第一章:遭遇
短いです
3人は入口を見て固まっていた。
入口にはレア武器を背負い、強力な防具を纏い、力強い覇気を漂わせる5人の冒険者が立っていたからだ。
一人一人が一騎当千の雰囲気を持っており、ゲーム画面で見ていた時とは比べ物にならない重圧を感じる。
だがそんな彼らは背筋を伸ばし、真っ直ぐ立った状態でこちらではなくどこか遠くを見つめるような目をしている。
試しに俺が少し動いても目線を向けることなくただぼーっとしている・・・・・・
俺「・・・・何か待っているのか・・・?」
大樹も訝しんで身構えている。だがこちらが身構えても動かない。
(もしかして意思は無く何者かに操られているのではないのだろうか?)
実際にそのような魔術は似たようなものがあることにはある。
だがその魔術はめんどくさい発動条件の上、10秒自分を行動不能にして相手を10秒操る使いどころを考えなければならないものだ。
もしもその魔術であるならばボーっとせずすぐに襲いかかるのが筋である。
しかし彼らは全く動こうとしない、セレクト画面に居る時のキャラの方がまだ生き生きしている程にだ。
そのようなことを考えていると健吾が何か気付いたようである。
健吾「・・・もしかして・・・・それなら・・・・いや・・・・」
俺「な、何か分かったのか!?」
紳士「・・・・・多分だけどあいつら・・・・・」
ロ ー デ ィ ン グ 中 だ ! !
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?
俺「え?ちょ・・・・え?」
紳士「・・・・うちのダンジョンって他のダンジョンよりもダンジョン内に居る人数が多いからな・・・・前に俺のネトゲ友達がうちに来たときぼやいてたからさ・・・・」
確かにそういうことを挑戦者に言われたことはある。
だがそれはゲーム内の時の感想だ。
俺「・・・・もしもそれが正しいとしたらさぁ・・・・ここって・・・・」
紳士「ああ・・・・異世界とかいうのじゃなくて・・・」
・・・・ただ単にオンラインゲームの中ってことだ・・・・・
俺は薄々ここがゲームの世界だとは気が付いてはいたが、あくまでゲームと似た「異世界」に居るのだと思っていたのだ。
しかし現実は「異世界」ではなく本当に「ゲームの世界」なのである。
扉を使わず転移で侵入、ローディングで硬直・・・・ここまで一致点があるとそうであると判断せざるを得ない。
俺「あれ?だとすると・・・・もしかして外部と話すことが出来るんじゃ・・・・」
大樹が「それだ!」と俺を指さす。
健吾「ああ、そうだ・・・・多分それで行ける・・・んじゃないかと・・・・思う・・・・」
俺「だったら・・・・」
健吾「だけどそろそろローディングが終わる、それからは・・・・戦いだぞ・・・・」
俺は何を言っているんだという怪訝な表情を浮かべる。
俺「俺たちは大樹みたいに喋れないわけじゃないだろう?だったら・・・」
健吾「・・・・お前このゲームで戦闘中に敵のセリフを聞く?」
俺「そ、それは・・・・」
確かに聞かない、そもそもこのゲームでは街のNPCぐらいしかフルボイスでしゃべらない。
戦闘中ではメッセージウインドウに発言が出てくるので聞こえるのは人族でも「わー!」とか「おー!」とか「てやー!」とかそういう掛け声ばかりだ。
モンスターならなおさら「グオー!」だの「グルルル・・・」だの唸り声がバックで響くだけである。
加えて結局どちらも魔術の発動音やスキル使用音でかき消されてほとんど聞こえない。
逃げ道がないことを理解し思わず苦々しい表情になる。
俺「やるしか・・・・・無いのか・・・・」
健吾「・・・・正直見過ごしたいが・・・・・どうしようもないしな・・・」
俺は喉を鳴らして生唾を飲み込んだ。
ここへ来る道には隠し扉のほかにレベル制限のワープ門が備え付けてある。
そこはレベル80以上でないと侵入できずそれ以外の偶々入り込んだ低レベル冒険者はダンジョン入口まで送り返してくれる謂わば救済措置施設である。
そこを抜けてここに居るということは彼らは全員レベル80以上の冒険者であることが確定だ。
このゲームはレベル70ぐらいまではイベントや初心者特典などでかなりスムーズに上げることはできるのだがそれ以降は経験値の必要量が跳ね上がり、経験値増大アイテムなどが無ければかなりの時間を浪費しなければならないのでレベル100にするのは苦行とも言える。
そしてそのレベル帯に足を踏み込んで10もレベルを上げている連中が何もできない弱いやつであるはずがない
例えあったとしてもそれは例外を除いて他人かbotで育てた不届き者かID乗っ取りの犯罪者だろう。
俺「・・・・ちっ!」
思わず舌打ちが出る。
まだこの世界のことが何もわかっていない、魔術、スキルは使えるが自身がきちんと痛みを感じる。
もしもHPを0にされて死亡状態にされてしまったらと考えると思わず体に震えが走る。
この世界には蘇生アイテムは存在し現在所持している、加えて蘇生魔術もあり、使える。
だが本当にそれで「生き返る」ことが出来るのかという疑問が浮上する。
俺という存在が消えゲームキャラの「サス」だけが残るのではないのか?
沸々と沸いて出る疑問を頭を振ることで追い払い敵を見る。
だが思った以上にローディングが続いているようで敵はまだ立ち尽くしたままだ。
俺「・・・・なぁ」
健吾「・・・・なんだ?」
俺「あいつらいつまでローディングしているんだ?」
健吾「・・・さぁな、でもこれはひょっとしたら・・・・」
そう話していると5人の中の1人、如何にもシーフの装備をしたエルフが一瞬で消えた。
それを見て健吾が驚きが混じった声を上げる。
健吾「鯖落ちか!?」
鯖落ちとはゲームデータを保存している場所とプレイヤーの使用するPC間での通信状況が悪化、もしくは途切れることで強制電源OFF状態になってしまうことで、つまり今のシーフエルフの人は今ゲーム再起動中であるということだ。
俺「これは俺たちに風が来てるんじゃあ・・・・」
健吾「いや、時間切れのようだ・・・・」
俺が話している途中で冒険者たちが覚醒し活動を開始した。
・・・・・・それはつまり俺たち3人の命を懸けた死闘が幕を切って落とされたということである・・・・・・・・