出現
どうも。ananです。
寒くなってきました。
寒すぎてうまく入力できません。
そんなわけでどうぞよろしくお願いします。
普通の人間よりは少し優秀な会社員であるタカシは、マンションの二階にある自室に帰宅するとすぐにビールを開けた。
テレビをつけても「5000gの赤ちゃん!」なんて適当な番組ばかりで、すぐに消した。
グッとビールを飲み干し歯を磨く。
明日の俺の誕生日を祝ってくれる人もいないと思うと少し寂しくなったので今日は早めに寝ることにした。
いつも通り出勤して嵐のように仕事を終える。
飲み屋の勧誘をかいくぐって帰路につく。
裏路地が羨ましい。
今は、光の当たるとこじゃなくて、薄暗い、もしかしたら真っ暗で何も見えない道を歩きたい。日常には疲れた。たまには刺激が欲しいものだ。
みんなが言う。
お前はできる。
俺達がいる!
皆で頑張ろう!
俺は……
ビルとビルの隙間に巨大で肌色のなにかが見えた。
それはゆっくりと移動し……
目が合う。
目……?
突然背後で叫び声がした。
「泥棒よ!!あたしのバッグ!!誰か!!」
思わず走り出して飛びついて取り押さえる。
「ありがとうございます!ありがとうございます!」
はぁ……ヒーローごっこばっかりのなんて虚無な人生……
帰宅し、ひとりでビールを開ける。
「誕生日おめでとう。」
今日はゆっくり休もう。
いつもより少し高級なツマミで酒をあおる。
今年で28歳。三十路を前にして、人生への希望は薄れゆくばかり。
…今日もやっぱり早く寝よう。
ふと目が覚める。やけに騒がしい。
救急車や警察車両のサイレンが聞こえる。
明日も仕事なんだから勘弁してくれよ……
外でなにかあったのか?
窓を開けようとした。
とんでもなく熱い。手を火傷した。
火事だ。
急いで靴を履き、バッグをつかんで部屋着のまま外に飛び出す。財布、スマホや充電器はバッグに入ったままで助かった。
こんなときに眺めは悪くても下層に住んでいてよかったと実感する。
泣き声、叫び声、怒号や建物の崩れる音。
炎がまい、火の粉が散る。
そこはガレキの山と化した商店街。
俺の住むマンションのすぐ前。
おそらくこの騒動の元凶と思われるものは誰の目にも明白だった。
赤ん坊だ。おそらく15mはこえている。
赤ん坊だと思う。姿形は完全に赤ん坊だが、こんなに巨大な赤ん坊が……
事態を飲み込めないまま、しかし確実なる逃走本能に任せて走り出した。
わけのわからないことを叫んでいたかもしれない。とにかくパニックだった。
近くの小学校が避難場所になっていた。
体育館に入り、壁に寄りかかる。
そこで、泣きじゃくる母親らしき女。
「タカちゃんが……タカちゃんが…」
走り疲れ、そのまま寝入ってしまいそうになっていた。こんな状況でも睡魔は襲うんだなぁと……
それにしてもひどい誕生日だ。
俺が非日常を望んだりして、「日々生きられる幸せを大切にしなさい」とかって、神様が怒ったのかも。
そのとき体育館のドアを開け放ち入ってきたのは防護服に身を包んだ20人ほどの部隊。
「皆さん今いる場所から動かないで!」
巨大なものへの恐怖は、いわゆるホラーとは少し違うところにあると思います。
ananです。
次回もお楽しみに。