第三話 食虫植物ならぬ食人木
適当に焚き火を起こしてから、俺の飯作りは始まった。
ちなみにあの電子音は無視である。
消せば良いと思う人もいるかもしれないが、電波通じて電話掛かってきて気付かなかったら、それこそ悲劇だ。
可能性低いにしても、気付けるように通知はオンにしている。
この電子音が鳴っても、極力無視すれば良いのだ。耐えるぞ俺。
「異世界って電波通じるのか疑問だけどな。それにしても遭難したにしては、昼食豪華だよな~」
先程とった魚に、枝を指して火の回りでこんがり調理。
グリルとかで焼いたりするのが日常だが、野外でやると、これはまたこれで良い感じになる。
……と言うのは、悲しい現状を紛らわすためだったりする。
やはり一番は、自動スイッチに任せて調理だ。
楽だし、いい感じに焦げ目つく。
目の前にある魚のように、無残な姿にはならないはずだ。
テッテレ~♪
無視、以上。
「そろそろいいよな? こんなに黒くなったんから、食べれると思うだけど……」
土にさしてる枝を手に取り、魚を突っついてみる。
黒く焦げた皮の部分を落とすと、中身は川魚特有白く焼け、無事であった。焼けたのは外側の部分だけなようで、中身は食べれそうである。
「では実食。頂きまーす。ハム、フハッ、熱っ!! 水だ水っ」
かなり熱い。
舌が火傷しそうだ。ってか、若干火傷した気がする。
でも、落ち着いて味わえば、塩加減が程よく効いて、なんとも美味しい。
塩を持参してて良かった。
「モグングゴクッ……。んー、なんかに似てると思ったら、川沿いの温泉で昔食べた鮎の塩焼きの味に、ほんの少し似てるのか」
昔、鮎の塩焼きを食べたことを思い出した。
塩焼きを売っている店は、どこか潰れそうな様子であった。
茶色のトタン屋根で錆びていて、店主がいかにも昇天しそうな年配の老人だった。
本当に見た目からして、人も寄り付かなさそうなのに、何故か、客は多く入っていた。
見つけた最初は、不思議で仕方ならなかった。
だが、そこの鮎の塩焼きを食べて直ぐにその理由に気付いた。
俺だって、家で塩焼きぐらいは食べた事がある。
その時は、コレが一番美味しいと思ったが、釣った直後に食べる塩焼きの方が断然美味い。
そこでしか味わえないからこそ、あのオンボロ店には客が入るのだ。
そうでなきゃ、今頃潰れてる。
「ふぅ~、ごちそうさま」
空腹を満たすように二匹目の魚に口を付け、味わい尽くすように食べた。
だがふと思う。
お腹は膨れたか、なんか物足りない、と。
食後のデザートとか食べたい気分だ。
贅沢?
だが、食べたいのだから仕方ない。
一瞬チョコレートの事が頭によぎるが、今食べたいのはあの甘さではない。
果物とかのあのサッパリした甘味を欲している。
そう、例えばリンゴとかのような……。
「食べれるのとかの確認も必要だよな?」
虹色に輝くリンゴを見る。
外見に無駄に養分を回してるんだから、中身が美味しくなかったら詐欺だ。
美味しいことを祈るばかりである。
「なんかよろしくない雰囲気を感じるけど、毒とかあったら食べなければいいわけだし。何事もチャレンジだよ」
毒の検査としては、パッチテストと呼ばれるものが有効だ。
果物の汁を腕につけて、炎症が出たら毒だということ。
安易に毒物を口に入れないための知識として、持っておいて良かった。
手を伸ばし、木からブチッと虹色リンゴをもどき取る。
携帯用ナイフで汁を出して、一応パッチテストをする。
「こんなもんだな……。ブッ!? やたらと凶悪な顔の柄してるなこのリンゴ」
三角の白眼が二つ、ギザギザに割れた口が一つ。
こちらを凄味ある目で見てくる。
これで頬のあたりに、バッテンの傷があったら、完全ヤの付く方々だ。
面白いから、どうせなら付けてやろう。
「これはこれは……ブッ、アハッハッハーー!! これは傑作だ。カメラに、ッ!?」
SNSとかあったら投稿したい。
そう思って写真を撮ろうと思った時、リンゴに不穏な動きが見えた。
俺の目がおかしいのだろうか?
ギザギザな口が、親指を噛みちぎろうと動いた気がした。
こうバグっと……。
「な、なんだコイツーッ! 口がパクパクしてる!」
歯を噛み鳴らす音がするリンゴ。ホラーっぽくて気持ち悪い。
「お前なんか、あっちにい行ってろッ!!」
遠くに思いっきり投げる。
これで一安心かと思ったら、歯を噛み鳴らす音の爆音で耳が痛くなる。
ガチガチガチガチガチ……。
はぁ、寒いわけじゃあるまいし、こんなに歯を鳴らすとか凄いわ。お兄さん感心感心(棒読み)
って、そんな悠長なことをしている場合じゃない!!
※第二話のタイトルを変更しました。