つまり一目惚れってこと
叫び出したいのを必死にこらえ、階段をかけ降りる。
廊下ですれ違った人に奇妙な顔をされても気にしている暇はなかった。
足の動きをゆるめずに走り続けると昇降口の下駄箱に寄りかかりスマホをいじっている友人の姿が見えた。
「楓なんで走ってんぐふぉっ…!?」
走ってきたそのままの勢いで飛びつくと、言葉を遮ると同時にゴンッという大きな音が昇降口に響いた。
「あぅあぁ…あのね…っ!?いいいい今いまそこでで…っ!」
「落ち着け」
挙動不審になっている楓を不機嫌顔の咲が一喝する。
私のせいで靴箱にぶつけた頭を痛そうにさすりながら。
息を吸っては吐くのを繰り返して心を落ち着かせてから口を開く。
「…えーと、つまり、準備室に行ったら下着姿の女の人が抱き合っていたと」
一通り成り行きを説明すると、話の途中で一言も言葉を挟まなかった咲が平然と言った。
「うん…」
「まあ、あり得ることでしょうねぇ。だって女子高だし?」
そうなのだ。ここは女子高。
女の人同士で付き合っているという話などはよく聞く。
だから今はそこが問題なのではないのだ。
問題なのは…
「その女の人がね…私の…タイプの人だったの…!!」
「は…?」
うん、そう言いたくなるのは分かるよ。でも聞いて、そんな呆れた顔しないでくだせぇ。
「すっごい美人さんでね、脚と手が細くて長くて…あの人がきっと私の運命の人だよ!」
絡み合う二つの身体。
けれども、楓の目には一人の姿しか写っていなかった。
柔らかな笑顔の彼女の口から見え隠れする舌。
暗くても分かる身体のライン。
優しい手つきでもう一人の女の人に触れるその姿はもう綺麗としか言いようが無かった。
完全に心は奪われていた。
私は、17年間生きてきて初めて一目惚れをしたのだった。