていた一帯が、他神群にも存在する月を依代とする神々の力を総動員して〝空間諸共〟消し飛ばされた。


 だが、それをして完全に消えぬ程に弄月の杖は強力であったがため、今も月見をするのに良い晩、現世に一時のみこの世に焼け残った影のように現れるという。


 そこに偶々迷い込んだ〝与太吐きのエルメイア〟という冒険者――ただのほら吹きではなく、ちゃんとした英雄の一人だが――が語って以後、そこを探して帰って来なかった冒険者がいたり、建物なんて立っていない筈の場所に塔を見たという荘民の噂がまことしやかに囁かれるようになった。


 だが、目撃談も弄月の迷宮を探して消えたという冒険者の所属地もてんでバラバラ、地方すら定まっていないので冒険者界隈では有名な与太話なのだ。見たと強弁したヤツが書いた地図を頼りに遠征隊が出て、空ぶったことでそいつが刺し殺されたとかいう馬鹿話も存在するような冗談。


 それが実在している……? 嘘だろ? 助けて財団! 何かヤバい物が流出してますよ!!


 冷静に考えると自分も収容される側か、という次元を第一の地元に飛ばした現実逃避はさておいて、同業の中では誰もが知っている馬鹿話もセス嬢には関係ない。


 淡々と事実だけが口にされる。


 「月の力が強い杖だけあって、本当に一時、月が最も輝く手前の時期、現世に焼き付いた〝影〟として姿を現すのです」


 天体の大きさからすると塔が立っている広さなど高が知れているが、その〝たかが〟によって世界が滅びることもある。


 だから神々は厳密に言うと、塔を物理的に消し飛ばしたのではない。杖の強さも相まって適わなかったから、自分達の箱庭を壊さないよう〝折りたたんで〟誤魔化したのだ。


 飲み物の染みが付いてしまった紙を拉げ、表面上は平らになったかのような見せかけで。


 存在した場所を削って盆地にするのでもなく、そうまでしなければならなかった異形の神器。


 我々が生きる基底現実、ユークリッド表面上(三次元)から隔離されてしまった場所に放逐せざるを得なかった存在なんて……これ、私が冒険者ではなく探索者だったら直視した瞬間に発狂するんじゃないか?


 「神器と呼ぶには悍ましい代物ですが、破壊し、月の欠片だけを取り戻せば……」


 真逆の真逆、最後に特大の爆弾をぶち込んでくれたものだ。


 いや、全冒険者垂涎の偉業ではあるけども。


 今まで全くの与太として信じられていなかった魔宮を暴き、その深奥から宝物を奪い去ってあるべき形に戻させる。


 ああ、百年、いや千年経っても戯曲が後に残ろうよ。


 「月が完全に満ちる数日前に魔宮は現れます。場所は大凡掴めていて僧会も把握できているのですが……」


 冒険者達が実在を確認できていなかった魔宮を僧会は大昔から、滅ぼしきれずに残っていると把握していた。それが方々で見つかったと噂されるのは、ミンコフスキーの彼方(人間の認知の外側)に放逐された空間の影が月の光を通して基底現実に映り込んだからこそ。


 だが、今も尚、大昔の魔法使いがしでかしてくれた愚行を精算できていない理由は一つ。


 武闘派の僧たちが誰も踏破できなかったからだ。


 「条件さえ揃えば塔の影は偏在します。しかし、幾度も精鋭の聖堂騎士団が派遣されたものの、結果は今のとおりです」


 喩えではなく神話級の代物を破壊しようと試みたならば、差し向けられた僧達は生え抜きの一隊だったに違いない。されど、それが未帰還であるなら塔の難度は想像を絶する。


 挙げ句、月の光が届く場所なら世界中で観測され、あらゆる神話の月の神が疎んだとなれば、我々に知る由がないだけで何千回と打破を試みられたと考えるのが妥当だ。


 いやぁ……冒険に憧れて伯爵の養子に繋がる騎士位を蹴った私でも、ちょっと尻込みするヤバさだな。


 しかし、先例に従うならば神降ろしには神器が三つはないと危険だという。一つあればできるし、二つあれば多分大丈夫だが絶対ではない。


 なら、彼女が無事のままに、此度の一件を恋のから騒ぎで終わらせるための安全幅を確保するのなら否はいうまい。


 さしあたって大切なのは、嫌がりそうなジークフリートをどう口説き落とすかだな。剣友会のなかでもガチ中のガチ面子で突っ込まないと、与太話の彼方に消えた者達を量産するだけとなろうから。


 うーん、と顎に手をやった私の集中を切ったのは扉を叩く音。


 余程ではないと来るなと配下には言い付けておいたので、ジークフリートが帰ってきたとしても報せには来ない筈なのだが。


 「入れ」


 「言い付けに背き、申し訳ありません、旦那」


 机上の目録を片付けてから入室を許可すれば、やって来たのは間口以外の理由で身を縮こまらせているヨルゴスだった。


 彼も結構な修羅場を潜ってきたので、かなり肝が太くなった方だが、萎縮しながらやって来なければならない事態が起こったのか?


 「ただ、余程のことがなければ呼ぶな、の余程に十分かと思いやして……」


 「お前さんが言うなら大げさではないだろうな。何があった」


 「そのぉ、お貴族様がお見えで……」


 「はぁ? 貴族? 先触れもなしにか?」


 唐突な報告に驚きを隠せなかった。格下相手でも貴族が先触れも出さず、ましてこんな下町まで出張ってくるなんて尻へ物理的に火がついてもそうそうないぞ。貴族が人を訪ねるなら、どんな格下相手でも最低は四半刻ばかし前に人が報せに来る。


 これが貴族相手だったら結婚式にジャージで参加するような無礼だし、平民相手でも「この人、ネクタイ皺だらし靴磨いてねぇな」くらいには残念な人を見る目で見られるのに。


 「何処の馬鹿だ。常識知らずの土豪上がりか?」


 とはいえマルスハイムには土豪を見限って領地を返上し辺境伯直参になった者もいるし、先の反乱で上手いこと寝返りを打って隷下に加わった新参だっている。帝国式の礼儀作法を修めていない人間もいないではないのがどうにもな。


 「いえぇ、その……かなり高貴そうなお方でして。元同僚と言えば分かると」


 「……待てよ。家紋は?」


 「へぇ、片外套に鷹……いや、鷲ですかね? まぁ、なんか頭が二つの鳥の紋が刺繍してありやした。足に杖だか棒だが持ってやしたね」


 特大の溜息を吐いて、今度こそ椅子ごとぶっ倒れてやった。マルギットもセス嬢も慌てているが、それくらいしたい気分なのだ。


 畜生、あの外道、何を思ったか手紙の返事じゃなくて〝裁量権を持った部下〟を直接寄越しやがった。本人が白昼堂々訪ねてくるよかマシだが、何やってくれてんだよ…………。




【Tips】笏持ち双頭鷲。ウビオルム伯爵家の家紋。旧いライン三重帝国に呑まれた神群の神の象徴であり、旧ウビオルム伯爵家はその祭祀の末裔であったために掲げられた意匠。現ウビオルム伯もそれを継承している。 

予告通り19:90分の更新です(迫真)

すみません、予約投稿の日付を間違えておりました。


昨年中はコミカライズも始まり、お世話になりました。

今年も頑張りますので、2D6の期待値が5の金髪と遅筆の私にお付き合いいただければ幸甚です。

そして、今週は13日の金曜……ん? ブラッドムーンでホッケーマスクの怪人と戦えというお告げ……? ともあれかくあれ、コミカライズ版5話の更新もありますので、お楽しみに!!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 《プリーズ!》するとかやはりセス嬢はマネキンであったか……いやミストレスは無理ですよお嬢様
[一言] マヤ、アステカ、インド「呼んだ?」 財団員「一応神々に封印されてるし、何もしなければ無害だからオブジェクトクラスはセーフで」
[良い点] ごっついダンジョン出てきたなぁ… 設定だけでもカッコ良すぎるだろこれ
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