第一章:相談
1時間だろうか2時間だろうか・・・・そうした禅問答にも似た思考を延々と繰り返していると健吾がパーティチャットを開いた。
健吾『・・・・今確認が取れたぞ・・・お前たちの分も含めてな・・・』
大樹はインベントリ整理の指を止め健吾を見る、俺も思考の波から顔を出し健吾の方を向く。
健吾『まず俺たちの体についてだが・・・・もう既に焼かれて骨になっているようだ・・・』
分かっていた答え、間違えないだろうと確信していた答え・・・・・だがそれでも俺の心は鉄のように重くなる。
健吾『向こうの時間は水曜日の夜12時、俺の友人の家は3年前に引っ越して番号を変えていたから実家から連絡出来なくて俺の連絡で初めて知ったみたいだ・・・・ここまではいいか?』
大樹と俺は言葉無く頷く、そして健吾が話を進める。
要するに俺たちは4日程意識が無い状態だったということだ。
健吾『・・・まず俺たちの死因は、あの日運悪く俺たちの住むボロアパートの悟の部屋のアンテナにでっかい雷が落ちた、そして雷はまずアパートを停電にして、ヘッドセットを通じて悟を焼き殺し、俺と大樹の部屋まで届き、ヘッドセット越しに俺たちも焼き殺した、死体が見つけたのはいきなり停電になった上にお前の部屋から大きな物音が聞こえて煩かったから文句を言おうとして訪れた大家だ、ドアの隙間から焦げ臭い煙が出てるのに気付いて大慌てでマスターキーで開けたらヘッドセットから煙出してる悟を発見、知り合いの俺たちにも連絡しようと向かったら同じ匂いがして開けたらおんなじようになっている、これが死んだ直後の話だ、何か質問は?』
息が必要ないので健吾は一息でここまで話した。
何も言うことなんてない、現実を早く知りたい俺たちは黙って見るだけだ。
それを質問が無いと受け取った健吾が話を続ける。
健吾『あとは・・・身内が死んだらどうなるかわかるよな?早急に通夜が行われて葬儀もしめやかに終了・・・・俺たちの体は焼かれて小さな骨壺の中だ。俺たちの部屋も特に壊れた部分とかは無いみたいで荷物を家族が取っ払って綺麗にされたようだが今後は死人が出た部屋ってことで少し家賃が安くなるみたいだぞ」
健吾はチャット内で自嘲気に笑う。
だが紳士然とした顔の方は本心を表しているのかいないのか2人に真剣な視線を投げかけている。
健吾『あと俺の友人だが昔から真面目で頑固なことが幸いして俺たちを助けるために動いてくれているみたいだ。今は運営の方に直接連絡を取って貰うようにお願いしたところだ・・・・とは言っても運営がすぐに返事を返してくれるかどうか・・・』
俺『・・・ゲームの出来はいいけど運営はあんまりよろしくないからな・・・・バグ対応も遅いし・・・』
大樹『・・・そういやヴァンパイア族の吸血バグ酷かったよな・・・・1回でも使うと吸血以外では回復しなくなるやつ』
俺『・・・・あの時はボスにして放置するゲームになってたな・・・・』
運営に対するぼやきが入る、あまり期待できないが願わくば早急な対応がなされることを祈ろう。
そして外に関する事案に一段落ついたので俺はもう一つの事案を提示する。
俺『それで・・・俺たちは何をすればいいのかな?』
健吾『俺に聞くなよ・・・・と言いたいところだが考えなきゃいけないよな・・・』
大樹『こんな体になっても・・・死にたくないしな・・・』
俺たちの行動はリアルな命がかかっている。
あまり迂闊な行動はとれない、何が間違って死んでしまうかわからないからだ。
(・・・・いや、現実の俺はもう死んで骨になってるからもう死んでるのか?)
そう考えながらぼやく、少しの練習で思考とチャトでの発言の意識の差がなんとなくわかってきている。
俺『それにしても俺死んじまってるのかぁ・・・・・』
口に出してみると思ったより平気な自分が居る。
多分もうどうにもならないから諦めているんだろう、例えこの状況が魂だけの状態と仮定しても帰る器が無ければどうしようないだろう。
大樹『・・・結局彼女出来なかったな・・・』
俺『・・・そうだな・・・・特に好きな子が居たわけじゃないけど・・・・かわいいのはいたけど・・・』
健吾『あ、お前の葬儀にすっげぇかわいい子が「どうして死んじゃったの!?好きだったのに!!」って・・・』
俺『マジで!?』
(誰だ!?一体誰だ!?もしかして水曜18時の講義の時の早瀬さんか!?あ、あの子彼氏いたわ・・・・それじゃあ歳の割に色っぽい金曜20時の森次さんか!?それともかわいい系の英語担当の杉下さんも可能性が・・・!!ああ、何てこった!!今になってすっごい後悔の念が沸々と出てきたぞ!!)
俺はなんて惜しいことを・・・・と考えながら俺は頭を抱え一体誰なのか記憶の中から答えを模索する。
健吾『・・・・・というのは嘘だ』
ニヤリと健吾が笑う。まるでいたずらが成功した子供のようだ・・・・いや、成功したのだ。
(まぁわかってたよこん畜生めが!!どの子も手がかからなくて楽な子だから接点がほとんどねぇよ!やべぇよ無駄に興奮しすぎて賢者タイムだよ俺、それと大樹こっちを憐みの目で見るような動作すんな!)
心の中で健吾とそれに引っかかった自分に対する呪詛を吐き散らす。
表に出さないようにするので精いっぱいになり無言になる。
すると健吾が柔らかな口調で語りかけてくる。
健吾『・・・・多少は落ち着いたか?』
俺『・・・どうもありがとうございますぅ・・・・』
大樹『ふふっ、いい大人がすねんなよ、気色わりぃ』
俺『うっせぇ』
そういうやり取りをしていると皆いつもの調子が出てきた。
(やっぱりシモな話題は盛り上がる、これは万国共通であり万能であると論文で発表するべきだろう。イグノーベル賞をとれること間違いなしだと思うな。)
そう無駄なことを考えられるほどに俺は余裕が生まれていた。
健吾が俺と大樹を見てリラックスできたのを確認する。
健吾『・・・とにかくだ、自棄を起こさず慎重に行動しよう、もしかしたら現代でスーパーコンピュータの電子頭脳的な何かに入れられて体の代わりに接続されたロボットを動かす的な素敵展開に発展するかもしれないしな』
言われてみればそういう展開もあり得なくはないのかもしれない。
仮定だが俺たちは今、体を持たないネットのデータ出来な存在だ。
そこから俺たちのデータだけを抜き出して大容量のコンピュ-タ内で行動できるようになればそこから道が開けるかもしれない・・・・すごくSFチックだが嫌いではない発想だ。
大樹『ペッ○ーとかあるからできなくはないのかもな』
俺『ロボの体とかなんかやる気がムンムンわいてくるじゃねぇか!』
その後それぞれ自分はどんなロボットになりたいとか妄想話に花を咲かせる。
(悪くない・・・・うん、悪くない妄想だ。消えてしまうとか死んだことを考えるよりずっといい、希望があるって素晴らしいことだ!今だけお気楽で妄想豊かなオタクで良かったと思うぜ!)
それを見て大丈夫だろうと判断したのかいささか緊張感を持った口調で健吾が話し始める。
健吾『・・・よし、それじゃあそんな輝かしい未来のために今俺たちが出来ることはなんだ?』
健吾も話していて余裕が出てきたのか調子が戻っている。
俺『とにかく今は生き残ることを重視しようぜ、ステは最強クラスにはなってるんだから下手こかなければ生きるのは問題ないだろう?』
大樹『だな、もうここへは誰も攻めてこれないし腹は減らないから外へ出なくてもいいし外から対応してくれるまで籠城っていう手もある』
健吾『そうだな、あまり派手に行動しない方がいい・・・・が情報は少しでも欲しいから誰か全逃げで外へ偵察に出るのはどうだ?』
俺『いや、できるだけ固まって行動する方がいいだろう、3人ならどうにかフォローできる場面も多いと思うし』
大樹『そうだな、まぁ平日だしプレイヤーも少ないだろうからそこまでからまれることもないだろう』
健吾『了解、それじゃあ3人で行動するとして・・・・』
その後俺たちは何を重点的に調べるのか、どの場所を調べるべきかなどを細かく決めていった。
もちろんその案がだめだった時の対応も考えてだ。
普段だったらめんどくさくて「プランB」やら「臨機応変に」という感じになるが命がかかっているのでかなり真剣に穴が無いかきちんと詰めていく。
そしてようやく話がまとまった。
健吾『それじゃあまず拠点で装備を整えて比較的大きくて情報が集めやすそうな悪側の街「ゴブリン城下町」に行くこととする。街中でのPVPは禁止されてるから大丈夫だろうが無暗に因縁をつけないように粛々と行動すること、おk?』
俺『おk』
大樹『おk』
こうして確認をした後3人はそれぞれ準備のためダンジョン内に作られた自分たちの拠点へ赴く、その足取りは思ったよりも軽かった。