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第四話 恐怖の追いかけっこ

 ガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチ


 押忍(おす)! 俺、滝馬(タキマ)

 今現在の状況を報告する。


 簡潔に述べますと、甘味を求めてチャレンジ精神出したら、食人木(しょくじんぼく)と鬼ごっこになった。

 普段の俺なら、危険なリンゴなんかに手を出そうとはしない。

 でも、異世界デビューして、クレイジーな性格になったのかもしれない。

 こんなの、初めてだ。ハッハッハーーッ……。


「って、笑ってる場合じゃねー!! ギャアアァァァーーッ!! こっち来んなーー!!」

「グギャアアアアッ!!」


 リュック背負って、森の中を爆走中。

追いかけて来るのは、虹色リンゴを実につけた木だ。

 リンゴだけにあった凶悪な顔は、幹部分にもできていた。


「キシャーーオッ!!」


 木なのになんか速い気がする。

そこはノロノロ歩いて来るところではないのか? 追いつかれたら、本当に食われそうだ。


「木に食われるなんて、勘弁してくれ!」


 捕まれないように本気(ガチ)で走る。

 甘味欲しさに俺がもぎ取ったリンゴの持ち主は、食人木(しょくじんぼく)と呼ばれる存在だった。

 地球にはもう存在しない伝説の生き物だが、俺は今それに追いかけられてる。

 いきなりだが、ここで豆知識。

 食人木と言えば、マンドラゴラが有名だ。

 ほら、映画とかおとぎ話によく出でくる引っこ抜いたらギャーギャーと騒ぐ木がいるだろう。

 その悲鳴を聞いたら人間は苦痛を感じて悶え死ぬそうだ。


 でも所詮伝説の話だし、そんなの信じてなかった。が、オレの後ろにいるのは姿形違えど、食人木。


 なに? 人を食べるかどうかなんて分からない。まだ決まったわけじゃないって?

 そんなこと仰ったそこの御方、忠実に試したりなんか出来ませんからね?

 それを実証したら、俺の身に危険が及ぶ。

 食べられてから、食人木でした、では遅いんです。俺も自分の命が可愛い。


「まだ来るのかよ。なんつー執念」


 渾身の逃げなだけあって、俺と食人木との間には徐々に差が出てきてる。

 だが食人木、諦めない。

 長距離が好きわけではないが、このまま行ったら俺は捕まるのではないだろうか?

 体力に自信はあるけど、永遠に走ってられるわけじゃない。

 休んでる間に追いかけてきたら終わる。


「そもそも燃えたりするのかアイツ?」


 植物なら燃えたりしそうだが、簡単に火がつくとは思えない。

 食人木自体が湿気(しけ)っていたら火がつかない。


「川とかに逃げ込んだら、助かったりしそうだけど、逆に俺が溺れるよな」


 川底が深かったら、流れされて溺れるかもしれない。

 それに不幸重なって、滝とかあったら確実にお陀仏(だぶつ)だ。

 ネガティヴに考え過ぎたと思うんだが、悪運が重なるような気がする。


 背後にいる奴とか見れば、その典型だ。よりによって手を出した相手が伝説の人食い植物の食人木。運が悪過ぎる。


「何かしら行動を起こさないと。んー、川でも飛び越えて、追いかけてくるか見てみるか」


 川幅にして四メートルの小川が前方に流れてる。

四メートルを飛び越えるのは簡単なはず。

 助走つけて跳ぶのは、日本人なら誰だってやったことがある。


「荷物を投げておいて……助走つければ飛び越えられるな」


 反対側に荷物だけ投げてから、自分も助走をつけて飛ぶ。

 俺が中学時代に通っていた学校は、比較的小さい学校だった。

 そのせいで陸上部の特設部員として大会に出された経験がある。

 人数少なく、先生に言いくるめられての強制出場だ。

 あの時は文句ばかりいいながらやっていたが、今この歳になって、役に立ってしまった。


「さてと。あいつはどうするかな?」


 川底が浅かったら、渡ってくることも考えられる。渡って来ないのなら、俺の作戦勝ちだ。


「キシャォ……グギギギ……」


 川の先に俺がいるのを見て、悩んでる食人木。

 迷ってるなら、諦めればいいのに思うのだが、どうやら渡るようだ。

 多分、アレにはストーカーの素質がある。


「ふーん、先ずは根っこで水を触って」


 ちょんちょん水を触ってる行動が可愛い。が、騙されないぞ。

 さっきまで凶悪な殺人犯の顔だったのだ。

 今になって、乙女(おとめ)らしくしたって、先程の素行は見逃せない。


「おー、渡ってくる」


 いつでも逃げられるようにしておきながら、食人木の行動の観察をする。

 真ん中まで渡ってきて、自分だったら渡れそうだなと思ったようだ。

 顔がまた極悪人に戻った。


「キシャキシャキシャォ…………グギ!? グギギギギ……」


 声立てて笑っていた食人木。

 だが、川の端に根っこをかけた瞬間、その体は動かなくなった。


「ん?」


 首を傾げて、食人木を見つめる。

 どうやら川の両端を根っこで掴んで、何かに耐えているようだ。

 その行動はまるで、川の流れに流されないように踏ん張ってる姿そのものだった。


「…………」


 動けなくて焦る食人木を見ながら近く。

 え? それ見たときの俺の顔?

 もちろん満面な笑み浮かべてましたけど、何か?




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