藍川高校恋譚。 「悩む先輩。」
本編のSSです。
時系列を叩き壊すような投稿です(汗
本編を読んでくださってる方は読んじゃうと
先がわかってしまっておもしろくないかもです。。
かなり軽ーくなってますので、音楽でも聴きながらどうぞ。
いつも肩口まで流された、黒に近い茶色の髪を。
弓道場にいるときだけは、白色の紐で結い上げて。
それでいて「女扱いするな。」って、ムチャクチャなことを言う先輩。
いつもなら黙々と弓を引いているはずなのに。
今日は積み上げられた畳の上に座り込んで、的の方を向いてボーッとしている。
「せんぱーい? 猫でもいるんですか?」
「・・・。」
こっちをジトーッとした目で見るものの、返ってくる言葉は無し。
そしてまたすぐに、的の方に目を向ける。
組み交わした手で膝を抱えながら、大きく溜め息をつく。
この横顔に、抱きしめたいという想いをどれだけ我慢をしているんだろう、俺は。
「・・・誰か、好きな人でもできたんですかぁ?」
「なっ・・・ば、ばかっ、んなわけないだろっ!」
誘いで振っただけなのに、おもしろいように反応してくれる先輩。
いつも凛としてカッコイイのに、こうして崩れる一面がまた耐えられない。
押し倒したいという衝動を押さえ、笑いかける。
「冗談ですよー。」
「・・・ばか。」
「で、何かあったんですかー?」
「・・・。」
紅くした顔を腕の中に沈めて、ぽつぽつとしゃべりだす。
「・・・明後日からだろ。」
「?」
「お前んちの家族旅行。」
「あー、そんな話もありましたねー。 ・・・それがどうかしたんですかー?」
「・・・三日間―――」
「え?」
消え入りそうな声を聴き取ることができず、思わず聞き返した。
そしたら沈めていた顔を少し上げて、またジトーッとした目でこっちを見て、
いつもなら「なんでもない。」で片付けてしまうのに、今日はなぜか。
「・・・三日間、暇だっつってんだよ。」
「・・・。」
「・・・なんだよ。」
「・・・え、あ、いや。」
一瞬、なんて言われたのかわからなかった。
「・・・。」
「携帯ちゃんと持って行きますからー。 メールとかで話できるじゃないですか。」
「・・・電話しろ。」
「え?」
「日が変わるたびに電話しろ。 さもないと帰ってきたときに殴る。」
「・・・。」
「・・・だから、なんだよ。」
「えっと、先輩・・・。 言ってて恥かしくないんですか?」
「なっ・・・べ、べつにっ・・・」
嫌ならしなくてもいいって言いながら、また腕の中に顔を沈めようとした先輩の腕を引っ張って。
一気にバランスを崩した先輩が、俺に倒れ掛かってきて。
突然のことに驚いている先輩を抱きしめて。
「な、なにすっ・・・」
何か言おうとする先輩の口に、キスをした。
触れるだけの小さなキスで、俺としては満足できないんだけど。
腕を張って俺から離れ、顔を背けた先輩を見たら。
ま、いいかなって。
「了解しましたー。 ちゃんと電話しますよー。」
「・・・ばーか。」
紅い顔でジトーッとした目をこっちに向けて、また小さくまるまってしまう先輩が、
すごくかわいく想えた。