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※序章

オーバーラップ文庫より書籍化しております。1巻~3巻で六万文字以上の加筆修正により大量の追加シナリオを盛り込んで発売中。

6月25日に4巻(上)が発売予定!

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


各話後書きにオーバーラップ公式にて公開されている口絵など追加しております。

 マンチキン【Munchkin】

 1.自分のPCが有利になるように周囲にワガママをがなりたてる、聞き分けのない子供のようなプレイヤー。

 2()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()






 自我が芽生えるに至って自身が正気か否かを第一に考える必要を認めるのは、中々に業が深いのではないかと思い始めた。


 私の名前はエーリヒ。家名はない。


 というのもライン三重帝国の辺境における荘園に四男として生を受けたからだ。単なる自作農に家名を名乗ることなど許されず、無理をしてもケーニヒスシュトゥール荘のエーリヒと名乗る他なく、余所では父ことヨハネスの末の(せがれ)で通じる。


 母が産まれたばかりの妹の世話に手を焼いて放置されるようになった五歳の春、私の自我は斯様な思考をこねくり回すようになっていた。


 それもこれも前世というべきか、何やら自身の経験から隔絶した自我を持っているからだ。


 通常、五歳児というのはよくも悪くも無邪気で阿呆な生き物だ。鼻水を垂らして小動物だとか昆虫の命を玩弄し、泥まみれになりながら駆け回るのが相応である。それがこんな不便極まるとしか思えない、地方の農村であれば尚更だろう。


 だのに私には妙に達観したというか、擦り切れた思考が自身を知覚すると同時に備わっていた。それに付随する、自身とは関係無いはずなのに自分のこととしか思えない経験と共に。


 その経験が語るところ、私にはもう一つの記憶がある。更待(ふけまち) (さく)という名の三十代前半にして若年性の癌で果てた男性の記憶だ。


 正しく前世と呼ぶほかに形容の見当たらぬ自我と経験は、有り触れた三十代の男のそれ。普通の家庭に生まれ、相応の幸福に恵まれながら運がないことに遺伝性の癌で呆気なく人生を終えた一人身の男だ。


 商社に勤めて管理職になり、趣味を十分に愉しんだ後悔のない人生だったと思う。一人身故に両親に私の孫を抱かせてやれなんだのが心残りではあるが、それもできた姉が果たしてくれたのでそこまででもなかった。


 問題はそんな私が、何故にこんな見覚えのない地で、五歳児である身分を自覚しながら存在しているかだ。


 心当たりは一つあった。若年性故に進行が早い癌の治療を早々に諦めた私は、ターミナルケアの中で精神を落ち着ける瞑想に耽ることが多かった。結跏趺坐(けっかふざ)で自身の中に深く埋没する精神修養が、軋む身体の恐怖を和らげてくれるのだ。


 その瞑想の最中、私は神に会った。


 シンプルに言葉にすれば自分でも電波の極み(なにかのびょうき)としか思えないが、本当にそうとしか言えないのだ。なにせ私が邂逅した蓮華の上に座する彼は、未来仏の菩薩だと名乗ったのだから。


 その菩薩曰く、三千世界を管理する中でヒトが将来的に潰えかける世界は多く有るという。その世界を管理委託した神から助けを請われ、直接的に助けるのではなく、将来的に解決しうる魂を放り込むことで彼の御仁は事態を解決、あるいは食い止めたいのだと私に語った。


 神ならさっさと神パワーなりで片付ければよかろうと思えど、そうもいかぬ事情があるそうな。


 というのも、神々が直接介入し過ぎればヒトは多くの場合で努力を止め、結果的に衰退するからだという。それ故、本質的には世界の内側にある人間が是正できるよう、間接的に便宜を図ることで神々は事態の修正を行うそうだ。


 曰く、倫理観の基礎を作った各神話における預言者達も、今の私と同じポジションのオファーが来て覚者だの神の子になったそうな。


 全く壮大にして遠大すぎる話であり、高額で分厚い書籍(ルールブック)薄い書籍(サプリメント)を買うことを至上の贅沢としている小市民の私には、到底理解が難しい話であった。


 しかれども、彼の御仁の決定は覆らなかったらしく、私は厳然としてここにある。農家の四男、ケーニヒスシュトゥール荘のエーリヒとして。


 しかし、彼はそこまでお題目を唱えた上で私に役割を与えなかった。


 伝えるべき教えも預言も持たされず、ただ“汝が為したいように為すがよい”と非常に聞き覚えがある託宣だけを与えられた。


 邪神かな?


 冗談はともかく、恐らく神々の領域で語られる深遠にして複雑な、私の理解が及ばぬ戦略レベルでの思惑がおありなのだろう。きっと私が好き勝手することが、彼の御仁にとって何らかの都合が良いように運ぶようにできているに違いあるまい。


 そう、良くも悪くも。


 私が此処にあること自体に意味があるのだろう。ならば、生きている以上は生きるほかにあるまいて。


 さて、そんな神の実在を信じるに足る証拠が一つあった。


 彼の御仁は邂逅の終い口、一つ私に祝福を授けると言った。


 曰く、自身を思うが儘にする権能だという。


 何の事か当時は分からなかったが、この世界において自我が固まった今ならば分かる。


 つまりそれは、自身の能力を“思うが儘に伸ばせる”ということだ。


 意識すれば目の前に広がるのは、己という人間を俯瞰した設計図である。何ができ、何が得意で、何を為せるようになるのか。その全てがつまびらかにされ、あまつさえ“望むように”弄くり倒すことが能う。


 複雑に絡み合い、相互に影響し、無限に伸びていく要素は正しく私が前世で愛した遊戯、そのままではないか。自身を思うとおりビルドし、世界を回る最高の遊戯が目の前に広がっていた。


 シンプルながら味があるシステムに私はすぐさま魅了される。肉体を表す立体的に伸びる基本円柱、そしてその周囲を複雑に囲っていく多数の円柱が職業や特技、特性といったキャラクターを作り上げていく要素となる。


 これを認識した時、私は思った。


 TRPGだコレ。


 インターフェースこそコンシューマゲームのそれだが、基礎構造は私が慣れ親しんだ高価くて分厚い書籍(ルールブック)を集めてやる遊びそのものではないか。一枚の紙にキャラクター(自身の現し身)の人生を練り上げ、友と集って演劇の如く物語を作り上げる人力のロールプレイングゲームのキャラクターシート、それと相違ない。


 ああ、何と素晴らしいことか。私の目の前には無限の可能性が広がっているのだから。


 通常全ての生き物は、為したことに為したままの熟練度が割り振られる。草を抜くなどの日常の雑事を片付ければ、その雑事の熟練度が上がり、剣を振れば剣を振る熟練度が蓄積される。


 これは至極当たり前のことだろう。雑草を幾ら抜いたところで、剣の機微など身につこう筈がないのだから。


 だが、この祝福は違う。


 全ての熟練度を一旦ストックし、思う所に割り振ることができるのだ。まるでTRPGの冒険者が、ハック&スラッシュ(押し込み強盗)の末に学者としての技能を身につけるかの如く。


 つまり私は、やろうと思えば雑草を抜きつづけることで剣の聖に至ることもできるのだという。


 実に楽しいではないか。このシステムはTRPGと本当によく似ている。冒険をすれば手に入る経験点があれば、こなした冒険とは縁もゆかりもない技術でも習得できる、私が愛した世界そのままだ。


 これだけ都合が良いものが与えられていることに、達観した自我が自身の正気を疑ったとて不思議はあるまい?


 しかし現に私は此処に存在し、権能は“思った通りに”機能した。


 それは、手の中に握られた簡素な神像が厳然たる事実として証明してくれている。


 私の前世は言いたくないが不器用だった。プラモデルは素組みが精々で、それでも何度も間違った部品を嵌めたり壊したりの惨憺たる有様。


 だがどうだ、ストックした熟練度を器用さに割り振ることで習得できるようになった、<手習>レベルの木工彫刻スキルを習得すれば、たった一本のナイフと木片でこんな物が作れるようになったのだから。


 ああ、私はケーニヒスシュトゥール荘のエーリヒ。為したいことを為せる男である…………。




【Tips】熟練度は基礎ステータス・特性・技能共通項目である。

エーリヒ

挿絵(By みてみん)


※補記一

データマンチといっても“GMを怒らせたい人向け”で有名な盾二刀流とか小鳥に変身する魔法使いとかのネタ的な壊れ方はしません。


※補記二(2019/1/22)

 タイトルのヘンダーソン氏とは、海外のTRPGプレイヤー、オールドマン・ヘンダーソンに因む。

 殺意マシマシのGMの卓に参加しつつも、奇跡的に物語を綺麗なオチにしたことで有名。

 それにあやかって、物語がどの程度本筋から逸脱したかを測る指針をヘンダーソンスケールと呼ぶ。

・-9 全てプロット通りに物語が運び、更に究極のハッピーエンドを迎える。

・-1 竜は倒れ、姫は国元に帰り、冒険者は酒場でエールを打ち合わし称え合う。

・0  良かれ悪かれGMとPLの想像通り。

・0.5 本筋に影響が残る脱線

   ex)シナリオでボチボチ働くはずだったNPCが死ぬ。

    或いはPCによって勝手に妙なキャラ付けが為される。

・0.75 本筋がサブと入れ替わる脱線

   ex)盛り上がった雑談の方向に話が逸れ、実際に行動に移される。

    PC1置いてけぼりで、その場で生えたNPCとの因縁を果たしに行くなど。

・1.0 致命的な脱線によりエンディングに到達不可能になる。

   ex)私は館の領主が吸血鬼かもしれないから調査しろとは言った。

    だが、誰も館に火を放てとは言っていない。だろう?

・1.25 新しいセッション方針を探すも、GMが打ち切りを宣告する。

   ex)上の状態から更に君は行きがけの駄賃にと領主の館を襲うと? ほぉ?

・1.5 PCの意図による全滅。

   ex)オーケー、君のキャラが社会的に死んだのは確かに不幸だ。

     だが、戦闘開始と同時に裏切って神官を刺し殺した理由にはならんな?

・1.75 大勢が意図して全滅、或いはシナリオの崩壊に向かう。

    GMは静かにスクリーンを畳んだ。

   ex)そのまま戦い、バラバラに蛮族領域に逃げる意図は認めよう。

     しかし、何だってそこで態々正騎士狩りが必要なんだ?

     誰か私に教えてくれ。

・2.0 メインシナリオの崩壊。キャンペーンの終了

   ex)GMは無言でシナリオを鞄へとしまった。

・2.0以上 神話の領域。

    0.5~1.75を経験しつつも何故かゲームが続行され、

    どういうわけか話が進み、

    理解不能な過程を経て新たな目的を建て、

    あまつさえ完遂された。

   ex)何故か君たちは蛮族領域まで数多の人属の首を連ねて到達し、

     名誉蛮族として永遠の名誉を得た……。

     で、私は君たちに経験点を配らないといけない? マジで?


※補記三(2019/2/8)

 読了語の後味をよくするため、以後時間が経った後書きに関しましては謝辞と雑談は削除し、順次解説や補足のみにしていこうと思います。


※補記四(2019/2/16)

 以後、初出の専門用語には注釈を付けていこうと思います。


・TRPG[テーブルトーク ロール プレイング ゲーム]

 いわゆるコンシューマのRPGを紙のルールブックとサイコロなどを使って人力でやる遊び。

 GM[ゲームマスター]と呼ばれる主催者とPL[プレイヤー]が共同して行う、筋書きは決まっているがエンディングと中身は決まっていない演劇とでも言うべきだろうか。

 PLはPC[プレイヤーキャラクター]をシートの上で作り、それになりきってGMが用意した課第をクリアしつつエンディングを目指す。

 現在多数のTRPGが発行されており、ファンタジー、SF、モダンホラー、現代伝記風、ガンアクション、ポストアポカリプス、果てはアイドルとかメイドになるイロモノまで多種多様。

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― 新着の感想 ―
クリスタニアのアレは、結局もう一本黄金伝説として出来たので 寧ろクリティカルでは? 久しぶりに思い出しました。
[気になる点] 未来仏の菩薩って、何だその自己紹介は…? 弥勒なら弥勒でいいと思うけど…? 何かの伏線なの? 基本構造はわたしの慣れ親しんだ、っていうけど、そもそもコンピュータRPGの基本構造はTR…
[一言] クリスタニアのアレはどのレベルだろう?
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