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WANTED MAN  作者: 青鷺 長閑
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Page 05:懸賞金と大富豪

 まったく、大した一日だった。


 あれから。


 指名手配犯は逮捕され、関わっていた俺も十数分ほど事情聴取を受けた。俺は犯人と遭遇した経緯から追っかけた動機に至るまで、全てを話した。

 いくらかの説明を終えた時点で聴取官の一人が「大丈夫、シロだ」と他の人達に囁いたのが聞こえた。何だ、疑われてたのか俺?




 そんな、人生初の事情聴取にしては場に合わないくらい他愛無いことを考えて――



 懸賞金を、受け取った。


 それ即ち、30000000円也。漢字で表すと端的になる。三千万。

 目の前の札束に眩暈を覚えるね。

 

 もちろん、そのままドーンと俺が渡されたのではない。

 両親の携帯電話番号を訊かれて答えた小一時間後に物凄い形相抱えてやって来た。やはり未成年とあって、両親を介してでないと俺はもらえないんだな。

 父さんと母さんは俺の待つ休憩室に来るとすぐに二人の警官に別の談話室に来るよう言われた。もちろん悪い意味ではない。

 奥開きのドアの窓越しに見える様から察するに、何やら色々と手続きをしているらしい。

 その間、俺は手持ちぶさただったので座っているソファの横の本棚にあった何週間か前のジャンプをパラパラと眺めていた。

 こんなの警官の誰が読むんだ、と思ってよくよく本棚を見れば、日本三大少年マンガ雑誌の残り二つも揃っているではないか。

 あんまりジロジロ眺めているといい加減通りかかる警備員の視線が痛いので、大人しく最初に手に取った雑誌を適当に流し読みすることにした。


 思い返してみればクジなんて馬鹿馬鹿しいものだった。正則も白丸駅で降りるんだから、クジなんてやってないで早く帰ってれば良かったのだ。そうすれば千五百万ずつ貰えたかも知れないのに。

 すると何だろう。俺は三千万を手にしたと。だから、これからどうなるのだろう。

 大富豪。

 そんな言葉が頭によぎった。

 今まで、貧しいとは言わないまでも決して裕福ではなく、財政面では思い通りにいかないようなことも昔から多々あった。

 両親が共働きだからといって父親だけが働いている家庭と比べて差はあるわけじゃない。むしろ家族との時間が減って、他の家庭より幾分貧相に思えた。

 家族の温もり。何に飢えていたとしても、ただそれだけは欲しかった。

 でも、得られなかった。

 みんなは当たり前のように享受しているものが、俺は受けられなかった。

 もちろん、それは共働きの家庭に育った人なら誰しも感じることかも知れない。

 でも今までの俺にとって、問題はそんなことではない。俺がそんな家に生まれ育ったこともまた、例外でなく「不運」なのだと思ったから。

 それは、自分じゃどうにもならないことだから。誰のせいにも出来ないから。

 誰にも、分かってはもらえないから――


 しかし、だからこその今だった。

 生まれてこのかた、自分を幸運な人間だなんてこれっぽっちも思ったことがなかった。

だから、だからこそ今まさに一種の大きな「Lucky」だと思えるのだと。

 もちろん、これはクジなんかとは違う。指名手配犯を見かけた時点の「追わなきゃ」という自己判断も大きな要因である。


 だがそれ以上に「運」だった。


 正則の誘いを断って先に帰ったこと。

 駅のホームで指名手配ポスターを見たこと。

 見た顔を憶えていたこと。

 男の前で、それを即座に思いだしたこと。


 そして、偶然そこに犯人が歩いていたこと。


 いくつもの偶然が重なって、今俺はあんな大金を手にしたのだ。

 それが最大の悦びだった。


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