第一章:生活について
ちょっと短めです
数時間後
俺「・・・・・こんなもんか?」
健吾「そうだな、いやぁこの広間がダメージを受けてもすぐに回復するつくりで良かったな」
大樹うんうんと頷く。
俺「それじゃあまとめたのをもう一度確認するぞ?」
数時間の研究でわかったこと(ゲーム時代との共通点含め)
・ここは魔法が使える世界だった
・メニューは「開きたい」と考えながら空中で指でコンと押すようにすれば開くヘルプやお問い合わせ番号も書いてあるがつついても反応無し
・インベントリはゲーム時代と同じ格子状の枠にデフォルメされたアイコンが表記されるタイプで出したい場合はアイコンをつつけば手の上に出て、しまうときは別枠の「所持品」という枠があり、その中に今自分が持っているアイテムのアイコンがあるのでそれを押すとしまえる。
・スキルも魔術もスキル名・魔術名を発言すると発動する
・種族専用のスキルも普通のスキル同様スキル名を発現すれば使える
・MPが半分以下に減ると疲れる、1/4はもっと疲れる、使い切ると気分が悪くなるが動くのに支障は無い
・HPが減ると息が切れ動きづらくなるが攻撃された部分が痛むとかは無い
・HP・MPは待機するとじわじわ回復する(ゲームと同じ)
・腹が減らない、喉も乾かない、催さない、ポーションをいくらかけても飲んでも割っても効果範囲内なら回復はする、だがお腹いっぱいにならない、味は無い
・一応家事スキルや魔術で飲めそうな水とかは出せるしインベントリに肉とかはある
・バフ、デバフは結構効くのがわかる
・空気は必要なようだ(大樹除く)
・これまでに起こったことはログに表示される
俺「・・・・今はこんな感じかな?体感できるようになっただけで
ほとんどゲームの時と変わってないってことになるか?」
健吾「おそらくな・・・・まぁ衣食住の必要が無いって知れてよかったよ」
俺「ほんとな、そうでなきゃ数が限られた食えるかどうかわからん肉と
水で飢えをしのがなけりゃならないしな」
健吾「・・・試しに肉食ってみるか?」
俺「・・・そうだな、最悪の可能性もあるしな」
そう言うと健吾はインベントリの中からイベント時に大量に倒したネームドハイエルフと一緒に出没し大量に倒さざるを得なかった熊のようにでかい狼のベアウルフから得た肉を取り出した。
見た目は少々赤みが強いがそれ以外はボタン肉のような感じの何の変哲もないものだ。
手に持たせてもらうと身が詰まってるずっしりとした重さと滲んできた血のぬめぬめ感で少し気持ちが悪いが食べれなくはなさそうに見える。
健吾「・・・寝ぼけて売り忘れててよかった・・それじゃあ調理スキルを発動させてみるぞ」
俺「おう、任せた」
俺はその肉を健吾に返す。
健吾はインベントリから簡易竈とフライパンを持ち出し「調理」と唱える。
するとスキルが発動したらしく手際よく器具を使いその場で調理を始めた。
数分後、「近き王の間」はこんがりと焼ける肉のいい香りが広がっていた。
そして健吾の手には、皿に載せられ程良い焼き色が付けられ、脇にはスイートキャロットとパセリ別の小皿に濃口のバーべキューソースとマスタードソースが添えられた見た目も匂いも楽しい逸品が乗せられている。
果たして竈とフライパンだけでこの料理を彩る全てを作ることが出来るのだろうか?という疑問が浮かぶ。
俺「・・・・どうやった?」
驚愕の視線で料理と健吾を交互に見ながら質問をする。
すると健吾も自分の料理を見ながら戸惑いの表情を浮かべ答えた。
健吾「しらねぇよ、俺も気付いたらこうなってたんだよ・・・・てか俺料理できねぇし・・・」
俺「え?」
大樹も同じように「え?」という感じで健吾を見る。
料理は行ったことは無いが高級レストランで出てきても遜色ないほどの見事な、まるで美術品のようにバランスのとれた美しさがある。
そんな逸品を料理が出来ない素人が作ったというのは少々無理がある話だ。
健吾が嘘をついているのではと一瞬考えたが、面倒なことが嫌いな彼はエリートな経歴に見合わず休みの日は大量に買い置きしてある安売りのカップラーメンを啜り、寝間着を部屋着として使い、普段着は高校時代に来ていたものを今でも使っているという貧乏大学生のような生活を送っている事を思い出し、それを考えてみると料理が出来ないというのも嘘ではないと言えるだろうと納得した。
むしろそのようなズボラな彼がここまでの料理をできるようにするスキルこそ驚愕すべき存在だ。
俺「・・・・それじゃあ毒に耐性がある俺が食ってみるぞ」
健吾「解毒剤はたくさんあるぞ」
大樹は健吾がインベントリから取り出し水を入れた鍋をもち「いつでもぶちまけてやれるぜ!」とばかりにアピールする。
どうも健吾に笑われて力が抜けたのか素の面が行動に浮き出ている。
喋っているわけではないが行動一つ一つから感情を垣間見ることが出来、非常にコミカルだ。
そんなことを考えつつ料理に向き直る、置き場所が無いので大理石の肘置きに皿を乗せ、なぜか一緒に備え付けられたナイフとフォークを使い肉を丁寧に切り分け口へ運ぶ。
息をのむ健吾と鍋を持つ手に力を込める大樹、むぐむぐと咀嚼する俺、結果は・・・・・・全く味がしない。
噛んでいる感触は一応あるが舌はこの肉を「味がまったくないあったかい氷こんにゃく」のようなものと判断した。
スイートキャロットは「ぬるくて硬めの寒天」、パセリは「味のない草」、バーベキューソースやマスタードソースですら「片栗粉を溶かしたようなドロドロとした水」にしか感じなかった。
健吾にも食べさせた結果、同じ感想を述べた。
(食べる必要が無いので味が無い、もしくは味覚がつぶれているのか?)
それは「生きる」ということを目標にするのであれば問題ではないが、これは「生きている」ではなく「存在している」だけで生命の定義としてはかなり問題になるのではないだろうか。
いくつもの疑問を頭に浮かべながらふとログの表示に目をやる。
ログには今現在の食事の結果が更新されていた。
・セーバスはベアウルフのステーキを調理した
・サスはベアウルフのステーキを半分食べた
HPが5%回復した
・セーバスはベアウルフのステーキを半分食べた
HPが5%回復した
と表示されている。
「ディファレントワールド」の世界では食べ物にもポーションのような回復効果等がつく、だがポーションのように普段から持ち歩いて使えるものは少なく、効果も薄い。
逆に手が込んでいて高級な素材を使った普段持ち歩けないようなものであれば高い効果が望める。
この料理「ベアウルフのステーキ」は大量に肉を手に入れられるわりにHPを5~10%回復できる中級者にはありがたい回復手段の一つである。回復量は製作者のスキルレベルにより決まる。
ゲーム時代に使った覚えはあるが、一部例外を除いた大抵の食事はガツガツガツという音とともに数秒で食べきる程度の食事風景のため全く記憶に残っていない。
それはともかく、この世界では料理としての味は無くても、アイテムとして体力は回復するようだ。
となると高級ステーキだろうが血が滴る生肉であろうが目を瞑れば同じなので
食事を楽しむということは無いだろうという考えに至り、思ったよりも落ち込む。
食べれないであろう大樹も少し俯いている。
俺と大樹は食事に時間をかける方で、出来合いのものは買わずいつも自炊していた。
特に大樹は警察学校で出てくる食事に納得がいかないようで、帰って来たときには凝ったものを作りじっくり味わっているようである。
対して健吾は先述の通りそこまで食事にうるさくないので、食べなくて済むのもそれはそれで良いと考えているようだ。
そうこうしていると・・・・
ガチャガチャ
と閉まりきっている鉄と黒檀の扉の取っ手部分が回される音が聞こえた。
そしてギィーっという軋む音を立てながらゆっくりと開く。
こちらは虚を突かれてそれぞれインベントリを覗いたり、料理が乗っていた皿をしげしげと眺めたりポーションの中を確認したりなどそれぞれ行動していた体をそのまま硬直させ頭だけ扉の方へ向けた。
扉の向こう側にはだれもおらず3秒ほどそのままの状態で何も起こらなかったが4秒経った時、開かれた扉の前に
「5人の冒険者」が転移されてきた。