偶然という名の出会い
私の妄想すべてを詰め込んだ作品です。
多くの方に楽しんで読んで頂けたら幸いです。
その時、楓の瞳には眩しいくらいに澄み渡っている青空と、目の前に立つ先輩の姿だけが映っていた。
「重いなーこれ。何も私1人に任せなくたって…」
廊下でひとりぼそぼそと文句を零す。
両手にはずっしりとした重み。
それもそのはず、何十冊という教科書を持っているのだ。
係とかそういう事では無い。
ただちょっと国語の授業中に長い瞬きをしていただけなのだ。
部活がない今日は早く帰れると思っていたのに、パシられるなんて計算外だ。
まあ、全て自業自得なのだけれど。
ふと窓に目をやると外からはどこかの部活の活気のある声が聞こえる。
ランニングでもしているのだろう。
私には到底無理な労働だ。
考えただけで疲れる、と小さな溜め息をついた時にちょうど国語科資料室に着いた。
片手で教科書を支えながら、倒さないようにゆっくりとドアノブをまわす。
資料室の独特な匂いが鼻をつき、思わず顔をしかめる。
ーーーこの匂い、苦手。
中は薄暗く机の上にはファイルなどが散乱し、沢山のダンボールが置いてある。
あまりにも物が多く、人1人がぎりぎり通れるくらいの広さしか無かった。
息を止めつつ入口のすぐ近くにある机の上に教科書を置く。
場所は特に言われていないから取り敢えずはここでいいだろう。
早く帰ろうと向きを変えたとき、教室の奥から何やら音が聞こえた。
空耳だろうかと思いつつ振り返ると、また音が聞こえ、今度はそれが人の声だとはっきり分かった。
その時、ホワイトボードやダンボールで遮られた向こう側を見てしまったのは、ただの好奇心からだった。
その光景にすっかり不快な匂いのことも忘れて息を吸ってしまったのは無意識だった。