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警視庁悪魔犯罪対策課24時  作者: 三野直夜
1/1

始まり

「新入社員代表、深海真澄さん。前へ」


はい、と返事をするのは私だ。

コツコツという靴の音は、広いホールに反響する。

マイクの前まで来ると、今年の新入社員200人が一望できる。

その光景に嫌でも私は背筋を伸ばす。


「私たち新入社員は、各署において悪魔犯罪の防止、鎮圧に従事し、住民の安全の保護に全力を尽くすことを、ここに誓います」

私が言い終わると同時に、新入社員は右手を左の胸に当てる。バッ、と腕を動かす音が一瞬で起きて、消える。

右、左、前へ礼をして降壇すると拍手が巻き起こった。


4月から始まった3ヵ月間の研修が終わり、いよいよ明日からは現場配属だ。頑張らないとな。

先ほど誓った言葉を、私は心中で改めて誓った。



目覚まし時計は正確な時間に鳴ってくれる。

最も、その正確さは目覚まし時計の中のものだが。

「遅刻だ遅刻だー!」

目覚まし時計の短針は7に向いていたが一方で、スマホの時計は8:00を表示していた。

どちらが正しいかは火を見るより明らか、いや、日を見ると明らかだった。

ドタバタと寮の部屋を駆け回り、制服を着て鏡の前に立つと、こんな日に限って寝癖もひどい。しかし落ち込んでる時間も今の私には残されていないのだ。急いで寝癖を直し、化粧を施す。その間わずか10分。急げば勤務開始時刻の8時半には間に合う。

朝食抜きはやむを得ない。

靴べらも使わず革靴を履き、部屋の鍵を閉める。私は脚に力を込め、寮から署までの10kmを時速60kmで走り抜けた。


署に着いた時、腕時計は8時20分を示していた。初日の新人にしてはギリギリになってしまったが、事情を説明して謝罪するしかない。


(あれだけ出だしが肝心だーとか言ってたくせに?)

「うるさいわよ!あんた、起きてたなら私のこと起こしてくれても良かったじゃない」

(今起きたのよ、悪かったわね)

はあ、とエレベーターで深い溜息をつく。

怖い人ばっかだったらどうしよ…。

静寂が下りると、急に不安が押し寄せてきた。

上手く職場に馴染めるだろうか。ミスしたりしないだろうか。あぁ、怖い怖い。

チーン、という音とともにエレベーターのドアが開く。この15階が、私がこれから勤める悪魔犯罪対策第一課のあるフロアなんだ。


【悪魔犯罪対策第一課】

ドアに書かれた表札?を見て、私は深呼吸をした。

大丈夫。大丈夫。自分に言い聞かせて、ドアノブを回した。

「おはようございます!」

心中の恐れを掻き消すように、私は礼と同時に大きな声で挨拶をした。

「おはようございます」

聴こえてきたのは澄んだ女性の声だった。

パッと頭を上げるとそこには6つのデスクに椅子。キーボードを打ち込む女性と、そして椅子に凭れて眠っている4人の男がいた。

「えっと、これは」

状況が飲み込めず女性の方を見ると、あははと苦笑いを返してくれた。

起きてるのは彼女だけだ。

「ごめんね、ちょっと今立て込んでて」

眼鏡を外しながら女性の先輩は私の疑問に答えてくれた。長い髪に黒縁の眼鏡。目は大きいけど鋭くて、だ正に出来る女って感じだ。

「えっと、深海真澄さんよね?」

「はい、そうです!その、今日から宜しくお願いします!」

先ほどの声量そのままに答えたが、眠っている先輩方?を見て口を手で覆った。

「そんなに緊張しなくていいよ」

柔らかく笑う女性は、私に自己紹介と現在の状況に至った経緯を教えてくれた。

「私は悪魔犯罪対策第一課、A1班特別事務役の柏夏奈です。」

よろしくお願いします、と答えるとこちらこそ、と返してくれる。良かった、すごくいい人だ…。

「えっと、それでこの状況は…」

デスクの方を見ると、誰一人先程から動かず器用に椅子で眠っている。

「今ちょっと厄介な案件があって…私以外みんな徹夜明けなのよ…」

「あぁ、それで今寝てるんですね…」

徹夜しなきゃいけないなんて、きっととんでもない激務なんだろう。

連日起こる悪魔犯罪。その対策の第一線ともなれば多忙なんて当然。徹夜も当たり前のことなんだろう。

私はついていけるだろうか…。再び不安の波が押し寄せてくる。

「それはどんな案件なのでしょうか」

真剣な表情で尋ねる私とは裏腹に、柏さんは苦笑しながら答えた。

「下着泥棒」と。


「下着泥棒…ですか?」

連続殺人犯の追跡、だとかテロリスト、だとかを思い浮かべた私はそのスケールの小ささに思わず驚いてしまった。

だが、私が思っている以上にこの下着泥棒は厄介なものだった。

「悪魔の力で、透明になれる男がやってるのよ」

そう、悪魔の力を悪用して下着泥棒を行っているというのだ。

「所謂、特級よね」

柏さんの言う特級とは、悪魔の憑依による身体強化とは別に、今回の透明化のような別の力を持つ悪魔とその主のことを言う。

この力は十人十色で、魔力によって打ち消すこともできない。

悪魔犯罪対策を困難にさせる一番の原因だ。


しかし、こういう犯罪の対策のために私はこの課に来たんだ。

これは私の力を見せる千載一遇のチャンス。


「私ならこの案件、解決できると思います」

柏さんに向けて言うと、驚いた顔をして「どういうこと?」と私に疑問を投げかけた。

その疑問に私は簡潔に答えた。

「実は私も、特級持ちなんです」


私の中の悪魔はかつて魔王の部下、参謀として幹部を勤めていた自称『知略』の悪魔。

彼女は特級と呼ばれる能力を2つ有している。ちなみに特級を2つ持つ悪魔というのはかなり珍しく、未だ世界でも数例しか確認されていない。

私の悪魔、ソラに宿っているのは『索敵』と『通心』。

魔力がほかの人に比べて低かった私がここに配属できたのは、恐らくソラのこの能力のお陰だろう。

今回も、ソラの持つ能力が役に立つ。

『索敵』は微弱な魔力を発し、その反射や減衰の仕方で相手の位置や数を判別することが出来る。つまり見えなくても相手の位置が分かるのだ。これなら透明人間にも有効な力を発揮する。

「ということなんです」

説明を終えると柏さんは「すごいわ!」と机に身を乗り出して私の手を握った。

「これならあのクソ野郎も逮捕できる!」

グッ、と私の手ごと拳を握る想像以上の柏さんの熱量に若干圧されたものの早々に役に立つことが出来てよかったと思った。

「早速作戦開始ね!」

柏さんは立ち上がり、手に持っていたボールペンで眠っている先輩方?を片っ端から叩き起した。

よし、いよいよ初仕事だ。しかも自分の得意分野なんだから、いいとこ見せないと。気合いを入れるため頬を叩くと、頑張ってというソラの声が心中に響いた。

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