Page 04:Lucky finds Unlucky
「はぁ~あ……」
光彦が路頭で声を張り上げている頃。
正則はもう声も出ない溜め息をついていた。
「……はあ」
今日何度目か分からない溜め息を今一度ついて、正則は考えた。
クジなんて当たらねぇ。
昨日と同じスクラッチをもう一度買い、それでも外れた正則は躍起になってもう一口、終わってみればそれを二十五回も繰り返していたのだ。
全てが当たらなかったわけではない。一口、五百円だけ当たりを出した。しかし、
「結局二千円も損したじゃねえかよ……」
持ち合わせをほとんど失い途方に暮れた正則は、一人寂しく帰りの一途を辿っていた。
「止まりなさぁい!」
光彦は走っていた。
脂肪分たっぷりのくせ犯人はやけに足が速く、追いかけ始めてから十分経った今でも追いつけずにいた。これは持久戦になるな。
いやしかし、あっちはここら辺の地理には疎いようだ。こちとらそれは救いだったな。
なぜそんなことが分かるのかと言うと、今犯人が全力疾走している先――距離にしてエジプトのスフィンクスとそれが見つめるケンチキくらいの――には、哀れかな白丸警察署が凛として建っているのだから。
そしてここから先はずっと一方通行になっている。俺も不思議に思うのだが、警察署がゲームに出てくる城宜しく道の一直線上に建っているのはいかがなものなのだろうか。
さて、閑話休題としても、これからどうなるのだろうか。アイツはもう袋の鼠で逃げられない。ごくわずかな、家と家の隙間とかはあっても通りがけに見つけ出してすぐ方向転換出来るほどのものではない。このままだと本当に俺は御用の始終をお目にかけることになるぞ。
目的地まであと100メートルといったところか。傾斜があったので見えなかったがそろそろ署の屋上が見えてきた。
俺がそう思ったのとほぼ同時に、犯人は足を止めた。もうコイツに逃げ場はないので3フィートほど先に俺も止まることにする。
こっちを振り向く。俺がいる。
右を見る。電柱が立つ。
左を見る。生け垣が行く手を阻む。
そして、前を向く。恐らく警察署門前まで行けばまだ横に分かれ道があるのだろうと思ってるのだろう。
だがそんなものはない!
俺は止めた足を再び前に踏み出した。じわじわと犯人との距離が詰まっていく。
遂に門のまん前までたどり着き、犯人はいよいよ逃げ道を失った。
しかも運の悪いことには扉から二人の警官が出てきた。何ていうかもう犯人の後頭部からマンガのような汗が見えるみたいだ。
警官はすぐに目の前の油ギッシュな男が指名手配犯と分かり、駆け足で迫った。
俺もそれに合わせるように三割ほどだったスピードを八割に上げる。挟み撃ちだ!
とうとう指名手配犯は観念したのか、今際の一言を、こうのたまった。
「投了」




